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キャンプイン
何故GMになったんだ?
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基礎体力のランニングやストレッチから、徐々に実践カリキュラムを行う。
「どうすっかなぁ、ヒロト?」
「何がですか、中田さん?」
「森高の守備なんだが…アレじゃ、開幕まで間に合わないんじゃねぇのか?」
「森高くんか…まだ連携プレーが上手くいってないみたいですね」
今年からセカンドを守る森高の守備が不安だ。
かつて名二塁手として名を馳せた中田。
「ヒロトよぉ、鬼束をセカンドに戻した方がいいんじゃないのか?」
「でも、森高くんはセカンド向きだと言ったのは中田さんですよ?」
森高をセカンドにコンバートしようと提案したのは中田だ。
「そりゃ言ったけどさぁ、モノになるにはかなり時間が掛かるぜ?
内野から外野にコンバートする事はあっても、外野から内野にコンバートするのは時間が掛かるんだよ」
それだけ内野手というのは難しい。
「しばらくの間セカンドは筧にして、森高は下で経験積むのがいいと思うぜ」
「…」
櫻井は無言だ。
確かに二軍でセカンドの経験を積んでから一軍に上げるという案は誰もが思うだろう。
しかし、櫻井はそれをヨシとしない。
「二軍でって言うけど…二軍でいくら経験を積んでも、それは二軍のレベルであって、一軍のレベルになるには、一軍で経験を積まないとダメだと思うんですよ」
「あのまま一軍で使ったら、エラーで自滅するぞ」
「…多少のエラーは目を瞑りますよ」
それを差し引いても、森高を一軍で使いたいらしい。
「監督はお前なんだから、オレは何も言わねえよ。
ただ、ウチは今年優勝なんて出来ねぇぞ、それでもいいのか?」
「監督が変わったんですよ…就任一年目で優勝なんて出来過ぎですよ」
今年優勝するのは無理だと分かってる。
それも想定内の事で、櫻井は優勝するのに3年は掛かるだろうと計算した。
「ボクのやり方で優勝するには、3年が必要です…
今はその基礎作りでもあるんです」
「強いチームを作るには、それなりの年月が掛かる…
でもな、ヒロト。
オレたちはそれを分かっていても、フロントはそこまで我慢すると思うか?」
「多分、その途中でボクはクビを切られるでしょうね…それは重々承知の上です」
「まぁ…それをどうにか説得するのがアイツの役目なんだけどな」
中田はベンチ前で記者と談笑している榊を指した。
「あのバカ、GMがどれ程大変なポジションなのか分かってねぇだろうな」
「しかし、高梨さんは何で榊さんを後任に選んだのだろうか?」
榊にGMを継いでくれと頼んだのは高梨だ。
タダでさえ、監督時代はヘッドコーチだった櫻井に任せきりだったのに、それより上のGMで手腕を発揮出来るとは到底思えない。
「監督辞めて無職になったら可哀想だと思ってGMのポジション与えたんじゃないのか」
「高梨さんの事だから、何か考えがあって榊さんをGMにしたんだと思うんですが…」
櫻井も首を傾げる。
当の本人は、焚き火にあたりながら、記者とスロットの話で盛り上がってる。
「何っ、設定6だと?」
「だって、昨日の台で万枚出たんですよ?
常連に聞いたら、新装開店でこの2、3日は狙い目だって言ってましたよ!」
「マジかよ!行きてぇなぁ~っ!」
「練習終わったら行けるんじゃないですか?」
打ちたくてウズウズしている。
「だって、夕方じゃどの台も座れないじゃん!」
「あぁ、確かに夕方じゃムリっすね」
「今何時?」
榊は腕時計をしてない。
「今は…9:35ですね」
記者は腕時計を見た。
「もうすぐで開店じゃん!行きてぇなぁ…」
スーツの内ポケットから財布を取り出し、中の現金を数えた。
「今いくらあるんだ?…えーっと…5,6…6000円かよ、足りねぇなこれじゃ」
プロ野球のGMともあろう人物が、所持金6000円しかないというが悲しい。
「榊さん、キャッシュカード持ってないんですか?」
「いや、持ってる事は持ってるんだが…」
残金0円なのだろう。
あればあるだけ使うという、超浪費タイプだ。
「1万円ぐらいなら貸しましょうか?」
「ウソっ、貸してくれるの?悪いね、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
満面の笑みで記者から1万円を借りた。
「こっから店までどのくらい掛かるんだ?」
「車で10分チョイってとこですね」
「やべぇ、急がないと席取られちゃう!じゃあ、これ借りるから!
またなっ!」
1万円札を握りしめ、球場を後にした。
2時間後、全額飲まれて無一文となり、トボトボと歩く榊の姿があった。
「どうすっかなぁ、ヒロト?」
「何がですか、中田さん?」
「森高の守備なんだが…アレじゃ、開幕まで間に合わないんじゃねぇのか?」
「森高くんか…まだ連携プレーが上手くいってないみたいですね」
今年からセカンドを守る森高の守備が不安だ。
かつて名二塁手として名を馳せた中田。
「ヒロトよぉ、鬼束をセカンドに戻した方がいいんじゃないのか?」
「でも、森高くんはセカンド向きだと言ったのは中田さんですよ?」
森高をセカンドにコンバートしようと提案したのは中田だ。
「そりゃ言ったけどさぁ、モノになるにはかなり時間が掛かるぜ?
内野から外野にコンバートする事はあっても、外野から内野にコンバートするのは時間が掛かるんだよ」
それだけ内野手というのは難しい。
「しばらくの間セカンドは筧にして、森高は下で経験積むのがいいと思うぜ」
「…」
櫻井は無言だ。
確かに二軍でセカンドの経験を積んでから一軍に上げるという案は誰もが思うだろう。
しかし、櫻井はそれをヨシとしない。
「二軍でって言うけど…二軍でいくら経験を積んでも、それは二軍のレベルであって、一軍のレベルになるには、一軍で経験を積まないとダメだと思うんですよ」
「あのまま一軍で使ったら、エラーで自滅するぞ」
「…多少のエラーは目を瞑りますよ」
それを差し引いても、森高を一軍で使いたいらしい。
「監督はお前なんだから、オレは何も言わねえよ。
ただ、ウチは今年優勝なんて出来ねぇぞ、それでもいいのか?」
「監督が変わったんですよ…就任一年目で優勝なんて出来過ぎですよ」
今年優勝するのは無理だと分かってる。
それも想定内の事で、櫻井は優勝するのに3年は掛かるだろうと計算した。
「ボクのやり方で優勝するには、3年が必要です…
今はその基礎作りでもあるんです」
「強いチームを作るには、それなりの年月が掛かる…
でもな、ヒロト。
オレたちはそれを分かっていても、フロントはそこまで我慢すると思うか?」
「多分、その途中でボクはクビを切られるでしょうね…それは重々承知の上です」
「まぁ…それをどうにか説得するのがアイツの役目なんだけどな」
中田はベンチ前で記者と談笑している榊を指した。
「あのバカ、GMがどれ程大変なポジションなのか分かってねぇだろうな」
「しかし、高梨さんは何で榊さんを後任に選んだのだろうか?」
榊にGMを継いでくれと頼んだのは高梨だ。
タダでさえ、監督時代はヘッドコーチだった櫻井に任せきりだったのに、それより上のGMで手腕を発揮出来るとは到底思えない。
「監督辞めて無職になったら可哀想だと思ってGMのポジション与えたんじゃないのか」
「高梨さんの事だから、何か考えがあって榊さんをGMにしたんだと思うんですが…」
櫻井も首を傾げる。
当の本人は、焚き火にあたりながら、記者とスロットの話で盛り上がってる。
「何っ、設定6だと?」
「だって、昨日の台で万枚出たんですよ?
常連に聞いたら、新装開店でこの2、3日は狙い目だって言ってましたよ!」
「マジかよ!行きてぇなぁ~っ!」
「練習終わったら行けるんじゃないですか?」
打ちたくてウズウズしている。
「だって、夕方じゃどの台も座れないじゃん!」
「あぁ、確かに夕方じゃムリっすね」
「今何時?」
榊は腕時計をしてない。
「今は…9:35ですね」
記者は腕時計を見た。
「もうすぐで開店じゃん!行きてぇなぁ…」
スーツの内ポケットから財布を取り出し、中の現金を数えた。
「今いくらあるんだ?…えーっと…5,6…6000円かよ、足りねぇなこれじゃ」
プロ野球のGMともあろう人物が、所持金6000円しかないというが悲しい。
「榊さん、キャッシュカード持ってないんですか?」
「いや、持ってる事は持ってるんだが…」
残金0円なのだろう。
あればあるだけ使うという、超浪費タイプだ。
「1万円ぐらいなら貸しましょうか?」
「ウソっ、貸してくれるの?悪いね、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな」
満面の笑みで記者から1万円を借りた。
「こっから店までどのくらい掛かるんだ?」
「車で10分チョイってとこですね」
「やべぇ、急がないと席取られちゃう!じゃあ、これ借りるから!
またなっ!」
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