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Aクラス入りを目指して
実は犬猿の仲
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三人はタワーマンション近くの赤ちょうちんに入り、カウンターに座ってまずはビールで乾杯。
初夏のこの陽気に冷たいビールはもってこいだ。
「で、お願いってのは一体何だ?」
珍太郎はお通しの酢の物を口に運んだ。
「実はかくかくしかじかで…」
高梨はジェイク・キムラの件を話した。
榊は高梨に任せ、冷奴やナスのおひたし、肉じゃが等を頼んで片っ端から食べて飲んだ。
「なる程な…その交渉に同席して欲しいってワケか」
「はい…監督、お願い出来ますでしょうか?」
高梨は頭を下げた。
「オレがアメリカに行くのはいいとして…木村パイセンの孫とは言え、そう簡単に契約出来るものなのか?」
「それは…でも、監督が同席してくださるなら交渉はスムーズにいくと思います」
「あ、女将。生中お代わりちょうだい」
榊はマイペースで飲み食いしてる。
「ちょっと榊さん…榊さんからもお願いしてくださいよ」
「んん?まぁ、そんなワケでとっつぁん頼むよ」
そんな事よりも飲む方が先決だ。
「ところで、監督は木村さんとは仲が良かったのですか?」
珍太郎は昔を思い出したのか、少し気まずい表情を浮かべた。
「いやぁ、ホントの事を言うと木村パイセンとはスゴい仲が悪かったんだよ…オレと一緒に首位打者獲った時なんか、一言も話さなかったからなぁ…多分オレにライバル心を燃やしていたんだろうな」
「何だ、とっつぁんと仲悪かったのかよ?」
「うん、まぁ…当時は最多安打というタイトルはまだ無かったんだが、木村パイセンは同じ打率でもオレの方がヒットの数は多いからオレがホントの首位打者だって主張してな…なのに、MVPはオレだったから余計に腹が立ったんだろうな…それ以来、一切会話はしてないんだな」
珍太郎は同じチームの先輩という見方をしていたが、木村は珍太郎をライバルとして見ていた。
それ故に二人は切磋琢磨して優勝という結果になったのだから、決して悪い関係では無いのだが。
「監督は木村さんをどう見ていたのですか?」
「あの人はオレのパイセンだったワケだし、目標とする選手でもあったよ。オレが見てきた中で三本の指に入る外野手だったなぁ…脚が速くて肩も強かったし」
木村省三は珍太郎より三年先輩の外野手で主にライトを守っていた。
俊足巧打のトップバッターとしてギャランドゥを優勝に導いた。
今のように最多安打のタイトルがあれば毎年のように獲得していた屈指の名選手だ。
出塁率も高く、選球眼も一流で塁に出ると盗塁でベースを駆け抜けた。
年間ランニングホームランの記録保持者で、優勝した年は26本のホームランのうち、6本がランニングホームランという、類まれなる脚力を誇った。
盗塁も4年連続でトップに立ち、常に打率は3割をキープ。
しかし優勝の翌年にフライを追いかけてフェンスに激突。
鎖骨を骨折してしまい、それが原因で強肩は影を潜めた。
何とか復帰したのはいいが、古傷をかばうプレーを続けたせいか成績は下降する一方で32才という若さで現役を引退した。
プロ11年間という短い期間ながら、通算打率は307盗塁は436
1534安打を記録し、三塁打は歴代二位の86本。
シーズン最多先頭打者本塁打11本をマーク。
ケガさえ無ければ、珍太郎の記録を軽く越える程の超一流プレイヤーとして球史に名を残していただろう。
「でもさぁ、それはケガを防げなかったって事でジェイクの爺さんにも非はあると思うぜ」
「そうなんだが、ケガというのは不可抗力の要因もあるから一概にはそうと言えないもんだ」
「で、とっつぁんはジェイクの爺さんが死んだ時、葬式に行ったのか?」
「一応な…その時に孫の顔は見たよ」
珍太郎はジェイクと面識があった。
「じゃあ、悪いけどアメリカ行ってジェイク説得してくんないかな?もし成功したら、ボーナスとして1億渡すから」
「何ですぐにお金の話になるんですかっ!しかも、1億なんておいそれと出せるワケ無いでしょう!」
「優勝する為なら、1億ぐらい安いもんだろ!ケチケチして優勝なんて出来っこ無いんだしよー」
「ハッハッハッハ、榊の言う通りだ。高梨、お前もGMなら大盤振る舞いをする時は惜しみなくやるんだ。但し締める時はとことん締めろ」
「はい、肝に銘じておきます」
「交渉の件は引き受けよう。だが、果たしてそれが上手くいくかどうか」
「ありがとうございます。監督が同席してくれるのであれば、彼もイエスと言うでしょう」
「とっつぁんはただ英語で上手く話してくれればいいんだから、後の事は任せてくれ」
「そうか…で、行くとなればいつ出発するんだ?」
「いや、まだ先の話ですし、テーブルに着くまでかなり時間がかかりそうですから」
「何言ってんだ、善は急げだろ!早くセッティングするよう段取りしろ!」
「あ、はい!では早急に手配します」
「さっきお前が言ってた事と同じ事言ってるじゃん」
それから三日後、珍太郎は高梨と共にアメリカへ渡った。
初夏のこの陽気に冷たいビールはもってこいだ。
「で、お願いってのは一体何だ?」
珍太郎はお通しの酢の物を口に運んだ。
「実はかくかくしかじかで…」
高梨はジェイク・キムラの件を話した。
榊は高梨に任せ、冷奴やナスのおひたし、肉じゃが等を頼んで片っ端から食べて飲んだ。
「なる程な…その交渉に同席して欲しいってワケか」
「はい…監督、お願い出来ますでしょうか?」
高梨は頭を下げた。
「オレがアメリカに行くのはいいとして…木村パイセンの孫とは言え、そう簡単に契約出来るものなのか?」
「それは…でも、監督が同席してくださるなら交渉はスムーズにいくと思います」
「あ、女将。生中お代わりちょうだい」
榊はマイペースで飲み食いしてる。
「ちょっと榊さん…榊さんからもお願いしてくださいよ」
「んん?まぁ、そんなワケでとっつぁん頼むよ」
そんな事よりも飲む方が先決だ。
「ところで、監督は木村さんとは仲が良かったのですか?」
珍太郎は昔を思い出したのか、少し気まずい表情を浮かべた。
「いやぁ、ホントの事を言うと木村パイセンとはスゴい仲が悪かったんだよ…オレと一緒に首位打者獲った時なんか、一言も話さなかったからなぁ…多分オレにライバル心を燃やしていたんだろうな」
「何だ、とっつぁんと仲悪かったのかよ?」
「うん、まぁ…当時は最多安打というタイトルはまだ無かったんだが、木村パイセンは同じ打率でもオレの方がヒットの数は多いからオレがホントの首位打者だって主張してな…なのに、MVPはオレだったから余計に腹が立ったんだろうな…それ以来、一切会話はしてないんだな」
珍太郎は同じチームの先輩という見方をしていたが、木村は珍太郎をライバルとして見ていた。
それ故に二人は切磋琢磨して優勝という結果になったのだから、決して悪い関係では無いのだが。
「監督は木村さんをどう見ていたのですか?」
「あの人はオレのパイセンだったワケだし、目標とする選手でもあったよ。オレが見てきた中で三本の指に入る外野手だったなぁ…脚が速くて肩も強かったし」
木村省三は珍太郎より三年先輩の外野手で主にライトを守っていた。
俊足巧打のトップバッターとしてギャランドゥを優勝に導いた。
今のように最多安打のタイトルがあれば毎年のように獲得していた屈指の名選手だ。
出塁率も高く、選球眼も一流で塁に出ると盗塁でベースを駆け抜けた。
年間ランニングホームランの記録保持者で、優勝した年は26本のホームランのうち、6本がランニングホームランという、類まれなる脚力を誇った。
盗塁も4年連続でトップに立ち、常に打率は3割をキープ。
しかし優勝の翌年にフライを追いかけてフェンスに激突。
鎖骨を骨折してしまい、それが原因で強肩は影を潜めた。
何とか復帰したのはいいが、古傷をかばうプレーを続けたせいか成績は下降する一方で32才という若さで現役を引退した。
プロ11年間という短い期間ながら、通算打率は307盗塁は436
1534安打を記録し、三塁打は歴代二位の86本。
シーズン最多先頭打者本塁打11本をマーク。
ケガさえ無ければ、珍太郎の記録を軽く越える程の超一流プレイヤーとして球史に名を残していただろう。
「でもさぁ、それはケガを防げなかったって事でジェイクの爺さんにも非はあると思うぜ」
「そうなんだが、ケガというのは不可抗力の要因もあるから一概にはそうと言えないもんだ」
「で、とっつぁんはジェイクの爺さんが死んだ時、葬式に行ったのか?」
「一応な…その時に孫の顔は見たよ」
珍太郎はジェイクと面識があった。
「じゃあ、悪いけどアメリカ行ってジェイク説得してくんないかな?もし成功したら、ボーナスとして1億渡すから」
「何ですぐにお金の話になるんですかっ!しかも、1億なんておいそれと出せるワケ無いでしょう!」
「優勝する為なら、1億ぐらい安いもんだろ!ケチケチして優勝なんて出来っこ無いんだしよー」
「ハッハッハッハ、榊の言う通りだ。高梨、お前もGMなら大盤振る舞いをする時は惜しみなくやるんだ。但し締める時はとことん締めろ」
「はい、肝に銘じておきます」
「交渉の件は引き受けよう。だが、果たしてそれが上手くいくかどうか」
「ありがとうございます。監督が同席してくれるのであれば、彼もイエスと言うでしょう」
「とっつぁんはただ英語で上手く話してくれればいいんだから、後の事は任せてくれ」
「そうか…で、行くとなればいつ出発するんだ?」
「いや、まだ先の話ですし、テーブルに着くまでかなり時間がかかりそうですから」
「何言ってんだ、善は急げだろ!早くセッティングするよう段取りしろ!」
「あ、はい!では早急に手配します」
「さっきお前が言ってた事と同じ事言ってるじゃん」
それから三日後、珍太郎は高梨と共にアメリカへ渡った。
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