The Baseball 主砲の一振り 続編3

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来季へ向けて

ラストゲーム 2

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中3日の登板ながら、那須川は得意のフロントドア、バックドアを駆使してスカイウォーカーズ打線を打ち取る。

対する中邑も、ペース配分など考えずに初回から160km/h超えのストレートを連発する。



試合は静かな序盤を終えて中盤へ差し掛かる。


5回の表、スカイウォーカーズの攻撃は2番石川が那須川の甘く入ったバックドアを上手くライト線へ運ぶ。


ノーアウトランナー二塁という場面で、迎えるバッターは三冠王をほぼ手中に収めた財前。


「財前くん!」


打席に向かう財前を櫻井が呼び止める。


「ん?なんだ何だ…」


「財前くん、何を狙っているんだ?」


狙い球を聞いてみた。


「何って…そりゃ、ツーシーム狙いでしょ!」


「やっぱりそうか…」


「エッ、 何で?」


「いや、それでいいと思うけど、多分那須川くんは初球からフロントドアを投げると思うんだ…それもアウトローに」


「へぇ~、コーチはそこまで配球を読んでいるのかよ」


櫻井は首を振った。


「違うよ…配球を読んだんじゃなく、気配を感じ取ったんだ」


櫻井は現役時代、相手ピッチャーの投げる球種、コースを瞬時に見分ける事が出来た。


100%ではないが、打席で集中力を高めると自然に投げる球が頭に浮かぶ。


櫻井と同じ能力を持つのが唐澤だ。


唐澤も櫻井程では無いが、相手ピッチャーの球種がフッと頭に浮かぶ。


「スゲーな、それじゃ超能力じゃん!」


「超能力なんかじゃないよ…キミだって、そのぐらいの事は出来るんじゃないかな」


財前は球種を読み取るというより、来た球を類まれなるバットコントロールで打ち返すタイプだ。


「オレは球種なんて読んだ事は無いけど…でも、たまに頭に浮かぶ時はあるかもな」


「それだよ…まぁ、早い話が勘なんだけどね」


その勘が鋭い。


「なるほどね~っ、そんじゃ、初球狙いでやってみるわ」


財前は打席に向かった。


右打席に立ち、大きく息を吐いた。


打率0.353 本塁打49 打点127

開幕戦で宣言した通り、三冠王がほぼ確定している。


シルバーアッシュのヘアーに左右色別のカラコン。

耳にはピアス、首にはチョーカーを付け、手首にはシルバーアクセのブレスレット、指にはワールドチャンピオンのリングをはめている。


およそ野球選手らしからぬ格好だが、文句の付けようの無い成績を残した。



少し前傾に立ち、バットを寝かせる構えはやや変則的だが、これが財前のバッティングフォームだ。


(初球か…んじゃ、ちょっくら狙ってみるかな)


財前の目が鋭くなった。


キャッチャーの外崎がサインを出す。


那須川が頷き、ノーワインドアップから初球を投げた。


(来たっ)


櫻井の読み通り、外角低めの球だ。


財前はボールをギリギリまで引き付け、最短距離でフォロースルーの大きいスイングで捕らえた。


ガゴーン、という音が響き打球はライトへ。


「よっしゃ、行ったぜ!」


財前は確信してゆっくりとベースへ向かう。


ライト城戸は一歩も動かず、頭上の打球を見送った。


「入った~っ!!」


「やった、ホームランだ!」


「2点先制だぜっ!」


財前の第50号ツーランでベンチは狂喜乱舞。


「スゲーな、ホントに読み通りだったぜ!」


ベースを回りながら、財前は櫻井の読みに感服した。


「ヨシ…この試合貰った」


櫻井はベンチで勝利を確信した。


財前は今ホームイン。


スカイウォーカーズが2点を先取。




ベンチでは全員が出迎えた。


「さすが三冠王!やるじゃん!」


榊がヘルメットをバシバシ叩く。


「痛えっつーの!」


「ナイスバッティング!」

「さすが財前さん!」

「財前さん、カッコイイ!」


皆にもみくちゃにされ、ベンチに腰掛けた。


「後は継投策で逃げ切るだけだ!」


次の回はアクーニャが投げる予定だ。


2点を先制された99ersだが、焦りの色は無い。



(財前…やっぱりお前が打ったか。
でも、これは想定内だ!
ホントの勝負はこれからだ!)


センターの守備位置で吉川がほくそ笑む。



那須川に動揺は無く、4番結城、5番鬼束、6番毒島を打ち取りチェンジ。



5回の裏、99ersの攻撃は9番柴崎から。


マウンドには、中邑に代わって左の中継ぎアクーニャが登板。

そしてキャッチャーも七海から正捕手の保坂に代わった。


昨年オフにレッズを解雇されて、テストでスカイウォーカーズに入団した。


開幕から一軍で活躍、4勝1敗、34ホールド 2セーブ 防御率は2.52と中継ぎエースの名に相応しい成績を残した。



【5回の裏、99ersの攻撃は、9番ショート柴崎】


柴崎が右打席に入って素振りを3回する。


これまでの対戦成績は12打数0安打とカンペキに抑えているが、油断は禁物。



保坂は初球にクチージョと呼ばれる、140km/h中盤の高速カットボールのサインを出した。


アクーニャはインコースへサイン通りクチージョを投げた。


柴崎はそれに合わせ、ちょこんとバットを出した。


打球はフラフラっとセカンド後方へポトリと落ちた。


バットを中途半端に出したお陰で、打球は上手く野手のいない場所に落ちた。


これでノーアウトからランナーが出た。


【1番サード比嘉】


トップに返り、比嘉が打席に向かう。


昨年は琉球マシンガンズの初優勝に貢献し、アポロリーグの首位打者並びにMVPを獲得。


今年99ersに移籍して、去年程の成績を残していないが、打率0.312 本塁打15 打点61とトップバッターにしてはまずまずの成績だ。


スコーピオン打法と呼ばれるバットの先端を相手ピッチャーに向ける、独特のフォームから鋭いスイングで打球を飛ばす。

上半身は筋骨隆々で、一見するとパワーヒッターに思われがちだが、打率も残せる中距離ヒッター。


右打席に立ち、スコーピオンの構えで眼光鋭くアクーニャを射る。


(さっきのはマグレだ…もう一度クチージョで詰まらせ、ゲッツーで打ち取ろう)


再度クチージョのサインを出した。


柔らかい上半身を使ったダイナミックなフォームで初球を投げた。


真ん中からインコースへくい込むクチージョ、だが比嘉もこれをちょこんとバットを出す。


弾き返された打球はあっという間に二塁ベースを通過してセンターへ。


柴崎、比嘉の連続安打でノーアウトランナー一塁二塁となった。


保坂がマウンドに駆け寄る。


次は99ersで1番怖いバッター、吉川だ。
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