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回想
シングルマザー
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櫻井と沙友理はこの事がきっかけで急接近した。
他の記者にはややウンザリしながらも仕方なくコメントをしていたが、沙友理に対しては丁寧な口調で分かりやすくコメントをした。
それは単に恋心を抱いていただけではなく、知識不足の沙友理の為に理解出来る様に説明する。
櫻井自身も野球に興味を持って好きになって欲しいと願い、どんな質問にも答えた。
そんな2人が親密な関係になるのはあっという間だった。
本拠地静岡グリーンフィールドのベンチ裏では、櫻井が熱心に沙友理をいつもの記者室ではなく、ベンチ裏まで連れて行き、熱心にレクチャーした。
沙友理も櫻井の野球に対する真摯な態度に好感を持ち、徐々に知識を覚えた。
野球に関しては全くの無知だった沙友理だが、櫻井の存在は以前から知っていた。
天才と呼ばれ、メディアにも多く露出する櫻井は誰もが知るスーパースターでもある。
櫻井の説明は非常に分かりやすく、初心者にも理解出来るような教えだった。
他の選手ならば、「こんな事も分からねぇのかよ!」と声を張り上げて叱責する様な事でも、櫻井は嫌な顔一つもせず、丁寧に答える。
そんな櫻井に沙友理も好意を抱く。
お互いに好意を持つとなれば、自然な成り行きで男女の仲に発展する。
沙友理は櫻井の一つ年上の27才。
お互い適齢期に差し掛かり、将来を意識する。
櫻井は結婚を前提に付き合いをしていたつもりだが、沙友理は態度を保留する。
結婚など考えずに、今のままでいいと沙友理は言う。
「何で?お互い愛し合ってるんだ、結婚するのは自然な事なのに、何故!」
「…ごめんなさい、私は結婚にというものに囚われたくないの」
何度プロポーズをしても、答えはNoだった。
「…もしかして、実は既に結婚しているとかじゃないよね?」
よからぬ事を勘ぐってしまう。
「まさか!そんなバカじゃないわよ、私は!」
「…そうだよね、ゴメン…でも、ボクはキミと結婚したいんだ!何故ダメだと言うのか分からないんだ」
沙友理の表情は曇る。
櫻井の事は愛してる。しかし、結婚となると返事をはぐらかす。
それが櫻井には不思議でならない。
「何か隠しているんじゃないのか?」
「…どういう事?」
「それは分からないが、キミは僕に何か隠し事をしてる様な気がするんだ」
「…」
沙友理は黙ったままだ。
「何を隠してるのか知らないが、ボクに話してくれないだろうか?
それが結婚への障害になるのなら、2人で乗り越えようじゃないか」
「分かったわ…」
沙友理は観念した様に静かに話した。
「実はね、私には子供がいるの…しかも、結婚経験の無いシングルマザーというやつ。
子供のいる女がアナタの妻になるなんて、不釣り合いもいいとこだわ」
沙友理が結婚に踏ん切りをつかないのは子供の事がネックだ。
「知らなかった…キミに子供がいるなんて」
櫻井には寝耳に水だ。
「だから子供の事は隠してたの…シングルマザーの女がプロ野球選手の妻になんかなれないもん」
「何言ってんだよ、子供がいるならもっと早く言ってくれよ…キミの子供に会ってみたいんだ」
「エッ…」
「当然だろ、キミの子供ならば会うのは当然だ。
キミと結婚するんだ、キミの子供にも挨拶しないといけないだろ」
「…ホントにいいの?」
「当たり前じゃないか!キミもキミの子供もボクが幸せにするよ」
「…ごめんなさい、今まで隠して…」
沙友理の目には涙が溢れていた。
沙友理の話では、沙友理が23の時に報道部の先輩社員と深い仲になった。
だが、その先輩社員は既婚者で沙友理は不倫をしていた。
そのうち、沙友理の体調に異変が起きる。
沙友理は妊娠していた。
相手に妊娠した事を打ち明けると、その男はただ一言「堕ろせ」と告げると、中絶費用を沙友理に渡した。
しかし、せっかく授かった子供を堕ろすなんて可愛そうだ。
沙友理は男に迷惑を掛けない代わりに産ませて欲しいと頼んだ。
男は焦った。男からすれば、沙友理は火遊びの相手に過ぎない。
こんな事が社内に知られたら、出世はおろか、会社にいられなくなる。
男は何度も沙友理に堕ろせと言うが、沙友理は頑として首を振らない。
そのうち沙友理のお腹も大きくなり、堕胎時期を遠に越して産む以外に無い状況となる。
男は沙友理に「一切の責任は負わない代わりに産むと言うのなら、勝手にすればいい」と身勝手な言葉を残して異動願いを出して沙友理の前から消えた。
残された沙友理はシングルマザーとして子供を産むと決め、女の子を出産した。
社内では「相手の男は誰なんだろう?」という冷ややかな視線を浴びながら、健気に仕事と育児を両立させながら今日に至った。
「そんな事があったなんて…女性は強いな…ボクなら、とてもそんな事は出来ない」
「女はね、子供を産むと強くなるのよ。何があっても、この子を育てなきゃって思うと、力が湧いてくるのよ」
「大変だったんだね…キミを尊敬するよ」
「そう言ってくれるなんて…でも、ホントにいいの?こんなシングルマザーなのに」
「世間体なんか最初から気にしてないよ。
ボクはキミが好きだから結婚するんだ。
周りが何と言おうと、ボクはボクの思うがままに行動するんだ」
必ず幸せにすると心に決めた。
しかし、櫻井の思うようにはいかなかった。
他の記者にはややウンザリしながらも仕方なくコメントをしていたが、沙友理に対しては丁寧な口調で分かりやすくコメントをした。
それは単に恋心を抱いていただけではなく、知識不足の沙友理の為に理解出来る様に説明する。
櫻井自身も野球に興味を持って好きになって欲しいと願い、どんな質問にも答えた。
そんな2人が親密な関係になるのはあっという間だった。
本拠地静岡グリーンフィールドのベンチ裏では、櫻井が熱心に沙友理をいつもの記者室ではなく、ベンチ裏まで連れて行き、熱心にレクチャーした。
沙友理も櫻井の野球に対する真摯な態度に好感を持ち、徐々に知識を覚えた。
野球に関しては全くの無知だった沙友理だが、櫻井の存在は以前から知っていた。
天才と呼ばれ、メディアにも多く露出する櫻井は誰もが知るスーパースターでもある。
櫻井の説明は非常に分かりやすく、初心者にも理解出来るような教えだった。
他の選手ならば、「こんな事も分からねぇのかよ!」と声を張り上げて叱責する様な事でも、櫻井は嫌な顔一つもせず、丁寧に答える。
そんな櫻井に沙友理も好意を抱く。
お互いに好意を持つとなれば、自然な成り行きで男女の仲に発展する。
沙友理は櫻井の一つ年上の27才。
お互い適齢期に差し掛かり、将来を意識する。
櫻井は結婚を前提に付き合いをしていたつもりだが、沙友理は態度を保留する。
結婚など考えずに、今のままでいいと沙友理は言う。
「何で?お互い愛し合ってるんだ、結婚するのは自然な事なのに、何故!」
「…ごめんなさい、私は結婚にというものに囚われたくないの」
何度プロポーズをしても、答えはNoだった。
「…もしかして、実は既に結婚しているとかじゃないよね?」
よからぬ事を勘ぐってしまう。
「まさか!そんなバカじゃないわよ、私は!」
「…そうだよね、ゴメン…でも、ボクはキミと結婚したいんだ!何故ダメだと言うのか分からないんだ」
沙友理の表情は曇る。
櫻井の事は愛してる。しかし、結婚となると返事をはぐらかす。
それが櫻井には不思議でならない。
「何か隠しているんじゃないのか?」
「…どういう事?」
「それは分からないが、キミは僕に何か隠し事をしてる様な気がするんだ」
「…」
沙友理は黙ったままだ。
「何を隠してるのか知らないが、ボクに話してくれないだろうか?
それが結婚への障害になるのなら、2人で乗り越えようじゃないか」
「分かったわ…」
沙友理は観念した様に静かに話した。
「実はね、私には子供がいるの…しかも、結婚経験の無いシングルマザーというやつ。
子供のいる女がアナタの妻になるなんて、不釣り合いもいいとこだわ」
沙友理が結婚に踏ん切りをつかないのは子供の事がネックだ。
「知らなかった…キミに子供がいるなんて」
櫻井には寝耳に水だ。
「だから子供の事は隠してたの…シングルマザーの女がプロ野球選手の妻になんかなれないもん」
「何言ってんだよ、子供がいるならもっと早く言ってくれよ…キミの子供に会ってみたいんだ」
「エッ…」
「当然だろ、キミの子供ならば会うのは当然だ。
キミと結婚するんだ、キミの子供にも挨拶しないといけないだろ」
「…ホントにいいの?」
「当たり前じゃないか!キミもキミの子供もボクが幸せにするよ」
「…ごめんなさい、今まで隠して…」
沙友理の目には涙が溢れていた。
沙友理の話では、沙友理が23の時に報道部の先輩社員と深い仲になった。
だが、その先輩社員は既婚者で沙友理は不倫をしていた。
そのうち、沙友理の体調に異変が起きる。
沙友理は妊娠していた。
相手に妊娠した事を打ち明けると、その男はただ一言「堕ろせ」と告げると、中絶費用を沙友理に渡した。
しかし、せっかく授かった子供を堕ろすなんて可愛そうだ。
沙友理は男に迷惑を掛けない代わりに産ませて欲しいと頼んだ。
男は焦った。男からすれば、沙友理は火遊びの相手に過ぎない。
こんな事が社内に知られたら、出世はおろか、会社にいられなくなる。
男は何度も沙友理に堕ろせと言うが、沙友理は頑として首を振らない。
そのうち沙友理のお腹も大きくなり、堕胎時期を遠に越して産む以外に無い状況となる。
男は沙友理に「一切の責任は負わない代わりに産むと言うのなら、勝手にすればいい」と身勝手な言葉を残して異動願いを出して沙友理の前から消えた。
残された沙友理はシングルマザーとして子供を産むと決め、女の子を出産した。
社内では「相手の男は誰なんだろう?」という冷ややかな視線を浴びながら、健気に仕事と育児を両立させながら今日に至った。
「そんな事があったなんて…女性は強いな…ボクなら、とてもそんな事は出来ない」
「女はね、子供を産むと強くなるのよ。何があっても、この子を育てなきゃって思うと、力が湧いてくるのよ」
「大変だったんだね…キミを尊敬するよ」
「そう言ってくれるなんて…でも、ホントにいいの?こんなシングルマザーなのに」
「世間体なんか最初から気にしてないよ。
ボクはキミが好きだから結婚するんだ。
周りが何と言おうと、ボクはボクの思うがままに行動するんだ」
必ず幸せにすると心に決めた。
しかし、櫻井の思うようにはいかなかった。
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