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オープン戦
オープン戦初戦
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キャンプインも終盤、これから選手が徐々にふるいにかけられる。
早々に二軍行きを命じられる者もいれば、まだ崖っぷちで残る者もいる。
開幕一軍のキップを手に入れるのは誰か。
「ヒロト、冴島は二軍でフォームの改造をした方がいいと思うが、どうだろうか?」
「高峰さんに任せます。投手の事は高峰さんが一番よく知ってる事ですし」
どうやら冴島は二軍でフォームの矯正をする事になった。
「監督、もうすぐオープン戦が始まりますけど、ジョーンズはどうしますか?」
畑中がジョーンズの起用について聞く。
「う~ん…難しいところだな…でも、とりあえず試合で使ってみるのもアリかな」
大砲ジョーンズはオープン戦で様子見という事らしい。
「ヒロト、森高なんだが…まだ危なっかしいけど、試しに使ってみたらどうだろうか?」
「そうですね…オープン戦の成績で決めましょう」
中田は森高の守備を懸念する。
こんな具合に、各コーチから選手の報告を受ける。
「可もなく不可もなく…か。
予想はしていたけど、たかが1ヶ月程のキャンプだけで決めるのはどうだろうかね?」
編成が難しい。
ヘッドコーチ時代からやっていた事とは言え、監督になれば立場も違う。
「とにかくオープン戦で色々と試してみるか…」
そしてオープン戦が始まった。
スカイウォーカーズの初戦は、今年からネーミングライツで武蔵野ボールパークから、【エスタディオ・ジーマ・ブリューイング】と名称を変更し、大阪ドルフィンズを迎え撃つ。
先発はドルフィンズが2年目の若月、スカイウォーカーズは昨年12勝をマークした東山。
オープン戦初戦とあって、櫻井は主力選手を温存させ、若手主体のオーダーで挑む。
「何だかなあ、どいつもこいつもパッとしないなぁ」
ベンチで中田が渋い顔をする。
「ん~、今ひとつですねぇ」
櫻井も同調する。
「コイツら、何がなんでも一軍のキップを手に入れるんだって気持ちが伝わらないんだよな」
エラーやミスをしているワケではないが、淡々とプレーする姿に物足りなさを感じる。
「ソツなくこなしてるんでしょうが、印象に残るプレーが1つも無いですね」
選手の顔には覇気が感じられない。
「どうしたものか…次の回から主力に交代させよう」
「そうですね…これ以上見ても何の収穫も無いですし」
主力選手に替えた途端、試合はスカイウォーカーズペースとなる。
「キミたち、エラーしてもいいから、もっと気迫のこもったプレーをして欲しいんだ!
このままじゃ、一軍なんてとてもムリだ」
【はぁ…】
櫻井がアドバイスを送るが、選手達は気のない返事をするだけ。
「おいおい、何だその気の抜けた返事は!
いいか、オープン戦の成績如何で一軍に昇格するかどうかが決まるんだぞ!
そんな調子じゃ、全員二軍だぞ!分かってるのか?」
「気迫があればいいってモンじゃないでしょう…
オレたちはこれと言ったエラーもしてないし、注意される事は何一つやってませんよ」
若手の一人が反論する。
「確かに…キミたちはソツなくプレーしてると思うよ。
でも、それだけじゃダメなんだ。
キミたちが一軍に上がるには、ハツラツとしたプレーが必要なんだよ」
「別にハツラツしなくても、仕事をキッチリこなせば問題無いんじゃないですか」
もう一人が反論する。
「あのな、お前らが一軍に定着するには、コレだというアピールポイントが必要なんだ。
ただ漠然とプレーするんじゃなく、セールスポイントを全面に出さなきゃ、レギュラーは取れないぞ!」
中田が理由を説明するが、若手は上の空で聞いてる。
「今どき根性論かよ…昭和じゃねえんだから、そんな古臭い事言うんじゃねぇよ」
「おい、誰だ今言ったのは!」
聞こえないように言ったのだろうが、中田の耳にはハッキリと聞こえた。
「ヤベっ、聞こえたよ」
声の主は身を潜める。
「こんなところで、つまらない言い合いをするつもりは無いから言うけど、オープン戦で打率3割、防御率3点以内ならば、開幕一軍を約束しよう!
どうだ、皆!自信があるなら、遠慮無く申し出てくれ!」
櫻井が一軍昇格の条件を出した。
「打率3割かよ…」
「防御率3点以内って事は、3.99でも一軍って事だよな?」
「あたりめーだろ!」
ワイワイガヤガヤ
ベンチが騒がしくなった。
「おぉ~っし!カントク、オレやります!」
元気よく手を挙げたのは、3年目の庵野 光一(あんのこういち)
「キミは確か…」
「ハイ!自分、今年から登録支配下になった庵野です!」
庵野は育成選手としてスカイウォーカーズに入団。
今年から支配下登録され、3桁だった背番号は93に変わった。
「そうか、ならば庵野くん。
次の回から守備についてくれ」
「ウィッス、その代わり約束守ってくださいよ!」
「勿論だよ、3割打てたら開幕一軍を約束しよう」
攻撃が終わり、庵野はグラブを持って勢いよくグラウンドに出た。
櫻井が審判に選手の交代を告げた。
【スカイウォーカーズ、選手の交代をお知らせします。サードの来栖に代わって庵野。7番サード庵野。背番号93】
イキイキとした表情でサードのポジションにつく。
「中々活きのいいヤツじゃねえか」
「勢いはありそうですが、果たしてどんなプレーを見せてくれるのやら」
決してイケメンという容姿では無いが、笑うと目が細くなる愛嬌のある顔立ち。
陽気という言葉がピッタリな育成上がりがハツラツとホットコーナーを守る。
早々に二軍行きを命じられる者もいれば、まだ崖っぷちで残る者もいる。
開幕一軍のキップを手に入れるのは誰か。
「ヒロト、冴島は二軍でフォームの改造をした方がいいと思うが、どうだろうか?」
「高峰さんに任せます。投手の事は高峰さんが一番よく知ってる事ですし」
どうやら冴島は二軍でフォームの矯正をする事になった。
「監督、もうすぐオープン戦が始まりますけど、ジョーンズはどうしますか?」
畑中がジョーンズの起用について聞く。
「う~ん…難しいところだな…でも、とりあえず試合で使ってみるのもアリかな」
大砲ジョーンズはオープン戦で様子見という事らしい。
「ヒロト、森高なんだが…まだ危なっかしいけど、試しに使ってみたらどうだろうか?」
「そうですね…オープン戦の成績で決めましょう」
中田は森高の守備を懸念する。
こんな具合に、各コーチから選手の報告を受ける。
「可もなく不可もなく…か。
予想はしていたけど、たかが1ヶ月程のキャンプだけで決めるのはどうだろうかね?」
編成が難しい。
ヘッドコーチ時代からやっていた事とは言え、監督になれば立場も違う。
「とにかくオープン戦で色々と試してみるか…」
そしてオープン戦が始まった。
スカイウォーカーズの初戦は、今年からネーミングライツで武蔵野ボールパークから、【エスタディオ・ジーマ・ブリューイング】と名称を変更し、大阪ドルフィンズを迎え撃つ。
先発はドルフィンズが2年目の若月、スカイウォーカーズは昨年12勝をマークした東山。
オープン戦初戦とあって、櫻井は主力選手を温存させ、若手主体のオーダーで挑む。
「何だかなあ、どいつもこいつもパッとしないなぁ」
ベンチで中田が渋い顔をする。
「ん~、今ひとつですねぇ」
櫻井も同調する。
「コイツら、何がなんでも一軍のキップを手に入れるんだって気持ちが伝わらないんだよな」
エラーやミスをしているワケではないが、淡々とプレーする姿に物足りなさを感じる。
「ソツなくこなしてるんでしょうが、印象に残るプレーが1つも無いですね」
選手の顔には覇気が感じられない。
「どうしたものか…次の回から主力に交代させよう」
「そうですね…これ以上見ても何の収穫も無いですし」
主力選手に替えた途端、試合はスカイウォーカーズペースとなる。
「キミたち、エラーしてもいいから、もっと気迫のこもったプレーをして欲しいんだ!
このままじゃ、一軍なんてとてもムリだ」
【はぁ…】
櫻井がアドバイスを送るが、選手達は気のない返事をするだけ。
「おいおい、何だその気の抜けた返事は!
いいか、オープン戦の成績如何で一軍に昇格するかどうかが決まるんだぞ!
そんな調子じゃ、全員二軍だぞ!分かってるのか?」
「気迫があればいいってモンじゃないでしょう…
オレたちはこれと言ったエラーもしてないし、注意される事は何一つやってませんよ」
若手の一人が反論する。
「確かに…キミたちはソツなくプレーしてると思うよ。
でも、それだけじゃダメなんだ。
キミたちが一軍に上がるには、ハツラツとしたプレーが必要なんだよ」
「別にハツラツしなくても、仕事をキッチリこなせば問題無いんじゃないですか」
もう一人が反論する。
「あのな、お前らが一軍に定着するには、コレだというアピールポイントが必要なんだ。
ただ漠然とプレーするんじゃなく、セールスポイントを全面に出さなきゃ、レギュラーは取れないぞ!」
中田が理由を説明するが、若手は上の空で聞いてる。
「今どき根性論かよ…昭和じゃねえんだから、そんな古臭い事言うんじゃねぇよ」
「おい、誰だ今言ったのは!」
聞こえないように言ったのだろうが、中田の耳にはハッキリと聞こえた。
「ヤベっ、聞こえたよ」
声の主は身を潜める。
「こんなところで、つまらない言い合いをするつもりは無いから言うけど、オープン戦で打率3割、防御率3点以内ならば、開幕一軍を約束しよう!
どうだ、皆!自信があるなら、遠慮無く申し出てくれ!」
櫻井が一軍昇格の条件を出した。
「打率3割かよ…」
「防御率3点以内って事は、3.99でも一軍って事だよな?」
「あたりめーだろ!」
ワイワイガヤガヤ
ベンチが騒がしくなった。
「おぉ~っし!カントク、オレやります!」
元気よく手を挙げたのは、3年目の庵野 光一(あんのこういち)
「キミは確か…」
「ハイ!自分、今年から登録支配下になった庵野です!」
庵野は育成選手としてスカイウォーカーズに入団。
今年から支配下登録され、3桁だった背番号は93に変わった。
「そうか、ならば庵野くん。
次の回から守備についてくれ」
「ウィッス、その代わり約束守ってくださいよ!」
「勿論だよ、3割打てたら開幕一軍を約束しよう」
攻撃が終わり、庵野はグラブを持って勢いよくグラウンドに出た。
櫻井が審判に選手の交代を告げた。
【スカイウォーカーズ、選手の交代をお知らせします。サードの来栖に代わって庵野。7番サード庵野。背番号93】
イキイキとした表情でサードのポジションにつく。
「中々活きのいいヤツじゃねえか」
「勢いはありそうですが、果たしてどんなプレーを見せてくれるのやら」
決してイケメンという容姿では無いが、笑うと目が細くなる愛嬌のある顔立ち。
陽気という言葉がピッタリな育成上がりがハツラツとホットコーナーを守る。
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