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何がなんでも優勝
囁き戦術
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「おぉ、ユースケ!お前、一軍に昇格したのか!」
東雲が声を掛けた。
「アキラ、久しぶり!今日一軍登録したばかりだよ」
お互いに二軍生活が長かったせいか、二人は仲が良い。
「聞いてくれよ、アキラ!さっき畑中コーチが、オレの事スーパーサブって言うんだけど、何を以てスーパーサブなのか全く説明してくれないんだよ」
「あぁ…またそれかよ。あのなぁ、ユースケ。野球ってのは、理屈でやるもんじゃないだろ?しかも、レギュラーがアクシデントでベンチに引っ込んだ時、いちいち説明してる時間なんて無いんだよ」
「それがおかしいんだよ!オレはもっと明確な理由が聞きたいんだよ!それなのに、皆はオレの事面倒臭いヤツって一言で片付けるし」
面倒臭いうえに、空気も読めない。
東雲ははァ、と深いため息をついた。
「お前さぁ、だったら野球辞めたら?そういう理由付けが必要な職業に就いたらどうだ?」
「何言ってんだよ、オレは野球が大好きなんだよ!」
「だったら、屁理屈言ってないで監督やコーチの言う通りにやれよ!」
「頭ごなしにあれやれ、これやれって言われてハイ、そうですかって言えるかよ!」
この男には何を言ってもムダだと思い、東雲はその場を離れた。
「何だよ、どいつもこいつもハッキリとした理由を言わないで」
一軍に上げたのは失敗だったのでは?
試合開始直前、両チームのスターティングラインナップが発表された。
打順に変更は無い。
今日の先発はドルフィンズは天海という大エースが退団した後、メキメキと頭角を現した右の安川。
対するスカイウォーカーズはエースの中邑。
「プレイボール!」
試合がスタートした。
【1番ショート筧 背番号24】
スカイウォーカーズのリードオフマンとして定着した筧がバッターボックスに立つ。
筧と梁屋はアベレージ用のグリップの太いバットを使用する。
指二本分余して短く持つ。
マウンド上は今やドルフィンズのエースとしてチームを引っ張る安川。
今季は6勝2敗、防御率は2.67と抜群の安定感を誇る。
独特の二段モーションから第一球を投げた。
「ストライク!」
142kmのストレートがコーナーギリギリに決まった。
ストレートの平均速度は143kmと決して速くないが、コーナーを突くピッチングで凡打の山を築く。
安川が二球目を投げた。
102kmのスローカーブがインコース低目に。
「おっと…」
タイミングを崩しながらバットを引いた。
「ボール」
「ヤバい、ヤバい」
思わず手が出るところだった。
「ほぅ、あのスローカーブに手を出さなかったとは、さすがトップバッターやな」
ドルフィンズ扇の要でもある、キャッチャーの矢幡が声を掛けた。
「まぁね」
「いや~、ホンマにスゴいな!ウチにもアンタみたいなトップバッターがいたらええなぁと思ってるんやが、現実は厳しいなぁ」
このキャッチャーはホントによく喋る。
よく囁き戦術という作戦を用いるが、この矢幡はただ単に話好きというだけだ。
しかし、リードに関しては父であるドルフィンズ監督矢幡拓郎譲りの頭脳的な戦術を用いる。
「そういや、アンタこの前まで9番打ってたやろ?何でトップバッターに変わったん?」
「何でって…そりゃ、チーム事情というヤツで」
「ほーほー、なるほどなぁ!」
矢幡は会話をしながらサインを出した。
安川が頷いて三球目を投げた。
今度はインハイへ。
(高いか?)
筧は見送る。
「ストライク!」
「えっ!ウソ、高いでしょ?」
筧は後ろを振り返って主審の顔を見た。
「ストライクだ。ギリギリ入ってる」
「マジかよ…」
カウントはワンボール、ツーストライク。
「まぁまぁ、そう気を落とさんで」
「…何か、調子狂うな…」
挑発するわけでもなく、褒め殺しをするわけでもない。
世間話をするみたいに話しかけるせいか、バッターは集中力を欠いてしまう。
「アンタ、トップバッターでショートやろ?頼むからウチに来てくれんかの?」
「いや、そんな事言われても…」
「いやいや、冗談で言ってるんやないで。ウチに来たら、優遇するでぇ。そやから、来てくれんかの?」
サインを出す。
「それは…だって、オレ一人で決める事じゃないから」
「ほなら、ウチの監督とアンタとこの監督で話し合えばええねん」
「えーっ!」
矢幡のペースに打ち気を削がれる。
安川の四球目、アウトローへのチェンジアップ。
筧がバットを出すが、引っ掛けてサードゴロ。
サードが難なく捌いてアウト。
「あー、クソっ!あのペースに引き込まれてしまう」
ガックリと項垂れてベンチに下がる。
先ずはワンナウト。
スカイウォーカーズのバッターは矢幡のペースに引き込まれてしまうのか。
東雲が声を掛けた。
「アキラ、久しぶり!今日一軍登録したばかりだよ」
お互いに二軍生活が長かったせいか、二人は仲が良い。
「聞いてくれよ、アキラ!さっき畑中コーチが、オレの事スーパーサブって言うんだけど、何を以てスーパーサブなのか全く説明してくれないんだよ」
「あぁ…またそれかよ。あのなぁ、ユースケ。野球ってのは、理屈でやるもんじゃないだろ?しかも、レギュラーがアクシデントでベンチに引っ込んだ時、いちいち説明してる時間なんて無いんだよ」
「それがおかしいんだよ!オレはもっと明確な理由が聞きたいんだよ!それなのに、皆はオレの事面倒臭いヤツって一言で片付けるし」
面倒臭いうえに、空気も読めない。
東雲ははァ、と深いため息をついた。
「お前さぁ、だったら野球辞めたら?そういう理由付けが必要な職業に就いたらどうだ?」
「何言ってんだよ、オレは野球が大好きなんだよ!」
「だったら、屁理屈言ってないで監督やコーチの言う通りにやれよ!」
「頭ごなしにあれやれ、これやれって言われてハイ、そうですかって言えるかよ!」
この男には何を言ってもムダだと思い、東雲はその場を離れた。
「何だよ、どいつもこいつもハッキリとした理由を言わないで」
一軍に上げたのは失敗だったのでは?
試合開始直前、両チームのスターティングラインナップが発表された。
打順に変更は無い。
今日の先発はドルフィンズは天海という大エースが退団した後、メキメキと頭角を現した右の安川。
対するスカイウォーカーズはエースの中邑。
「プレイボール!」
試合がスタートした。
【1番ショート筧 背番号24】
スカイウォーカーズのリードオフマンとして定着した筧がバッターボックスに立つ。
筧と梁屋はアベレージ用のグリップの太いバットを使用する。
指二本分余して短く持つ。
マウンド上は今やドルフィンズのエースとしてチームを引っ張る安川。
今季は6勝2敗、防御率は2.67と抜群の安定感を誇る。
独特の二段モーションから第一球を投げた。
「ストライク!」
142kmのストレートがコーナーギリギリに決まった。
ストレートの平均速度は143kmと決して速くないが、コーナーを突くピッチングで凡打の山を築く。
安川が二球目を投げた。
102kmのスローカーブがインコース低目に。
「おっと…」
タイミングを崩しながらバットを引いた。
「ボール」
「ヤバい、ヤバい」
思わず手が出るところだった。
「ほぅ、あのスローカーブに手を出さなかったとは、さすがトップバッターやな」
ドルフィンズ扇の要でもある、キャッチャーの矢幡が声を掛けた。
「まぁね」
「いや~、ホンマにスゴいな!ウチにもアンタみたいなトップバッターがいたらええなぁと思ってるんやが、現実は厳しいなぁ」
このキャッチャーはホントによく喋る。
よく囁き戦術という作戦を用いるが、この矢幡はただ単に話好きというだけだ。
しかし、リードに関しては父であるドルフィンズ監督矢幡拓郎譲りの頭脳的な戦術を用いる。
「そういや、アンタこの前まで9番打ってたやろ?何でトップバッターに変わったん?」
「何でって…そりゃ、チーム事情というヤツで」
「ほーほー、なるほどなぁ!」
矢幡は会話をしながらサインを出した。
安川が頷いて三球目を投げた。
今度はインハイへ。
(高いか?)
筧は見送る。
「ストライク!」
「えっ!ウソ、高いでしょ?」
筧は後ろを振り返って主審の顔を見た。
「ストライクだ。ギリギリ入ってる」
「マジかよ…」
カウントはワンボール、ツーストライク。
「まぁまぁ、そう気を落とさんで」
「…何か、調子狂うな…」
挑発するわけでもなく、褒め殺しをするわけでもない。
世間話をするみたいに話しかけるせいか、バッターは集中力を欠いてしまう。
「アンタ、トップバッターでショートやろ?頼むからウチに来てくれんかの?」
「いや、そんな事言われても…」
「いやいや、冗談で言ってるんやないで。ウチに来たら、優遇するでぇ。そやから、来てくれんかの?」
サインを出す。
「それは…だって、オレ一人で決める事じゃないから」
「ほなら、ウチの監督とアンタとこの監督で話し合えばええねん」
「えーっ!」
矢幡のペースに打ち気を削がれる。
安川の四球目、アウトローへのチェンジアップ。
筧がバットを出すが、引っ掛けてサードゴロ。
サードが難なく捌いてアウト。
「あー、クソっ!あのペースに引き込まれてしまう」
ガックリと項垂れてベンチに下がる。
先ずはワンナウト。
スカイウォーカーズのバッターは矢幡のペースに引き込まれてしまうのか。
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