Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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ワガママエースの過去

少年時代

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約1ヶ月に渡る交流戦が終了した。


首位はスカイウォーカーズが、2位の東京キングダムと0.5ゲーム差という僅差で逃げ切った。


MVPは3勝0敗 防御率0.95 奪三振37の成績で真咲が選ばれた。

球界一の遅球王が今や投手部門を総ナメにするとは、つくづくピッチングとは工夫次第で成績が良くなるもんだと思う。


交流戦が終了して3日間の休養後、秋田に移動し東北マーリンズとの三連戦を控える。


マーリンズと言えば、先日天海を獲得したばかり。


しかし入団会見で鈴木監督の逆鱗に触れ、ぶっ飛ばされた挙げ句、二軍スタートとなった。


その天海は二軍で燻っていた。


「クソー、何で二軍なんや。あのカントク
、公衆の面前で殴りやがって」


全く懲りてない様子だ。


もはや天海をコントロール出来る指導者はいないのか。


「おい、天海。お前のピッチング次第では一軍に昇格出来るんだから、二軍とは言え気の抜いたピッチングをするんじゃないぞ」


声を掛けたのは、マーリンズ二軍の投手コーチ小池。


「はぁ?そんなもん、結果が分かっとるやないけ。サッサと、一軍に上げんかい!」


何故、天海はこうも毒づくのか。


どうやら幼少の頃、彼を取り巻く環境が原因みたいだ。




ここは大阪府岸和田市。


「スバルー、何してんや!早よ投げぇ」


「うん、ちょっと待ってえな」


ここは土手沿いのグラウンド。

地元の少年野球チームが練習をしている。


「ほな、いくでーっ」


「ちょっと待った!スバル届くのか、この距離で?」


同級生との距離はゆうに50mはある。


「大丈夫や、投げるで!」


少年は軟式ボールを全力で投げた。


バシーン!


「うわっ、ホンマに届いた!」


同級生はビックリしている。


「そやから言うたやん!この距離なら届くって」


「スバル、スゴいやん!」


「へへへっ」


生まれ持った才能なのか、少年は強肩だった。


小学四年生で身長もクラスでは低い方だったが、野球の才能だけはずば抜けていた。


速い球を投げ、特大のホームランを打つ。

チームでは勿論、エースで4番。


少年は野球をやっている時が一番楽しかった。

皆と一緒に白球を追い掛けるの一体感が大好きだった。


「よし、今日の練習はこれで終わり!」


【ありがとうございました!】


監督の号令で選手達は帽子を取って挨拶する。


練習が終わると、近くに停めてある自転車に跨り帰り道を仲間と一緒に通る。


「スバル、スゲーよな!何で、そんなに速い球投げれるんや?」


「背だってオレの方が高いのに、何で小さいお前があんな速い球投げれるんや?」


チームメイトが口々に不思議がる。


「何でって言われても…オレもよう分からへんねん」


屈託の無い笑顔で答える。


夕陽の中、坊主頭に泥だらけのユニフォームで自転車に乗り談笑ながら帰る。

この時、少年はずっとこのままでいたいなぁと思った。


「じゃあね、バイバーイ!」


「ほな、またなぁ」


「うん、バイバイ」


いつもの場所でチームメイトと別れる。


一人になった途端、少年の表情は暗く沈んだ。


自転車から降りて、押して歩いた。


自転車に乗ったままだと、早く家に着いてしまう。

一秒でも時間を掛けて家に着こうとする、少年なりの考えだ。


トボトボと歩いて行くと、三階建ての広い庭に囲まれた家が見える。


「はぁ~…」


少年は深いため息をつきながら門を開けた。



「ただいま」



「コラ、スバル!野球なんかしてないで、勉強しなさい言うたやろ!」


玄関では母親が物凄い剣幕で少年を叱った。


「だって、野球やりたいんや」


「ええか!アンタは野球なんかよりも、勉強して良い学校に入って、お父さんのいる会社に入らなアカンの!
野球なんて、何の足しにもならんから辞めなさい!」


父親は大手電機メーカーの重役という、恵まれた環境で生まれ育った。


しかし、少年は物心ついた頃から息苦しさを感じていた。


少年には5歳年上の兄と3歳年上の姉がいる。

二人とも成績優秀でテストは必ずと言っていい程100点満点だ。


しかし、末っ子の少年は根っからの勉強嫌いだ。

その代わり、運動神経は抜群で体育の授業や運動会では常に主役だった。

走るのも速く、球技も上手い。

鉄棒や跳び箱も難なくこなせる。




そんな少年が一番興味を持ったのは野球だ。


同級生達は地元の少年野球チームに入っていた。


野球をやりたい…

想いは日に日に募るばかり。


小学四年生に上がった頃、少年は両親に思い切って頼んでみた。


野球チームに入りたい。


しかし、両親は猛反対。


「そんな事より、勉強せい!」


「お兄ちゃんやお姉ちゃんを見なさい!ああやっていつも勉強してるから、いつも100点なんよ?アンタもそんな事するヒマがあったら勉強しいや!」


しかし、少年は食い下がる。


「勉強もちゃんとやるから!だから、野球チームに入れてぇな!」


どうせすぐに辞めるだろうと思い、親は渋々承諾した。

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