Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

sky-high

文字の大きさ
上 下
75 / 125
ワガママエースの過去

少年時代7

しおりを挟む
「おい、コラ天海!何や、これは!」

ロッカールームで先輩野手がスポーツ紙を突きつけた。


「なになに…アイツらのせいで勝ち星が遠のく…はぁ~、こんな事が記事になるんか」


「ホンマにこんな事言うたんか?」


「言うたかなぁ…何せ、言った事いちいち覚えてへんし」


先輩野手は声を荒らげる。


「お前、ルーキーの分際で何エラそうな事言ってんねん!誰のお陰で初勝利になれたと思ってんねん!」


「誰て…そら、オレに決まっとるがな」


「ふざけやがって…新人のクセに口の聞き方も知らないとは、生意気なヤツや!」


口の聞き方も知らない。

今まで何回、いや何千回と耳にした言葉だ。


「グラウンドに立てば、先輩後輩関係あらへん!優劣決めるのはココちゃいまっか」


やんちゃ坊主みたいな顔で右腕を指す。


「ほぉ、そんだけ自信があるなら勝負せい!」


「ええで」


スタジアムで一打席勝負をした。


「ええか、オレが三振したらお前の勝ち!オレがフェアグラウンドに打てばオレの勝ちや!」


「何でもええで…どうせ、オレの球にはカスリもせえへんやろから」


マウンド上で欠伸をする。


「この…ふざけたマネしやがって!」


打席で鼻息荒くバットを構える。


「ホナ、行くで」


初球、胸元を突くストレート。


「オット、外れたか」


「インハイを攻めるとは、いい度胸してんな」


「そら、どうも」

二球目はアウトローにストレート。

バッターは手が出ず。


「これでワンボール、ワンストライや」


「ええから、サッサと投げんかい!」


バッターはカッカしている。


「ほな、三球目っと」


ノーワインドアップからの三球目はフワッとしたスローカーブ。


「ぐっ…」


タイミングを外され、ボールはド真ん中へ。


「これでツーストライクや」


「やかましいっ!まだ勝負はついてへんわ!」


ベテランがルーキーに翻弄されている。


「これで終いや!」


四球目は全力で投げた。


グオォと唸りを上げた速球はインコース低目ギリギリに決まった。


「速っ…」

バットを出すが振り遅れた。


「そやから言うたやん、オレの勝ちやって」

さも当然という表情でマウンドを降りた。


「くっそォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」


ベテラン野手はバットを叩きつけると、パキッと折れた。


プロに入っても、少年は高校の時と変わらずエラーをする野手に向かって罵声を浴びせる。


「この、ヘタクソ!何年やっとるんじゃ!」


「アカンアカン!あんなヤツ、サッサと替えてぇな!」


「どこ見て投げてるねん、このドアホ!」


周りは自分よりも年上の選手ばかりだが、遠慮無しに詰る。


「おい、新人!テメー、さっきから何生意気な事言うとんじゃ!」


「新人がどないした!アンタら、その新人の足引っ張るマネしとるやないか!」


「ナメた口叩きやがって!」


「パイセーン、ほんなら勝負しましょか?」


事ある毎に野手と揉め、勝負をして力で黙らせた。


ルーキーながら既に大物の雰囲気を漂わせ、チームでは王様の様に振る舞う。


少年が入団した年の監督は高崎 正志(たかさきしょうじ)という、初老の人物で現役時代の大半はドルフィンズの二軍で過ごした。

選手としての実績は無いが、堅実な采配でリーグ制覇を成し遂げた。


その高崎監督にも平気で毒づく。


「アンタ、現役の時どんだけ結果残したんや?所詮は二軍の落ちこぼれやないか!」


「キサマ、図に乗るのもいい加減にしろよ!」


「ハイハイ、分かった分かった!ええから、早よベンチに戻れや!」


マウンド上で追い返す事もしばしば。


生意気だが、実力はルーキーながらトップクラス。


ルーキーイヤーに13勝6敗、防御率2.53 奪三振は237とトップ。

文句無しにアポロリーグの新人王に輝いた。


二年目は早くも開幕投手を任され、完封勝利を飾る。


この年、ドルフィンズは怒涛の快進撃を見せつけ、二位の千葉ヤンキースに6.5ゲーム差を付けて優勝。


チャンピオンズカップではこちらもスーパールーキー二刀流の翔田率いる東京キングダムと対戦。

4勝2敗で見事日本一に輝いた。

少年は初戦と第六戦に登板、完封勝利を含む2勝を挙げMVPに輝いた。


シーズンでは21勝4敗 防御率1.64 289奪三振に加え、最高勝率、最多完封という偉業を成し遂げグレイテストピッチ賞とMVPを獲得。

シーズンとチャンピオンズカップの同時MVPは史上5人目。


早くも年俸は一億を越えた。


こうなると、誰も彼を止める者はいない。

良い成績を挙げる度に傍若無人に振る舞い、誰の言う事も聞かない。


【監督を監督している】とまで言われるようになった。

こうして、少年は球界を代表するエースと称されるようになった。



暴君として知られるが、家族想いで兄や姉が結婚するまで援助して、今では世帯を持った兄妹の為に豪邸をプレゼントする心優しい一面もある。


(何がなんでも、家族を養わなアカン)

この一念だけで周囲との軋轢を生じながらも、夢を叶えた少年はこの先どんな行動をとるのか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

戦いに行ったはずの騎士様は、女騎士を連れて帰ってきました。

新野乃花(大舟)
恋愛
健気にカサルの帰りを待ち続けていた、彼の婚約者のルミア。しかし帰還の日にカサルの隣にいたのは、同じ騎士であるミーナだった。親し気な様子をアピールしてくるミーナに加え、カサルもまた満更でもないような様子を見せ、ついにカサルはルミアに婚約破棄を告げてしまう。これで騎士としての真実の愛を手にすることができたと豪語するカサルであったものの、彼はその後すぐにあるきっかけから今夜破棄を大きく後悔することとなり…。

致死量の愛と泡沫に+

藤香いつき
キャラ文芸
近未来の終末世界。 世間から隔離された森の城館で、ひっそりと暮らす8人の青年たち。 記憶のない“あなた”は彼らに拾われ、共に暮らしていたが——外の世界に攫われたり、囚われたりしながらも、再び城で平穏な日々を取り戻したところ。 泡沫(うたかた)の物語を終えたあとの、日常のお話を中心に。 ※致死量シリーズ 【致死量の愛と泡沫に】その後のエピソード。 表紙はJohn William Waterhous【The Siren】より。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

処理中です...