Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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ワガママエースの過去

少年時代6

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奈良ドルフィンズの球団関係者が一位指名の挨拶に訪れた。



「こんな狭い所ですが、どうぞお上がり下さい」

父親と兄妹はプロ野球関係者を目の前にして恐縮する。


しかし、少年は平然と契約金の話を切り出す。


「そんな事より、契約金はなんぼくれるん?」


「昴!お前、いきなり何を言うとんねん!」


「そうやで、いきなり金の話をするヤツがいるか!」


「何言うてんねん、オレを一位指名したんやろ?だったら、契約金の話をするのは当然の事やろ」



「申し訳ありません…こんな不出来な息子でして」


父親はひたすら頭を下げた。


(何、ヘコヘコしとんねん!こんなヤツら、使いの者やろうが。そんな相手に謙ってどうすんねん!)


父親の姿を見て侮蔑した。


球団関係者は奈良ドルフィンズというチームについて色々と説明するが、少年は欠伸をして退屈そうにしている。


「そんなしょーもない事クドクド言わんと、単刀直入なんぼ出してくれんのん?」


「昴!お前は黙っとれ!」


父親が一喝する。


「決めるのはオレや!オレが指名されてんねんで!」


「えーっと、契約金はですね…一億という事なんですけど…」


「アカンアカン!何や、一億て?一億五千万にしてや!」

強気な姿勢で契約金を釣り上げてきた。


「お前、何アホな事言うとんじゃ!せっかく、こうやって挨拶に来てるのに、さっきから何や、その口の聞き方は!」


兄が堪らず少年の胸倉を掴んだ。


「何すんねん、何で金の話したらアカンのや!一番大事な事やろ!」

手を振りほどき、尚も契約金の話に突っ込む。


「一億五千万…ですか」

関係者の顔が引きつる。


「そやで、最低でも一億五千万!これ以上はびた一文負かんで!」


「あの、その…とにかくもう一度改めてご挨拶に伺います」


関係者は出直すと言って去っていった。


(一億でもええけど、税金で持っていかれて手元にはそんなに残らん。一億五千万なら、家一件買える程の金は残るやろ)


少年には少年なりの考えがあった。



そして二度目の挨拶の時、契約金一億五千万とエースナンバー18の背番号という条件で入団を決めた。



契約金が手に入ると、少年は家族の為に一軒家を購入し、残りの金で兄や姉に大学へ行く為の学費にした。


「兄ちゃん、姉ちゃん、これで大学へ行ってくれ!オレはこれからプロでぎょうさん稼ぐさかい、気にせんといてや」


「スバル…」

「ありがとな、スバル…」


弟からの粋な計らいに兄たちは涙を流す。


不器用だけど、家族を想う気持ちは強い。



少年は自主トレをこなし、2月のキャンプインでは早くもブルペンで全力投球をする。


「ほぉ~、ルーキーがこの時期155km出すなんて、スゴいなぁ」


コーチが驚きの声を上げる。


紅白戦を経て、オープン戦に突入。


ここでも少年は結果を残し、開幕一軍のキップを手に入れた。



初登板は開幕三戦目の長野ニックス戦。


初回から157kmの速球でニックス打線を圧倒する。


スライダーやフォークも冴え渡り、勝ち星こそ付かなかったものの、無失点11奪三振という内容だった。



「クソっ、何で指名打者制なんかあるんや!これやったら、ネプチューンリーグのチームに行けば良かったわ!」


打線の援護が無かったせいで勝ちに繋がらなかった。


もし、自分が打席に立ったらヒット、いやホームランを打って勝ちに出来たのに、と。


ルーキーの頃から向こうっ気が強く、相手が誰であろうと臆する事無く突っかかる。


初白星は三試合目の登板で2失点の完投で飾った。


「ようやく勝てたわ!ホンマ、打線はアテにならん!」


誰もいない所で言えばいいものを、よりによって記者達の前でこんな事を言うのだから、翌日のスポーツ紙は一面で載せた。


【ルーキー天海 野手はダメ!アイツらのせいで勝ちを台無しにしている】

こんな記事を載せられたら、ドルフィンズの野手は黙っちゃいない。
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