Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

sky-high

文字の大きさ
上 下
19 / 125
過去

崖っぷち

しおりを挟む
畑中は松田の後を付ける日々を過ごした。

普段の練習とは別に、深夜室内練習場で松田が汗を流しているのを見計らって参加した。


「おい、小僧!付いてくるなって言ったろ!」


「邪魔はしません!だから、練習に参加させてください!」


「勝手にしろ!」


松田は黙々と練習をこなす。


その量は畑中が未だかつて経験したことの無い、ハードなメニューだった。


(この人は何で皆と一緒に練習をしないで、こんな夜遅くに一人でやってるんだろう?)


畑中は不思議に思った。



「ハァ…ハァ…う"ぅ、キツい…」


松田よりも10以上年下の畑中が音を上げた。


「言ったろ、小僧!オレに構うなって!こんな練習にもついていけないクセに、オレの後を付けるなっ!
いいかっ!」


「ハァ…ハァ…まだ…まだまだっすよ」


畑中はそれでも松田と同じメニューを練習をする。



空が明るくなり始めた頃に練習は終了した。


「あ…あり…がとうございました…」

礼を言うと、バタンと倒れた。




「…ん…ここは…」


目を開けると、そこは寮の部屋だった。


「おい、小僧」


「…っ!」


振り向くと松田がテレビを観ながら缶チューハイを飲んでいた。


「あれ…何で寮の部屋に?」

「覚えてねぇのか…オメーはぶっ倒れて動けないから、オレが部屋まで連れてきたんだよ」


「え…」


ハードな練習で気を失い、松田に介抱された。


「オレのジャマしないと言ったくせに、あんな所でぶっ倒れやがって…いいか、二度とオレの練習のジャマをするなよ!」

そう言うと、松田は部屋を出た。



「クソっ…やってやる!マジでやってやろうじゃねぇか!」


畑中は諦めなかった。


その夜も室内練習場を訪れ、練習を始めた。


「小僧っ!!オレの言うことが聞けねぇのか、おいっ!」


シーンとした練習場で松田の怒鳴り声が響いた。


「オレ、やらなきゃなんないんすよ。…ピッチャーがダメになって、野手一本でやるとキメたんすよ。
だから松田さんの様に、内野でも外野でもどこでも守れるようにしないと…オレはまだクビにはなりたくねぇんだ!!」


松田の怒鳴り声よりも大きな声で吠えた。


「ほぅ…言うじゃねえか。小僧、オレのメニューをカンペキにこなすようになったら、色々と教えてやらぁ」


松田はニヤリと笑った。


「わ、分かりました!」


畑中は今までの人生でこれ程までに練習に時間を費やした事は無いというぐらい、猛練習をした。



中学の時、父親の仕事でアメリカから日本に帰国した。

その頃から身体能力に優れて、どのスポーツもソツなくこなし、あっという間に周りを追い抜いた。


その中で畑中が選んだのは野球だ。


野球はアメリカにいた頃、父親に連れられてメジャーリーグの試合を何度か観戦した。


パワフルなピッチングにパワフルなバッティング。

アグレッシブな走塁、勇猛果敢にフェンスに激突してもボールをキャッチするダイナミックな守備。


畑中少年の心を動かした。


将来はメジャーリーグでプレイしたいと。



日本の野球は畑中にとって退屈なものだった。


「何で、わざわざアウトになるバントをしなきゃならないんだ?」


「ふざけんな、こんな野球なんてやりたくねぇよ!」


「何なんだよ、球拾いって!こんなバカバカしい事するために野球をやってるんじゃないんだ!」


野球部のいや、体育会系のしきたりでもある、上下関係に嫌気が差した。


オレの方が断然上手いのに、何でレギュラーじゃないんだ?

たかが一年か二年早く生まれただけで、何でこんなにエラそうにしてるんだ?


冗談じゃない!


僅か一週間で野球部を退部した。



しかし、畑中の類まれなる野球センスを放っておくワケにはいかず、監督が連れ戻す。


試合に出ればピッチャーで4番。


高校に入ってもその実力は抜きん出て、一年生ながらレギュラーの座を手にした。


投げては三振、打ってはホームランという、畑中の一人舞台で甲子園に出場した。


畑中は才能だけで野球をやっていた。


そんな彼がプロに入って、ハードな練習をしている。


今までは特に練習をしなくても好成績を上げる事が出来たが、プロはそんな甘いものではない。



畑中は悟った。

(この練習についていくには体力が必要だ…)


畑中は強靭な肉体を作り上げるべく、徹底的に筋力トレーニングを行った。


そのお陰か、徐々に松田の練習メニューについていけるようになった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】ラーレの初恋

こゆき
恋愛
元気なアラサーだった私は、大好きな中世ヨーロッパ風乙女ゲームの世界に転生していた! 死因のせいで顔に大きな火傷跡のような痣があるけど、推しが愛してくれるから問題なし! けれど、待ちに待った誕生日のその日、なんだかみんなの様子がおかしくて──? 転生した少女、ラーレの初恋をめぐるストーリー。 他サイトにも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...