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シーズン突入

ビッグマウス健在

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始球式はジェイクの推しメンが山なりのボールを投げて球場を沸かせた。


「オオー、ユイちゃん素晴らしい!」

ベンチで一人拍手をしていた。



「おぉ、ジェイク。ちょっと来てくれ」

榊が呼んだ。


「ハイ、何ですか?」


「いいか、ここから更にボーナスポイントとして、お前が完投して勝ったら、あの娘達の楽屋に招待してやる!どうだ、やれるか?」


「ワァオ!ライブを観て楽屋にも行ける…カントク、ボク絶対最後まで投げます!だから、楽屋に招待してください!」


飛び上がらんばかりの勢いで喜んだ。



「ジェイクって、案外扱い易いヤツかもな」


「あれがジェイクのエネルギー源とは」


「ハッハッハッハ、何だっていいじゃねえかよ!とにかく、燃えるものがあれば大いに賛成だ!なぁ?」


「確かにそれでスイッチが入るなら、別に悪い事でも無いんですけどね」


ジェイクは一人で興奮している。



さて、キングダムの先発天海だが、今シーズンは3勝負け無しで防御率は1.57とトップ。

左の翔田と共に左右のエースとして、キングダムにFA移籍した。


昨日は翔田が160kmを連発したせいか、天海も意識しているはず。


「ケッ、何が翔田や!あんなん、オレの引き立て役やろ!どっちが上か、今日でハッキリさせたる!」


いつまで経ってもビッグマウスは治らない。


「オラー、さっさとプレボールって言わんかい!」


「プレイボール!」


促されるように球審が手を挙げた。


スカイウォーカーズのトップバッターはスイッチヒッターの筧。

開幕四戦目から梁屋と入れ替わりで1番を打っている。


この起用法が成功したのか、筧は内野安打で出塁するケースが多い。

出塁率が397という、トップバッターに相応しい成績だ。


「全く…マウンド上で吠えて何やってんだ、アイツは」


ブツブツと文句を言いながら左打席に立った。


「よぉ、ボテボテヒットでセコく打率稼ぐ筧くん!オレの球が打てるかなぁ」


完全にナメきった態度だ。


「あぁ?内野安打のどこが悪いんだよ?ヒットはヒットだろうが、コラ!」


「おーおー、何カッカしてんだザコめ!悔しかったら、オレの球打ってみぃ!」


天海の初球はインコース膝元にズバっと決まったバレット。


のっけから162kmをマーク。


場内がどよめく。


「ギャハハハハハハ!こんなもんで騒ぐな!これからが本番だぜ~っ!」


天海は二球目にツーシームを投げた。


157kmをマーク。

たちまちツーストライクと追い込まれた。


「ほら、打てよ!内野安打にするんやろ?それとも、オレの球は打てへんのか?んー?」


人を食った口調で三球目を投げた。


「もらったぜ!」


打ち頃のインコース、しかもベルトの高さ。


筧がバットを合わせるが、ボールはストーンと大きく落ちた。


「ストライクアウト!」


146kmのスプリットで三球三振。



「やっぱザコや!ザコはおとなしくベンチへ帰れ!」


「おい、それ以上罵ると退場させるぞ!」

堪らず主審が天海に警告した。


「ハッ、出来るもんならやってみぃ!」


それでも意に返さない。


続いて2番の唐澤が打席へ。


「でたな、雰囲気だけスラッガーが」


「何っ!」


「お前は雰囲気だけスラッガーなんや」

この一言で唐澤はキレた。


「おい、もういっぺん言ってみろよ…なぁ!」


「おい、よせ!」


「止めろ、止めろ!」


すかさず両軍のベンチから選手たちが飛び出し、一触即発なムードに。


「唐澤くん!落ち着くんだ!」

結城に制され、正気を戻した。


「すいません…でも、あんな事言われるとスゲー腹立つっていうか」


「それはバットで返すんだ。いいな?」


「はい」


深呼吸をして再び打席に入った。


乱闘の原因を作った天海は平然としている。


むしろ、何が悪いんだ?とでも言いたげな表情だ。


その表情が唐澤にとって苛立たせる。

「フフフっ、そない睨んでもええやん。どうせオレの球は打てんのやっ!」

初球ド真ん中にバレットを投げた。


電光掲示板には164kmと表示された。


更に場内がどよめく。


ゆったりとしたモーションから二球目を投げた。


「…っ!」

今度はフワッとしたスローカーブ。

唐澤はタイミングを崩され空振り。


「ここで若さが出ちゃいましたね」

櫻井は唐澤の唯一の欠点を指摘した。


「彼の唯一の欠点…それは若いが故の短気」


櫻井の言う通り、唐澤は天海に翻弄されている。


(あぁ、クソ!落ち着け、落ち着くんだ!)


こうなると、唐澤は球種を読む集中力が欠ける。


不敵な笑みを浮かべた天海の三球目は、インコースに鋭く食い込むスライダー。


「…クソっ!」


バットを出すが、ボールはミットの中に。


「ストライクアウト!」


唐澤も三球三振に打ち取られた。


「アァ、クソっ!!」


悔しさのあまり、バットを叩きつけた。



「唐澤くん」

次のバッター結城がパーンと唐澤の頬を張った。


一瞬、場内が静まり返った。


「バットをそんな風に扱うんじゃないっ!!」


物凄い剣幕で唐澤を一喝した。


「す…すいません」

唐澤は項垂れてベンチへ下がった。



ベンチでは下を向いたまま、悔しさに耐えている。



「若いな…」


そう言うと、結城は打席に入った。
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