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逆襲のスーパースター
二刀流との決別
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その後も浅野は頻繁に翔田を食事に誘った。
多いときで、週に3回翔田を誘う。
翔田も1人で家にいるよりは、浅野と食事をした方が幾分気が晴れると思い、1度も断った事が無い。
浅野は野球の話を一切しない。
話す内容はざっくばらんな世間話のみで、それが翔田にとっては心苦しくもあり、同時に浅野の新たな面を垣間見た様な気がして楽しくもある。
ついこの前までは、ベンチやミーティングルームで相手チームの攻略法ばかりを話していたのに、今では他愛の無い事を話す間柄になっていた。
しかし浅野と別れて1人で家に帰ると、頭の中は二刀流の事ばかり。
答えは全く出ないまま、登録を抹消されてから2ヶ月が経過しようとしていた。
プロ野球界では、オールスターゲームが行われていた時期で、翔田はテレビで試合を観ていた。
いつもなら、毎年オールスターに出場して並み居るアポロリーグの一流選手相手に活躍していたハズ…
しかし今年は出場どころか、二軍に落ちてしまい、今後の身の振り方すら考えなければならない日々を送っている。
画面では、かつての先輩である吉川がホームラン競争で優勝をする場面を映していた。
「オレはこの人に二刀流の限界を思い知らされた…
それはこの人に負けたという事になる。
このまま負けっぱなしでいいのか?
オレはこの人に勝てないまま、引退するのか?
…そんなのはイヤだ!
オレは絶対、この人に勝つ!」
ふつふつと闘志が湧き上がる。
せめて、この人に一矢報いる為にも、ここで立ち上がらなければならない。
「今までは監督と野球の話を一切しなかったが、今度はその事について相談してみよう」
思い立ったら吉日、翔田は浅野に連絡した。
「監督…相談したい事がありまして…
出来れば、明日食事をご一緒してもかまいませんか?」
翌日、翔田は浅野に誘われた肉料理の店で彼が来るのを待った。
オーナーに無理を言って、店内を貸し切り状態にした。
しばらくして、浅野が店内に入ってきた。
「お待ちしてました…」
「いやぁ、遅くなって申し訳ない」
いつもの様に浅野はワインを飲み、翔田はA5ランクの黒毛和牛のステーキを注文する。
「ところで、話ってのは何だ?」
「はい…二刀流の事についてです」
「もう決めたんだろ?」
翔田の表情を見て察した。
「はい、二刀流は止めて投手1本で勝負しようと思います」
その顔は一点の曇りもない、意志の固い表情だ。
「そうか…お前がそう決めたのなら、それをやればいい」
「はい」
「オレに遠慮なんかするな。
オレはもう監督じゃないし、そもそもお前はグラウンドの監督みたいなモンだったじゃないか」
ベンチでの采配は浅野が行っていたが、グラウンド上では翔田がナインにサインを出していた。
キングダムは良くも悪くも翔田の一挙手一投足に注目が集まるチームだ。
翔田というキングが、他の選手に指示を出してその通りに動くというスタイルだ。
それ故に、翔田の調子次第でチームが左右されると言っても過言ではない。
「元々、二刀流を引退まで続けるつもりはありません…自分も後3年で30になります。
二刀流を続けられるのは20代までって思ったのですが…予定より少し早く終わる事になりました」
浅野は無言でワインを飲む。
「今後は投手として、キングダムを引っ張っていこうと思います」
「その原因は吉川か?」
「ええ、そうです…あの人はオレの二刀流を終わらせるきっかけを作りました。
でも、それだけじゃオレはあの人に負けたままです。
あの人を何としてでも負かしてやりたい。
今の目標は、あの人に勝つ事です」
浅野はグラスに残ったワインを飲み干した。
「二刀流をやりたいと言ったのはお前だ。
そして二刀流をやるよう、環境を作ったのはフロントだ。
言わば、お前とフロントが二刀流を実現させたんだ…
その二刀流に反対したのは吉川だと言うが…実はオレも二刀流には反対だったんだ」
「エッ、監督も二刀流を反対してたんですか?」
翔田は初耳だった。
「オレは現役時代、メジャーでプレーしていたんだが、メジャーでさえ、二刀流をやる選手なんていなかった。
それはあまりにも無謀だからだ。
だが、お前は二刀流の第一人者になるって豪語した」
「えぇ…キングダムに入る条件として、二刀流をやらせてくれと言いましたから」
「オレは吉川よりも二刀流反対って、言い続けてたんだ…しかし、キングダムに入るには二刀流をさせるのが条件だと言う…
本来ならば、こんなバカげた事を言うヤツなんか獲る必要ないって、こっちからお断りするんだが、お前なら、二刀流を実現するかもしれないと思って受け入れたんだ。
しかも、どうせ二刀流なんてすぐに止めるだろうと思ってたからな…」
浅野はハナっから二刀流なんて出来っこないとタカをくくっていた。
「そうでしたか…自分も意地で、何が何でも二刀流を実現してやるっ!って必死にやってましたから」
「お前は二刀流を実現させたんだ…
ここで止めても、お前は二刀流を成功させたという爪痕は残したんだ。
翔田翼という選手が、二刀流でキングダムのリーグ連覇に貢献したという事は、この先のプロ野球史に残る記録でもあるんだ」
「記録なんてどうでもいいです…ファンの記憶に残るような選手でありたいんです」
記録よりも、記憶…
翔田はファンに鮮烈な印象を残す選手でありたいと言う。
「お前は根っからのスーパースターだよ」
「ありがとうございます…」
「これからは投手1本か…」
「はい」
話は尽きない。
多いときで、週に3回翔田を誘う。
翔田も1人で家にいるよりは、浅野と食事をした方が幾分気が晴れると思い、1度も断った事が無い。
浅野は野球の話を一切しない。
話す内容はざっくばらんな世間話のみで、それが翔田にとっては心苦しくもあり、同時に浅野の新たな面を垣間見た様な気がして楽しくもある。
ついこの前までは、ベンチやミーティングルームで相手チームの攻略法ばかりを話していたのに、今では他愛の無い事を話す間柄になっていた。
しかし浅野と別れて1人で家に帰ると、頭の中は二刀流の事ばかり。
答えは全く出ないまま、登録を抹消されてから2ヶ月が経過しようとしていた。
プロ野球界では、オールスターゲームが行われていた時期で、翔田はテレビで試合を観ていた。
いつもなら、毎年オールスターに出場して並み居るアポロリーグの一流選手相手に活躍していたハズ…
しかし今年は出場どころか、二軍に落ちてしまい、今後の身の振り方すら考えなければならない日々を送っている。
画面では、かつての先輩である吉川がホームラン競争で優勝をする場面を映していた。
「オレはこの人に二刀流の限界を思い知らされた…
それはこの人に負けたという事になる。
このまま負けっぱなしでいいのか?
オレはこの人に勝てないまま、引退するのか?
…そんなのはイヤだ!
オレは絶対、この人に勝つ!」
ふつふつと闘志が湧き上がる。
せめて、この人に一矢報いる為にも、ここで立ち上がらなければならない。
「今までは監督と野球の話を一切しなかったが、今度はその事について相談してみよう」
思い立ったら吉日、翔田は浅野に連絡した。
「監督…相談したい事がありまして…
出来れば、明日食事をご一緒してもかまいませんか?」
翌日、翔田は浅野に誘われた肉料理の店で彼が来るのを待った。
オーナーに無理を言って、店内を貸し切り状態にした。
しばらくして、浅野が店内に入ってきた。
「お待ちしてました…」
「いやぁ、遅くなって申し訳ない」
いつもの様に浅野はワインを飲み、翔田はA5ランクの黒毛和牛のステーキを注文する。
「ところで、話ってのは何だ?」
「はい…二刀流の事についてです」
「もう決めたんだろ?」
翔田の表情を見て察した。
「はい、二刀流は止めて投手1本で勝負しようと思います」
その顔は一点の曇りもない、意志の固い表情だ。
「そうか…お前がそう決めたのなら、それをやればいい」
「はい」
「オレに遠慮なんかするな。
オレはもう監督じゃないし、そもそもお前はグラウンドの監督みたいなモンだったじゃないか」
ベンチでの采配は浅野が行っていたが、グラウンド上では翔田がナインにサインを出していた。
キングダムは良くも悪くも翔田の一挙手一投足に注目が集まるチームだ。
翔田というキングが、他の選手に指示を出してその通りに動くというスタイルだ。
それ故に、翔田の調子次第でチームが左右されると言っても過言ではない。
「元々、二刀流を引退まで続けるつもりはありません…自分も後3年で30になります。
二刀流を続けられるのは20代までって思ったのですが…予定より少し早く終わる事になりました」
浅野は無言でワインを飲む。
「今後は投手として、キングダムを引っ張っていこうと思います」
「その原因は吉川か?」
「ええ、そうです…あの人はオレの二刀流を終わらせるきっかけを作りました。
でも、それだけじゃオレはあの人に負けたままです。
あの人を何としてでも負かしてやりたい。
今の目標は、あの人に勝つ事です」
浅野はグラスに残ったワインを飲み干した。
「二刀流をやりたいと言ったのはお前だ。
そして二刀流をやるよう、環境を作ったのはフロントだ。
言わば、お前とフロントが二刀流を実現させたんだ…
その二刀流に反対したのは吉川だと言うが…実はオレも二刀流には反対だったんだ」
「エッ、監督も二刀流を反対してたんですか?」
翔田は初耳だった。
「オレは現役時代、メジャーでプレーしていたんだが、メジャーでさえ、二刀流をやる選手なんていなかった。
それはあまりにも無謀だからだ。
だが、お前は二刀流の第一人者になるって豪語した」
「えぇ…キングダムに入る条件として、二刀流をやらせてくれと言いましたから」
「オレは吉川よりも二刀流反対って、言い続けてたんだ…しかし、キングダムに入るには二刀流をさせるのが条件だと言う…
本来ならば、こんなバカげた事を言うヤツなんか獲る必要ないって、こっちからお断りするんだが、お前なら、二刀流を実現するかもしれないと思って受け入れたんだ。
しかも、どうせ二刀流なんてすぐに止めるだろうと思ってたからな…」
浅野はハナっから二刀流なんて出来っこないとタカをくくっていた。
「そうでしたか…自分も意地で、何が何でも二刀流を実現してやるっ!って必死にやってましたから」
「お前は二刀流を実現させたんだ…
ここで止めても、お前は二刀流を成功させたという爪痕は残したんだ。
翔田翼という選手が、二刀流でキングダムのリーグ連覇に貢献したという事は、この先のプロ野球史に残る記録でもあるんだ」
「記録なんてどうでもいいです…ファンの記憶に残るような選手でありたいんです」
記録よりも、記憶…
翔田はファンに鮮烈な印象を残す選手でありたいと言う。
「お前は根っからのスーパースターだよ」
「ありがとうございます…」
「これからは投手1本か…」
「はい」
話は尽きない。
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