Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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天海の逆襲

高速チェンジアップ

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今夜から本拠地武蔵野ボールパークで札幌ウォーリアーズとの二連戦がスタートする。


スカイウォーカーズは左のサンピエール、ウォーリアーズは前回スカイウォーカーズ打線を手玉に取った左の那須川という、両左腕の先発。


両チームのスターティングラインナップは

ウォーリアーズは

1ライト高山
2ショート松村
3センター福岡
4ファーストアーロン
5サード篠原
6レフトマルティネス
7セカンド大友
8キャッチャー坂本
9ピッチャー那須川


スカイウォーカーズは

1ライトラファエル
2センター唐澤
3ファースト結城
4セカンド鬼束
5レフト中山
6サード来栖
7キャッチャー保坂
8ピッチャーサンピエール
9ショート筧


今日はサードの毒島がベンチスタート。

代わりにスーパーサブの来栖がサードスタメンで出場。


毒島はリーグトップの29本塁打を打っているが、ここ最近は不振にあえいでいる。

交流戦前は287の打率が258まで下降。


長いシーズンでスランプに陥る事はよくあるのだが、一刻も早く脱却したいところだ。


「はぁ…」


その毒島がベンチでため息をつく。


「Don't worry, Makoto.A slump can happen to anyone.(マコト、気にするな。スランプなんて誰にでもある事なんだ)」


トーマスが励ますが、毒島の表情は沈んでいる。


「おい、マコト!落ち込むヒマがあったら、奥でバット振ってこい」


畑中がバットを渡した。


「はい…」


力なく返事をすると、ベンチ裏へと移動した。



「監督。気分転換に毒島くんをキャッチャーに戻してみてはどうです?」


「えっ、そんなんでスランプから抜け出せるもんなのか?」


「抜け出せるかどうかは分かりませんが、気分転換にはなるでしょう。スランプというのは、技術的な事よりもメンタルの面で影響されるものが多いですし」


櫻井としては保坂を正捕手にしているが、全試合マスクを被る事は難しい。

キャッチャーというポジションは激務でもある。


スーパーサブの来栖を代役にする事も可能だが、彼は内外野どこでも守れる為、イザという時の貴重な控え選手だ。

固定するよりも、いつでも守備につけるようベンチにいた方が良い。


それならいっそ、しばらくの間毒島をキャッチャーに戻すのも悪くは無いと思った。


「まぁ、それでアイツが打てるようになるならやってみる価値はあるかもな」


「保坂くんを休養させる意味でも、毒島くんをキャッチャーに戻してみましょう」


「まぁ、ヒロトがそう言うなら」


何でもかんでも、ヘッドコーチの櫻井任せで自分は何もしないというのは如何なものだろうか。


と言っても、榊にそんな案など浮かぶハズも無いのだが。


マウンド上ではサンピエールが投球練習を終え、保坂と入念な打ち合わせをしている。


サンピエールは二軍暮らしが長かったせいか、少しだけ日本語が話せる。


「サンちゃん、とにかく低目へ投げよう。低く、ローね。OK?」


サンピエールは二軍でサンちゃんと呼ばれていた。

保坂とはその頃から何度もバッテリーを組んでいるので、気心知れた間柄でもある。


「OK、ダイジョーブ!ワタシ、今日ハグッドコンディション!」


互いのクラブでタッチを交わすと保坂はホームへ戻った。


「プレイボール!」


主審の手が上がり、試合がスタートした。


【1番ライト高山 背番号4】

先頭バッターの高山が右打席に入る。


打率は2割台半ばだが、出塁率は3割5分を越えている。

低い位置でバットを持ち、左足の踵を浮かせる独特のフォームで迎え撃つ。


トルネード投法のサンピエールが第一球を投げた。


ゴォォ、という唸りを上げるフォーシームが低目へ。


ズバーンとミットの響く。


「ボール!」

コースが僅かに外れた。


初球の速度は153km。


「球が走ってるな」


「調子よさそうですね、今日は」


サンピエールの速球は約2300回転。


球界でもトップクラスの回転数だ。


トルネード投法からの二球目を投げた。


これまたフォーシームが唸りを上げてミットへ。


「ストライク!」


今度は外角にズバッと決まった。


バックスクリーンの電光掲示板には155kmと表示されている。


「いい球だ」


保坂が思わず声を上げた。


「ギューンと伸びてくるな…」


ストレートの威力に打席の高山もバットが出せない。


(多少の荒れ球は的を絞らせないようにするから、それを生かしたリードをしよう)


保坂がサインを出した。


サンピエールが頷いて三球目を投げた。


アウトコースだが少し遠い。


高山は見送ったが、手前で鋭くスライドした。


「ストライクツー!」


「えっ、ウソ!」


思わず後ろを振り返る。


「ベース直前でコースに入ってる」


主審は自信を持って答える。


「ありゃ、バックドアだろ」


「そうです、アウトコースからギリギリに曲がるカットボール。バッターからすれば、遠いと思って見送るがスライドしてコースに入るから中々打てない」


高峰が現役時代得意にしていた変化球だ。


(イイネ、今の切れ味。じゃあ、次はこれで)


保坂のサインに頷き、ダイナミックなトルネード投法から四球目を投げた。

今度はインコース低目に迫り来る。


高山がこの打席初めてバットを振った。


「…うわっ」


手前でブレーキが掛かったようにストーンと沈んだ。


高山のバットを空を切る。


「ストライクアウト!」


得意の鋭く落ちるチェンジアップで空振りの三振。


途中までストレートの軌道でフォークの様にストンと落ち、15kmの緩急差だが空振りを取れる。

「いいな、あのチェンジアップは」


現役時代チェンジアップを得意としていた榊が絶賛した。

トップバッターを三振に抑え、先ずはワンナウト。
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