Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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新戦力

進化する左腕

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スタジアムがため息に包まれた。


あぁ~あ、打たれちゃったよ!という声が所々で聞こえる。


これが相性の悪さという事なのだろうか。


「クソっ!またしても打たれたっ」


カウントワンボール、ワンストライクからの三球目、工藤の投じたカーブを鬼束は右に打ち返した。


打球はライナーでライトスタンド最前列に飛び込む第20号のソロホームラン。

スカイウォーカーズが2点目を追加した。


「カンペキな配球だったのに、何で打たれるんだ…」


外崎は呆然としている。



淡々とした表情で鬼束がホームイン。


初回で2本のホームランが飛び出した。



「何をやってるんだ、初回で2点も失うとはっ!」


守山監督がベンチを蹴りあげた。

ガツン!という音が響き、選手達はシュンとしている。


「朋友(ポンヨウ)落ち着くネ。まだ初回、何とかなる」

ヘッドコーチの陳がなだめる。


「青幇(チンパン)!何悠長な事言ってんだ!こっちは既に二人目のピッチャーなんだぞ!」


「分かってるって朋友。とにかく、後は抑えるしかないんだ」



その怒りが通じたのか、5番毒島をレフトフライに打ち取り、スリーアウトチェンジ。




【1回の裏ヤンキースの攻撃!1番 センターフィルダー!ナンバー3 ハルキ コクブン!】


トップバッターの国分が右打席に入った。


昨年首位打者とMVPを獲得したリードオフマンだが、今年は絶不調。

253という打率でホームランは0

盗塁にいたっては、23回試みて成功は僅か8回。


このバッターが塁に出ないとヤンキースの得点は著しく下がってしまう。



マウンド上には先発の真咲が投球練習を終えて、キャッチャーの来栖と言葉を交わす。


正捕手の保坂は休養を兼ねてベンチスタート。


スーパーサブの来栖は投手以外のポジションを守れるというが、リード面はどうか。


来栖が小走りで本塁へ戻ってマスクを被った。


「プレイ!」



痩身、撫で肩の真咲はユラ~っという表現がピッタリな程、風が吹くと揺らめくような身体付きをしている。


ユラユラしながらも、緩急をつけたピッチングで打者を幻惑する。


その真咲が来栖のサインを覗き込む。


真咲は頷き、テイクバックの小さいモーションから第一球を投げた。


ギューン、という地を這うストレートが低目ギリギリに決まった。


「ストライク!」



「うぉっ、スゲー!見ろよスピードガンを!」

榊がスコアボードを指した。


電光掲示板のスピードガンには141kmと表示されている。


「えっ!あの真咲が140km越えたのかよ!」


「ウソだろ!この前まで120km台だったのに!」


ナインもビックリだ。


腕の振りが遅く、球の出所が見えない上にどの球種も同じように投げるので見分けがつかない。


球速の割には回転数が高く、ノビのあるストレートを投げるので体感速度はスピードガンの表示より10km以上速く感じる。


それにしても、去年まで120kmそこそこのストレートがこんなに球速アップするとは、脅威の進化だ。


「まーだまだ、驚くのはこれからだぜ~」


リズム良く二球目を投げた。


「…うゎっ、速っ」


思わず国分が固まってしまう程の速いカーブ。


「ストライクツー!」


今度は126kmと表示。


「カーブで126kmかよ…ストレートがこのぐらいの速度だったのに」


弧を描きながら、下に勢いよく落ちる変化をしたせいか、目で捕らえる事が出来なかった。


「何だ、あのカーブは」


国分は目を白黒させている。


(んじゃ、これで三振ワンナウトね)


来栖のサインに頷き、三球目を投げた。


インコースベルトの高さに球が来た。


「ヨシっ」


国分はバットを合わせた。


「あっ…」


だが、ボールはすり抜ける様に鋭く落ちた。


落差の大きいフォークはベース上でワンバンとなり、来栖は腰を落としてキャッチ。


「ストライクアウト!」


得意の三球三振というフルコースで、簡単にアウトを取った。



ウイニングショットのフォークは119kmと表示。


「コイツはスピードさえも操る事が出来るのかよ」


感嘆の声を上げた。


「もし、コイツがチームに5人…いや、3人いたら間違いなく優勝出来るぞ」


「3人もいたら、目が慣れて打ち込まれますよ」


すかさず高峰がツッコむ。


「うるせーっ!例えばの話だよっ」


「いや、一人だからいいんですよ。三人もいたら、投球パターンが読まれてしまうし、球の軌道だって丸分かりですって」


「あぁ~っ!やかましい!とにかく、それぐらいスゴいヤツだって事なんだよっ」


ムキになって言い返した。


「まぁ、言わんとしてる事は分からないでもないですけどね」


櫻井が、フォローした。


「ほら、ヒロトだって分かるって言ってるじゃんかよ!お前は投手コーチなんだから、そのぐらいニュアンスで理解しろよ!」


「ニュアンスって…」


「何せ、監督は感性で話す人ですから」


「そうそう、感性っていいなぁ…常人じゃ理解出来ない世界。って言うか、オレって天才じゃね?」


ホントに能天気な監督だ。
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