Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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中盤

速く見せる球

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マウンドには先発の真咲が。


「審判、投球練習はいらないから、さっさと始めてくれ!」


何と、試合前の投球練習を拒否。


「プ、プレイ!」


ニックス1回の裏は1番のサード吉田。


「吉田!投球練習してないヤツの球なんか、スタンドに飛ばせ!」


「ナメてるのか、アイツは!」


「あんな遅い球、滅多打ちにしてやれ!」


ベンチからはヤジが飛ぶ。



「全く…ギャーギャーとうるせぇ連中だ」


口元に笑みを浮かべ、初球を投げた。


「…っ!」


フワッとした93kmのスローカーブ。


タイミングを外された吉田はバットが出ない。


「ストライク!」


しかもド真ん中に決まる。


「フフっ」


この異様な雰囲気の中で、堂々と遅い球を投げるのだから、真咲もかなりの強心臓の持ち主だ。


「クソっ!おちょくった球投げやがって!」


吉田の表情が一変した。


それを嘲笑うかのように、ゆったりとした動作から二球目を投げた。


「わ…っ」


今度は先程よりも速いカーブ。

ギュイーンと縦に鋭く曲がり、ミットに吸い込まれた。


「ストライクツー!」


114kmのカーブだが、スローカーブと比べると速くて鋭い変化をする。


たちまちツーストライクと追い込まれた。


「これで終わりだ」


今度は早いモーションで三球目を投げた。


「え…」


フワフワと超山なりのスローボールが弧を描いてミットに収まる。


「ストライクアウト!」


67kmという、超スローボールで見逃しの三振。


人を食ったようなピッチングで先ずはワンナウト。


「スゲーなぁ…あれで抑えるとは」


セカンドを守ってる鬼束はファーストの結城を見た。


「…」


結城は中腰のまま、表情が固まっている。


(この人が味方で良かった)


結城と言えども、真咲の球を打つのは困難だ。


【2番ライト坂口 背番号37】


坂口が左打席に入る。


長打は少ないが、逆方向へのバッティングが得意で脚も速い。


その坂口に対して初球は138kmのストレート。


ズバーン!といい音を鳴らして、外角一杯に決まった。


「ストライク!」


真咲にとって自己最高の球速だ。


「は、速ぇ…」


テイクバックを小さくして腕の振りが遅い為、ボールの出所が分かりにくい。

しかも、どの球種も同じ腕の振りをするので見分けがつかない。

故に130km台のストレートでも体感速度は150km以上に感じる。


「これぐらいで驚いちゃ困るなぁ」


余裕の表情で二球目を投げた。


今度も同じ軌道の球、しかも甘いコース。

「もらった!」


坂口はスイングした。


「あっ…」


しかしボールはストーン、と落ちてワンバウンドになった。

保坂が膝をついてキャッチした。


「ストライクツー!」


「オレだって投げれるんだよ、この球は」


昨年から使い出したフォークボールで空振り。


落差も大きく、萩原のフォークと同じぐらいの変化だ。



「面白いですね、このピッチャーは」


フフフと笑う。櫻井は興味深く真咲のピッチングを見ている。


「遅いのを逆手にとって、相手を翻弄するんだから…コイツはスゲーよ」


榊が一番信頼しているピッチャーが真咲だ。


この幻惑投法で奪三振率も高い。


コントロールも良く、洞察力にも長けて相手の動きを読む。

打つ気が無いと見るや、ド真ん中に打ち頃の球を放る。


余程の度胸が無いと出来るものではない。


「オレァ、コイツを見た時、間違いなく球界を代表するピッチャーになると思ってたんだよ」


真咲は元々、奈良ドルフィンズにドラフト五位で入団した。

しかし、当時の監督からは「とてもプロで通用する球じゃない」と言われ、二軍で過ごす。

球界一の遅い球を生かすにはどうすればいいか。

そこで真咲が辿り着いた答えは【速い球を投げる事は出来ないが、速く見せる球を投げる事なら可能】という答えが浮かんだ。


真咲は120km台の直球を生かす為にスローカーブの精度を上げた。

同時に制球力を磨き、ビデオでバッターの動きを細かく観察した。


その成果もあって、相手を翻弄するピッチングが出来上がった。

しかし、ドルフィンズでは中々芽が出ず、ついに戦力外通告を受ける。

真咲はその後合同トライアウトで好投し、武蔵野スカイウォーカーズに入団した。


榊は解説者時代から真咲のピッチングに注目していた。

「このピッチャーはスゲーよ!速いだけがピッチャーじゃねぇ!遅くても速く見せるピッチングをするんだから、コイツは絶対にリーグを代表するピッチャーになれる!」

榊が監督に就任すると、中継ぎだった真咲を先発に転向させた。


「コイツのピッチングは中継ぎなんかよりも、長いイニングを投げる先発の方がいい」


プロ12年目で更なる進化を遂げる真咲は、今や日本球界を代表するピッチャーとして知られるようになった。





「オレが監督になった理由はコイツがこのチームにいたからなんだよ」


見れば見るほど、真咲のピッチングに魅せられた。


こんな面白いピッチャーがいるんだから、監督になってもっと相応しい起用法をしてやろうと。




その真咲は不敵な笑みを浮かべ三球目を投げた。


今度は外角低めへズバッとストレートを決めた。


「ストライクアウト!」


136kmのストレートで見逃しの三振に斬って取った。


真咲の奪三振のうち、三球三振で打ち取るのは全体の約6割で他のピッチャーと比べてもトップクラスだ。



「フフフ…」


マウンド上で痩身の身体が躍動する。



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