41才の中学二年生(改訂版)

sky-high

文字の大きさ
上 下
4 / 96
1990年だと?

何だ、この亀仙人みたいなジジイは?

しおりを挟む
【だからさっきから言っておるだろう、お前の身体は中2に逆戻りしてると】


誰なんだ、さっきから!


しかも中2?何、ワケの解らない事言ってやがんだ?


…でも、確かに身体は小さくなってる。

オレは178㌢で68㌔、一応痩せ型で、健康には気を使っている。


でも…何だこれは?


…いや、多分疲れてるんだ。
ここんとこ残業も多く、帰りも遅いしな。

家に帰れば帰ったで、妻と娘が中学に進学する事で揉めてるし…


会社でも板挟み、家でも板挟み…あ"ぁ~オレはサンドイッチかっ!


今朝もその事で、妻と娘がギャーギャーと朝っぱらから言い合ってるし…


ーーーー朝の食卓にて


「阿莉紗、今日は塾の日でしょ?終わったら真っ直ぐ帰って来なさい。もうすぐなんだから、受験は」


はぁ…ウチの妻はまたその話か…こうやって、家族揃って食卓を囲んで朝食を食べているのに、塾だの受験だのと、言わなくていいものを…


「何度言ったらわかるの?中学は近所の公立でいいって言ってるでしょ?」


阿莉紗は現在小学校の六年生。
本人は地元の公立中学に行きたがっているが、妻の真奈美は阿莉紗の学力が優秀な為、私立の大学付属中学へ受験するよう、勧めている。


だが、当の阿莉紗は私立中学への受験を受ける気など無く、皆と一緒に、地元の公立中学に行きたがっている。

勉強よりも、友達と一緒に仲良く通学したり、部活に入ったりして、色々とやりたい事があるのだろう。
オレ自身の考えとしては、阿莉紗の自由にさせてやりたい。


だが、妻はそうは思っていない。

自身が私立中学へ受験し、そのままエスカレーター式に付属の大学へ入った経験からか、今のうちに受験をさせ、高校や大学の受験で苦労しないようにと、口酸っぱく阿莉紗に言い聞かせているみたいだが、阿莉紗には阿莉紗なりの考えがある。


こういう話になると、オレは蚊帳の外だ。


「何言ってるの!貴女は成績が良いんだから、今のうちに有名の私立校に行った方がいいの!
高校も大学も、エスカレーター式に入れるんだから。
ねぇ、パパ?
パパからも、阿莉紗に受験するように言ってくれないかしら?」


妻は必ず食事の時、この話をする。しかしオレに振っても、大したアドバイスなんて出来ない。


オレは新聞に目を通しながら、コーヒーを飲んでいた。


「ん?阿莉紗。お前は何で、公立の中学に行きたがるんだ?」


面倒臭い…いいじゃないか、何処の中学だって…



ほら見ろ、阿莉紗だって朝から受験、受験なんて言うから、パンもサラダにも手をつけてない。

1日の始まりの朝食なんだから、ちゃんと食べなきゃダメだろ!

なのに妻は、毎回そんな事を言うから、せっかく作ったパンやサラダ、ハムエッグが手付かずのままだ。



「だって、皆は近くの公立の中学に入るんだよ?私だけ私立の中学に行ったら、友達と離ればなれになっちゃうんだよ…私、そんなのイヤ!皆と一緒に、同じ中学に行きたい…」


そりゃそうだ。勉強も大事だけど、友達はもっと大事だ。


「なぁ、ママ。阿莉紗もこう言ってるんだし、何も無理して、私立の中学に入れる事ないんじゃないかなぁ。今の阿莉紗は勉強も必要だけど、友達と一緒にいる事が一番楽しいんだ。少しは阿莉紗の事も考えてあげた方がいいんじゃないのかな」


そう言うと、必ず妻はムキになって言い返す。
ろくに飯も食えやしない。



「何言ってるの、パパは!いい?阿莉紗は今、一番大事な時なの!友達なんて、中学に入ってからでも作れるでしょ?」

他の事には無頓着なんだが、阿莉紗の事になると豹変する。

…こりゃ、永遠に続きそうだな。


妻は阿莉紗の事になると、すぐに受験、受験と言うが…

何だか、飯食う気失せた…

毎朝こんな事ばかり言って、ちゃんと朝食を食べた事、無いじゃないか…

明日から、駅の立ち食いそば屋にするか…


「パパっ!私、絶対に受験しないから!ママだって、私と同じ頃に友達と離れて1人で電車に乗って通学したんでしょ?友達と離れるの、イヤじゃなかったの?」


妻はエスカレーター式の大学付属中学から入って、後はトントン拍子に大学に進んだせいか、後々の事を考えれば楽と言えば楽なんだが。
この経験を生かし、阿莉紗に受験するよう勧めている。


「ママは友達よりも、学業を優先したの。貴女は私に似て頭が良いんだから、ママの言う通りにしなさい、いいわね?」

普段はおっとりした和風な顔立ちの妻だが、阿莉紗の受験の話になると、表情も口調も変わってくる。

それより、オレに似たら頭悪いっていうのかよ?

確かにオレは、阿莉紗と同じ年の頃は、勉強はまるっきりダメで遊んでばかりだったけど、学校生活ってのは勉強ばかりじゃないんだぞ。
解ってんのか、おい?


「だ か ら!私は皆と一緒の中学に行くの!もう、ママは私の顔見るとすぐに勉強、勉強って…もういい!私そろそろ学校に行く!」


朝からいい加減にしてっ!とランドセルを持ち、バタン!と乱暴にドアを閉めると、学校へ行ってしまった。

あぁ~あ、また何も食べないで学校に行っちまったし…


はぁ…飯ぐらい、ゆっくり食わせろよな…


「ちょっと待ちなさい、阿莉紗!はぁ…全く、あの子ったら。パパ!パパも、もうちょっと強く言ってくれないと!だから、あの子は受験したがらないのよ!ねぇ、パパ!聞いてるの?」

あぁ~!もう、めんどくせーヤツだな、ホントに!


「ママさぁ、何のために朝飯作ってんだよ?ママが毎朝こんな事言うから、アイツは朝食食べないで学校に行ってるじゃないか。

ママの言い分も解るんだが、阿莉紗にだって、やりたい事があるんだろ…あ、そろそろ行く時間だ!ママ、悪いけど車出して!遅刻しちゃう」


飯も満足に食えない…

こんなんだから、午前中は物凄い腹が減るんだよ…


【グゥ~、ワンワン!】


「ん?どうしたシバオ?」


愛犬のシバオ(柴犬♂三才)がいつの間にか、テーブルの下にいて、オレを見て吠えてる。


コイツは妻や阿莉紗には懐くんだが、どういうワケか、オレには懐かない…


そういや、阿莉紗が言ってたな。


「パパを見て吠えるのは、パパの事を下だと思ってるからなんだって。パパ、シバオより下に見られてるじゃんw」


何だと、このアホ犬が!



以前、オレのハムエッグを横からパクって食べたぐらいだからな。


「こら、シバオ!それはパパのだ、離しなさい!」


【ガルルル~、ガブッ】


「痛ぇ!コイツ、噛みつきやがった!」


あの時は手から血が出て、包帯巻いて会社に通ったっけ…


コイツを飼い始めて3年。
マイホーム購入と同時に、阿莉紗が犬を飼いたいというから、近所のペットショップで生後2ヶ月の白と茶色の毛をした、つぶらな瞳の可愛い柴犬を見て、それからここに住むようになったんだよな…


あれから3年…

全くオレに懐かない!


人のツラ見りゃ、ワンワン吠えてばっかだ…

「パパ、早く行くわよ」


妻に急かされ、軽自動車の助手席に乗り、駅まで送ってもらった…





朝っぱらから、そんなやり取りがあったから疲れてるんだ。
だから幻聴が聞こえるし、オレの身体も錯覚で小さく見えるんだ…


はぁ…たまには疲れを癒しに、温泉でも行きたいもんだ…


【こりゃ!さっきから聞こえるのは、幻聴でもなんでもないわい!】


「のゎっ!」


目の前に現れたのは、ツルッパゲに白く長いヒゲを蓄えた老人で、山伏みたいな白い装束に、先がモコモコっとしている杖を携えていた!


しかも、このジジイ宙に浮いてるっ!!



あぁ…これは、かなり疲れてる証拠だ…ドラゴンボールの亀仙人みたいなジイさんが見えるようになるとは…今度の週末、検査してもらおう…


ここ最近、まともに朝食を食べてない。

それも原因なんだろうな…


【いかにも!ワシャ、仙人じゃ!】


「…こりゃ、重症だな…今日は休もうかな」


『間もなく3番線ホームより、電車が参ります。危ないので白線の内側まで、お下がりください』


とは言え、休めないしな…憂鬱だな。


【おい、聞いてるのか!】


ん?でも、待てよ…こんなラッシュアワー時に、変な格好してるとは…

ヤバいジイサンだと思って、見て見ないフリをしてるのかも…


そうか、そういう事か。


こんな、慌ただしい時間帯なのに、コスプレしたジジイが満員電車に乗るな!ったく。


【こりゃ!さっきからワシの話を聞いてるのか、お主は!】

ジジイはオレの前に立ちはだかった。

「ウルセー、くそジジイ!こっちは今から仕事なんだ、邪魔すんじゃねえ!」


おいおい…誰か注意しないのかよ、このジイさんを…


迷惑に思わないのか?



ザワザワザワザワ…


『またあの子、1人で怒鳴ってるよ』


『勉強のやり過ぎで、頭おかしくなったんじゃないのか?』


『朝っぱらから、うるさいガキだな』


…何だ?何で、皆オレの事見るんだ?

このジジイの方が、十分怪しい格好してるだろ!


【フォッフォッフォッフォ、周りにはワシの姿は見えんのだ】


「はぁ?」


やっぱり、あぶねージジイだ…ありゃ、家族に相手にされないんだろうな、きっと。

関わるのはよそう。


電車が停まり、ドアが開いたと同時に一目散に満員の中へと入った。


【待つのじゃ!】


ゲッ!乗り込んできやがった、このジジイ!


【ハンニャラホンニャラ、フニャチャカピー、ワイハー、ザギンにギロッポン!カーッ!】


何?これは呪文?ワケの解らん事を口走り、オレに杖を向けた!


ん?…あれ?何だ目の前が…


目に映る物、全てがグニャ~っと歪んで見える!


「な、何だ何だ!目の前が段々暗くなってくる!助けてくれ~っ!」


…そこから先は全く覚えてない…

    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...