Baseball Fighter 主砲の一振り2 後編

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優勝するためには

空気の読めないヤツ

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マシンガンズの先発はドラフト1位ルーキーの猪木。


長いリーチから繰り出すMAX146kmのストレート、スライダー、チェンジアップで相手を翻弄する。


猪木の特徴は球持ちが良く、球種の見分けがつかないしなやかな腕の振りで三振を獲る。

奪三振率は9.53とリーグトップ。


「コイツがまさか1年目から活躍するとはなぁ」

高梨GMは猪木を指名するつもりでいたが、榊の「いらない」の一言で見送る事に。


もし、獲得していたら…


トップバッターの筧が右打席に入った。


投球練習を終え、猪木が長い腕をブラブラしている。

190cmという長身はマウンド上で更に大きく見える。


セットポジションからモーションに入った。

ムチの様にしなる左腕から第一球を投げた。

これがド真ん中のストレート。

「ストライク!」


135kmの打ち頃な直球だが、筧は呆気にとられてバットを出す事が出来なかった。


「いきなりド真ん中に投げるとは、ルーキーの分際でふてぶてしいヤツだ」


「まるで現役時代の監督みたいですね」


櫻井はクスッと笑った。


二球目を投げた。


インコースに食い込むスライダー。しかし僅かに外れた。


「ボール!」

筧も選球眼は良い方だ。


三球目は外いっぱいにストレートを投げた。

すると筧は素早くセーフティバントの構えをした。

「ストライク!」




「今のバント出来たんじゃないか?」


「いえ、無理でしょう」


「何で?」


「サードの比嘉と、ファーストの金城が物凄いダッシュをしてきた。あれでは無理です」


バントの構えをした途端、比嘉と金城はチャージをしてきた。


カウントはワンボール、ツーストライク。


四球目はタイミングを外すチェンジアップ。

しかし筧はこれを見送る。

「ボール!」

ツーナッシングに変わった。


「タイム」


突如、猪木がタイムをとった。


「…?」


「何やってんだ?」


猪木はマウンドを降りた。

アクシデントなのか。


ベンチでは監督やコーチが猪木の周りに集まる。



「ケガか?」


「さぁ…何でしょうかね」


しばらく経っても出てこない。


主審がベンチに向かって様子を見た。


「あ、出て来た」

猪木がベンチから出て、小走りでマウンドに向かった。


「何やってたんだ?」


何とも不可解なタイムだ。


ケガをしている様子もない。


何の為にタイムをかけたのか。



「すいません!喉乾いてガマン出来ないから、スポーツドリンク飲んでました!」


帽子を取って深々と頭を下げた。


「なっ…」


「それだけの為に…」



何と、喉の乾きに耐えられずベンチで水分補給をしていたとは。


プレイ再開となって、猪木が五球目を投げた。

真ん中やや外よりの甘い球。


「よし、もらった!」


筧はタイミング良くバットを合わせた。


「あれ…」

しかしボールは外に沈んでミットに収まった。


「ストライクアウト!」



「あれ、スクリューボールでは?」


「スクリューボール投げるのかよ?」


猪木はスクリューボールをマスターしていた。


シンカーのように、利き腕側に曲がって沈む変化球でシンカーと違う点は、シンカーはストレートの軌道から曲がって落ちるのに対し、スクリューボールは逆側のカーブみたいに曲がる。

と言っても、投げた本人がシンカーと言えばシンカーだし、スクリューボールと言えばスクリューボールになってしまう。


毎度のことながら、変化球の定義とは非常に曖昧だ。



そして2番の唐澤がバッターボックスに入る。


打席でゆったりとした動きからバットを構える。

その佇まいだけでスケールの大きさが窺い知る。



「タイム」


「えっ?」


またしても猪木がタイムをかけた。


「また喉が乾いたのかよ」


「何なんでしょう?」


しかもさっきよりも時間が長い。


再び主審がベンチへ。


「おい、何やってんだ!早くしろ!」


「あ、はーい!」


主審に促され、猪木はベンチを出た。


マウンドに立つと、再度帽子を取って深々と頭を下げた。


「漏れそうだったんで、トイレに行ってきました!」


「へ?」


「トイレ…って」


「ふざけてんのか、コイツは」


空いた口が塞がらない。


「ふざけやがって…」


唐澤が苛立つ。


だが当の本人は、何処吹く風とロージンバッグを手をしている。



「ナメてんのか、コラァ!」


その態度に唐澤がキレた。



「えっ、何で自分が怒られるんすか?自分、何か悪い事しましたか?」



「すっとぼけてんじゃねえぞ、おい!」


猪木にしてみれば、何で唐澤が怒ってるのか理解出来ない。


自分のどこが悪いんだろう…と。


「もしかして、アイツ」


「もしかして…なんですか?」

榊はピンときた。


「アイツ、単に空気読めないヤツじゃないのか?」


「えーっ?」


そうなのかもしれない。
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