Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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過去

誓い

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グランドで監督と結城が対峙する。


「よぉ、オレが勝ったらレギュラーの話はホントだろうな」


「くどい!何度も同じことを言わすな!」


結城が突っ掛けた。


ジャブから左のフック、ストレートを放ち際、膝裏にローキックを叩き込む。


「グッ…」

監督はガクーンと崩れ落ちた。


「へへっ、これで終わりだ!」


マウントの体勢になり、拳を何度も振り下ろす。


しかし、監督は冷静にこれを上手く切り返す。


結城の腕をキャッチすると、素早く下からの腕ひしぎ十字固めに捕らえた。


ヒジを完全に固定され、柔らかい力でジワジワと締め上げる。


「グォッ…」


「分かったか!お前には勝ち目は無い!さっさと参ったと言え!」



「ふざけんな…テメー」


あと少しで結城のヒジが外れる。


「ホントに降参しないのか?」


再度確認する。



「しつけぇな、テメー!オレは勝つんだ!」


「致し方ないな」


監督はゴキっ!と結城のヒジを鳴らした。


「グァァ…」


(ヤバい、このままじゃ折られる!)


すると監督は技を解いて、背後に回ると結城の首に腕を巻き付けた。


「グハッ…」


スリーパーホールドで頸動脈をガッチリと締める。


バタバタともがいていたが、徐々に視界が闇に覆われグッタリとして動かない。


完全に落ちたのを確認してから技を解いた。




「…あれ?ここどこだ?」


気がつくと保健室のベッドで寝ていた。


「勝負は…」

すぐさま起きあがると、監督を探し出した。


「どこ行った、あのヤロー!」


「お前の負けだ」


振り返ると、監督が後ろに立っていた。


「ふざけんな!オレは参ったしてないぞ!」


「往生際の悪いだな…お前はオレのスリーパーホールドで落ちたんだ。よってこの勝負、オレの勝ちだ!」


「…負けかよ…」


ガックリと項垂れた。



「約束は約束だ。これからお前はボーズになって球拾いから始めろ!」


キツく言い放ち、後は何も無かった。


結城が三年生になると、夏の甲子園でベスト4まで残り、大会で三本のホームランを放つと各球団からのスカウトが学校を尋ねた。


その年、結城はドラフト三位で北九州ドジャースに指名された。



野球部を引退する時、監督からある言葉を贈られた。


「常に紳士であれ。紳士の気持ちを忘れずにいて欲しい」



それから二ヶ月後、監督は急性心不全でこの世を去った。


あまりにも呆気なかった。



「監督…何でまた…」


結城は号泣した。


これを機に結城は監督の言葉を胸に刻み、更生した。


戒めの様に社会奉仕活動に精を出し、球界一のジェントルマンとして知られるようになった。







「ふーん、監督とタイマンして負けたから更生したというワケか」


「結城さん、監督の教えを忠実に守っているんですね。素晴らしい」



「いや、まぁ、なんと言うか…出来れば忘れたい過去で」


結城はしきりに照れる。



「でも、そうやって監督が身を呈してお前の事を更生させようとしたんだから、やっぱ監督には感謝しないとな」


「はい…監督がいなかったら、今頃は何をしていたのか…」



色々なドラマがある。


黒歴史と言うが、結城を見事に更生させた野球部の監督の功績は大きい。


ヒットメーカーとして球界を代表するバッターに成長したのだから、結城も感謝の気持ちを忘れずにいるのだろう。


本当に人の人生には様々なドラマがあるものだ。
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