Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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ワガママエースの過去

少年時代5

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二年生になると、少年は今まで以上にハードな練習をこなす。


少年の頭の中には、甲子園で優勝してドラフト一位に指名される事しか無い。


こんなところで足踏みしてる場合じゃないと、ひたすら野球に打ち込んだ。


少年が野球に打ち込めば打ち込む程、周りとの間に溝が生じる。


「何してんねん、そんなボールも捕れへんのかっ!」


「あんな球打てないようじゃ、辞めてまえ!」


「こんなヘタクソなヤツらがバックじゃ、甲子園なんてムリや!」

少年は部員に罵声を浴びせる。


「おい、天海!お前一人で野球やってんやないぞ!」


「エラーなんて、誰でもするやろ!何で、そんな言い方するんや!」


「だったら、お前一人でやれや!」


険悪なムードが漂う。


「上等じゃ!そこまで言うんなら、オレ一人で勝ってやるわい!」


夏の予選で少年はアウト全てを三振に獲るという離れ業をやってのけた。


「見てみい!オレの言うた通り、一人で勝ったやろ!オマエらにこんな事が出来るかっ!」


部員達は何も言えなかった。


実力は飛び抜けているが、仲間との信頼関係がゼロだ。


少年にしてみれば、自分だけの実力で勝ったワケで他の連中はオマケみたいなもん。


少年は快進撃を続ける。


ピッチングは冴え渡り、ストレート、変化球共に精度を上げてもはや手の届かない存在となった。


当然の如く予選を制し、夏の甲子園出場を決めた。


初戦を16奪三振の力投で完封勝利を飾ると、二回戦は登板を回避した。


「オレの出番はこれで終わりや」


「どうした、ケガでもしたんか?」


少年はクレバーだ。

プロで活躍するなら、ここで肩の酷使だけは避けたいと考えるようになった。

自分はまだ二年生、来年もあるし優勝するのは三年生になってからの方がインパクトも強いし、肩を休める。


「オレはこんなところで肩を酷使したないねん」


自分勝手な言い訳だが、誰も咎める者はいない。

監督でさえも、少年を腫物のように扱う。


当然の事ながら、少年が登板しないとなると二番手のピッチャーが投げる事になるが、実力は格段に落ちる。

初回から滅多打ちに遭い、13-1と大敗。



試合後、部員達が涙を流して甲子園の土を袋に詰めているのを尻目に少年は一足先に球場を出た。


「アホかっ!土なんて、どこも一緒やろが!」



その後、少年は練習に参加しなかった。

投球練習はせずに単独でトレーニングを行う。


出来るだけ肩を休め、体幹と下半身を鍛えた。


その甲斐あって、三年生に進級するとストレートは160kmに到達した。


(よし…これで夏の甲子園は優勝や)


最後の夏の予選、少年はそれまで三振を獲るピッチングにこだわっていたが、打たせて取るピッチングに専念した。


部員達を信用したワケではなく、三振を獲るには球数が多くなる。

打たせて取るピッチングをすれば、余計な球数が減るし、肩にも負担がかからない。

その計算通り、省エネピッチングで予選を勝ち抜き甲子園出場を決めた。


「さて、こっからが本番や!」


少年は全力投球で相手をねじ伏せた。


球速は160kmをマークし、話題を独占する。


チームは危なげなく勝ち抜き、決勝戦も少年の独り舞台で勝利。


深紅の優勝旗を手に入れた。


(こんなもん、いらん!オレに必要なのは金や!)


早く大金を手にして家族を楽にさせたい。

幼少の頃、家族の存在が苦痛だったが今は自分が家計を助けるしかない。


その為にはプロに指名される事、しかもドラフト一位で。


少年の描いたシナリオは思惑通りに進んだ。


秋になり、プロの球団スカウトが挨拶に訪れる。

中には栄養費と称した金銭を渡す者もいた。

豪勢な食事に招待してくれる関係者もいた。


少年はどの球団でも良かった。

自分を一番評価してくれる球団に行くというスタンスは変わらない。


そしてドラフトの日。


少年を一位指名したのは5球団。


クジ引きの結果、交渉権は奈良ドルフィンズが獲得した。


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