Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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ワガママエースの過去

少年時代3

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それからというもの、少年はナイフの如く尖った様に周囲の人々を傷つけた。


「どけぇ、ジャマや!」

「何しとんじゃ、ワレ!」

「いてまうぞ、コラ!」

何かと因縁をつけてはケンカをする日々を送った。


「おい、昴!お前また暴れたんかっ!」


「あぁ?それがどうした!何をしようが、オレの勝手やろ!」


「ふざけるなっ!」


バシーン!

父親とのやり取りで初めて手を上げられた。


「ってぇーな、このクソオヤジ!」


「親に向かって、その口の聞き方はなんだ!お前なんか、もうウチの子供やない、さっさと出てけ!」


「おー、上等やないか!こんな息苦しい家なんぞ、二度と帰るか!」


少年は家を飛び出した。


とは言え、アテなど無い。


トボトボと歩いた。

着の身着のまま出て行ったせいか、学生服のままでサイフも持ってない。


「腹減ったなぁ」


空は薄暗くなってきた。


「何で、大人はオレの言う事分かってくれへんのや…」


そんな事を思いながら、土手沿いのグラウンドで足を止めた。


「野球か…中学入ったら野球やりたかったのに」


少年は野球をやりたかった。しかし、環境が許さなかった。

野球さえ出来れば。

野球をしていたら、同級生とケンカせずに済んだのに。


少年はグラウンドに立ち、目を閉じた。

脳裏に焼き付くのは、野球チームに入って皆と練習したあの日。

帰り道、自転車に乗って皆と一緒に帰ったあの頃。


あの時と比べると、今はケンカばかりして満たされない日々を送っている。


「このままじゃアカン…オレは野球をやりたいんや」


少年は決心した。オレは野球をやる!と。

オレから野球を取ったら、何も残らない。

荒んだ生活を送るぐらいなら、野球をやろう。


(大人がゴチャゴチャ言ってきても、オレはオレの道を進むだけや)


少年はその日家には帰らなかった。


公園で野宿をして翌朝学校へ向かった。


その足で野球部に入部届を出した。


「野球やるって事は坊主頭になるんだぞ、ええのか?」


同級生が意志を確認する。


「坊主頭だろうが、モヒカンだろうが何でもええ!とにかく野球がやりたいんや!」


学校が終わると近所の床屋に行き、少しだけ伸ばしていた髪をバッサリと切った。

バリカンで極限まで短く刈り上げる。


鏡に映った頭は見事な程の五分刈りで、内心後悔した。

(いや、これも野球やるためや!)


自分に言い聞かせる。


床屋を出て真っ先に学校へ向かい、部室に入った。


「この通り坊主頭にしてきました!そやから、野球部に入れてください!」


こうして少年は野球部に入部した。


小学校を卒業して以来、野球はやってなかったが、天性の野球センスでみるみるうちに上達。

ちょっと教えただけでカーブやスライダー、フォークをマスターした。

ちょうど成長期に差し掛かり、小さかった身長は雨後の筍みたいに伸び始め、175cmにまでなった。


成長と同時に球速もアップした。


軟球で最速138kmをマーク。


「ほー、これはスゴいな。中一でこのスピードやから、順調にいけば160kmも夢やないな」


野球部の監督は少年に期待する。

少年もその期待に応えるように、練習試合では三振を獲る。

打っては長打、投げては三振と言った具合にチームを引っ張る。

その噂は名門校のスカウトにも知れ渡り、グラウンドの周りには各高校のスカウトが見学に訪れた。


これで順風満帆かと思いきや、神は少年に試練を与える。


中二に上がって二学期を過ぎた頃、少年の家庭環境は大きく変わっていった。


折からの不況により、父親の勤めていた会社が巨額の負債を抱え、民事再生法を適用。


その結果、ライバルの大手企業の傘下として再出発をしたのは良いが、父親をはじめとする役員達は閑職に追いやられてしまう。


プライドの高い父親はこれを良しとせず、辞職してしまった。


無職となったが、父親は株をやっていて金には困らなかった。

だが追い打ちをかけるように、株が大暴落し借金と化した。
そのせいか、家庭内では父親と母親の口論が絶えなかった。


再就職先も見つからず、家で酒に溺れるようになり、母親は愛想を尽かして家を出た。

収入源が途絶えた為、兄は大学生だったが、中退して家計を助ける為に働き、姉はまだ高校生だったが大学進学をあきらめた。

やがて住んでいた庭付きの豪邸も売りに出し、借金の穴埋めとして充てた。


残ったのは何も無く、父と兄、姉との4人で二間のアパートを借りて細々と暮らすようになった。

(このままじゃ、終われない!オレは絶対に野球選手になって、皆を助けるんだ!)


もう誰も野球を止める者などいなかった。

父親は酒浸りの生活から立ち直る為に警備員として働き始めた。

父親と兄の僅かな収入だけで苦しい生活を強いられた。

このままだと、高校へは行けない。

少年は考えた。

特待生で高校へ行こうと。

この日を境に少年の練習量は倍増した。


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