Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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過去

打者転向

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「あれは確か…二年目か三年目の頃だったかなぁ」


畑中が遠い目をして話し始めた。


「オレはピッチャーで入ったんだが、全くダメでな…一軍にも上がれないで、二軍の試合で投げてたんだけど、ボコボコに打たれてなぁ」


畑中は投手としてスカイウォーカーズに入団した。

夏の甲子園ベスト4の成績を残し、ドラフト三位でスカイウォーカーズに指名された。


150km近い速球とカーブ、フォークで三振を獲るピッチングは将来のエースとして期待された。


しかし、翌年のキャンプでは一軍の選手に連打を浴びて早々と二軍に降格。


その二軍の試合でも良い成績を上げる事が出来ず、一年目は一軍に昇格すること無く終了。


二年目こそは開幕一軍という目標を掲げ、自主トレを精力的に行い、キャンプインに備えた。

だが、一年目と変わらず力不足で二軍に降格。


畑中は焦っていた。


何がなんでも一軍に上がって1日でも早く初勝利を上げたい、と。


自分のピッチングは決して悪くない。

では、何が原因なのか。


畑中は悩んだ。来る日も来る日も悩んで、何が原因なのか色々と試行錯誤してはみたものの、逆効果になり二軍の試合でも打たれまくった。


当時の二軍投手コーチからはピッチャー失格の烙印を押され、失意のドン底で無気力になっていった。


二年目の契約更新で畑中は早くも戦力外通告を受ける。


(このまま一軍に上がる事無く、クビになるのはイヤだ!)


その思いで必死に頭を下げ、もう一年だけチャンスをくれと土下座までした。


その思いが通じたのか、球団は一年だけ契約を延長してくれた。


そこで畑中が口にしたのが【野手転向】

野手として再起を懸けた。


畑中は死にものぐるいで猛練習をする。


投手から野手へ転向するとなれば、練習方法も違ってくる。

ボールからバットに変え、僅かな時間でもバットを振って片時も離さずに持っていた。


翌年のキャンプでは、一軍の選手に混じってフリーバッティングで柵越えを連発。

そのバッティングが注目され、オープン戦に起用される。


しかし、一軍の壁は厚く開幕は二軍でスタート。

畑中はめげる事無く、二軍の試合で活躍する。


ちょうどその頃、一軍の試合でライトを守っていた選手が負傷して全治三ヶ月の大怪我を負った。


そこで急遽、二軍で結果を出していた畑中にお呼びがかかり、一軍に昇格。



投手というのは概ねセンスの塊みたいなもので、畑中もその中の一人だ。


打つだけではなく、守備や走塁も抜きん出ていた。


一軍初出場は守備要員や代走としてベンチに入っていたが、ゴールデンウィーク明けからスタメンに名を連ねるようにまで成長。


スカイウォーカーズのトップバッターとしてシーズンを過ごし、打率279 14本塁打 76打点  27個の盗塁で新人王を獲得。

プロ三年目で新人王に輝いたのは畑中だけだ。


以降はスカイウォーカーズの中軸を担い、首位打者やトリプルスリーを記録し、弱小スカイウォーカーズを牽引した。


畑中が三年目の頃、スカイウォーカーズのユーティリティープレイヤーとして、全てのポジションを守った事のある松田昭弘(まつだあきひろ)という選手と出会う。


この選手こそが、畑中に影響を与えた人物だ。


松田は内野外野問わず、どのポジションでもソツなくこなす。


しかし、彼が練習している姿を見た事が無い。

おまけに、いつも二日酔いでロッカールームではヒマさえあれば将棋やマージャン、トランプで遊び、試合後はネオン街へと消えて行く。


それなのに、守備では本職顔負けのクラブ捌きでベンチ中では【困った時の松田頼み】という合言葉が生まれた。


その松田は一体どんな練習をしているのか、後を付けた事がある。


吉祥寺のネオン街でかなりの量を飲んだ後、真っ直ぐ帰らず球場に寄って一人室内練習場で汗を流していた。


(この人、全く練習してないって言うけど、陰ではこんな猛練習してたのか)


畑中は松田に心酔した。


この人はスゴい!

キメた!この人の弟子になると。


翌日、畑中は松田に教えを乞うた。


だが松田から返ってきた答えは


「オレなんかに構うな!練習したきゃ、勝手に練習してろ!」

と突き放した。


しかし、畑中は諦めなかった。
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