Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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過去

崖っぷち

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畑中は松田の後を付ける日々を過ごした。

普段の練習とは別に、深夜室内練習場で松田が汗を流しているのを見計らって参加した。


「おい、小僧!付いてくるなって言ったろ!」


「邪魔はしません!だから、練習に参加させてください!」


「勝手にしろ!」


松田は黙々と練習をこなす。


その量は畑中が未だかつて経験したことの無い、ハードなメニューだった。


(この人は何で皆と一緒に練習をしないで、こんな夜遅くに一人でやってるんだろう?)


畑中は不思議に思った。



「ハァ…ハァ…う"ぅ、キツい…」


松田よりも10以上年下の畑中が音を上げた。


「言ったろ、小僧!オレに構うなって!こんな練習にもついていけないクセに、オレの後を付けるなっ!
いいかっ!」


「ハァ…ハァ…まだ…まだまだっすよ」


畑中はそれでも松田と同じメニューを練習をする。



空が明るくなり始めた頃に練習は終了した。


「あ…あり…がとうございました…」

礼を言うと、バタンと倒れた。




「…ん…ここは…」


目を開けると、そこは寮の部屋だった。


「おい、小僧」


「…っ!」


振り向くと松田がテレビを観ながら缶チューハイを飲んでいた。


「あれ…何で寮の部屋に?」

「覚えてねぇのか…オメーはぶっ倒れて動けないから、オレが部屋まで連れてきたんだよ」


「え…」


ハードな練習で気を失い、松田に介抱された。


「オレのジャマしないと言ったくせに、あんな所でぶっ倒れやがって…いいか、二度とオレの練習のジャマをするなよ!」

そう言うと、松田は部屋を出た。



「クソっ…やってやる!マジでやってやろうじゃねぇか!」


畑中は諦めなかった。


その夜も室内練習場を訪れ、練習を始めた。


「小僧っ!!オレの言うことが聞けねぇのか、おいっ!」


シーンとした練習場で松田の怒鳴り声が響いた。


「オレ、やらなきゃなんないんすよ。…ピッチャーがダメになって、野手一本でやるとキメたんすよ。
だから松田さんの様に、内野でも外野でもどこでも守れるようにしないと…オレはまだクビにはなりたくねぇんだ!!」


松田の怒鳴り声よりも大きな声で吠えた。


「ほぅ…言うじゃねえか。小僧、オレのメニューをカンペキにこなすようになったら、色々と教えてやらぁ」


松田はニヤリと笑った。


「わ、分かりました!」


畑中は今までの人生でこれ程までに練習に時間を費やした事は無いというぐらい、猛練習をした。



中学の時、父親の仕事でアメリカから日本に帰国した。

その頃から身体能力に優れて、どのスポーツもソツなくこなし、あっという間に周りを追い抜いた。


その中で畑中が選んだのは野球だ。


野球はアメリカにいた頃、父親に連れられてメジャーリーグの試合を何度か観戦した。


パワフルなピッチングにパワフルなバッティング。

アグレッシブな走塁、勇猛果敢にフェンスに激突してもボールをキャッチするダイナミックな守備。


畑中少年の心を動かした。


将来はメジャーリーグでプレイしたいと。



日本の野球は畑中にとって退屈なものだった。


「何で、わざわざアウトになるバントをしなきゃならないんだ?」


「ふざけんな、こんな野球なんてやりたくねぇよ!」


「何なんだよ、球拾いって!こんなバカバカしい事するために野球をやってるんじゃないんだ!」


野球部のいや、体育会系のしきたりでもある、上下関係に嫌気が差した。


オレの方が断然上手いのに、何でレギュラーじゃないんだ?

たかが一年か二年早く生まれただけで、何でこんなにエラそうにしてるんだ?


冗談じゃない!


僅か一週間で野球部を退部した。



しかし、畑中の類まれなる野球センスを放っておくワケにはいかず、監督が連れ戻す。


試合に出ればピッチャーで4番。


高校に入ってもその実力は抜きん出て、一年生ながらレギュラーの座を手にした。


投げては三振、打ってはホームランという、畑中の一人舞台で甲子園に出場した。


畑中は才能だけで野球をやっていた。


そんな彼がプロに入って、ハードな練習をしている。


今までは特に練習をしなくても好成績を上げる事が出来たが、プロはそんな甘いものではない。



畑中は悟った。

(この練習についていくには体力が必要だ…)


畑中は強靭な肉体を作り上げるべく、徹底的に筋力トレーニングを行った。


そのお陰か、徐々に松田の練習メニューについていけるようになった。


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