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第三十三話
しおりを挟む黒龍が先にアーカート城前の砂浜につき、砂浜をジグザグと進んで森に向っている。
帆船もやっとアーカートの砂浜に着いたが砂浜に黒龍の姿は見えなくなっていた。
「走れ、アーカートの森へ」
森の中に走っていくと、アーカート兵が何人も倒れていて足に茶色の液体がかけられていた。
その横にローレンツ王と女占い師のイザベラも倒れていた。
全員の足に茶色の液体がかけられている。
ルシアが白い布で薬草を塗り、ローレンツ王、イザベラ、アーカート兵の足を拭いていく。
やがて兵が目覚めてリチャードの姿を見て敬礼をした。
イザベラも立ち上がり、ローレンツ王に駆け寄る。
「陛下、ローレンツ女王様、大丈夫ですか。私としたことが」
イザベラが私の姿を見た。
「リチャード様ではないですか。
森の様子が気になるとローレンツ女王からお言葉があり、私も女王と兵とともに森に視察に来たところ、黒い魔物に襲われて気を失ってしまったのです」
イザベラも温和な顔だ。
そのあとにローレンツ王が目覚めた。
「リチャード、どうしたのか」
ローレンツ王の顔は前の老女の過去に戻ったが顔つきは温和そうだ。
「はい、ローレンツ王、私はマリナ、ルシア、アームと共に陛下に城から追放され、3つの神器を探して見つけたところでございます。
邪悪な存在がこの先の森の中に入り込みましたので何とか封印する手段を講じている所です」
「何!私が息子のリチャードを追放したのか?」
イザベラが口を挟む。
「はい。確かに追放なされました。
そして私もどうかしていたのですが私の助言により、陛下は『私の後継者はローレンツ家の先祖であるアーカート王が持っていた神器であるムラマサの剣を持つものとする。
そしてその王妃は神器の赤いペンダントを持つ女とする』と宣言されました。
その後に、息子であるリチャード様を城から追放なされました」
ローレンツ王は涙を流した。
「私はどうかしていたのだ。老いかも知れぬ」
「陛下、兄上のメイもこの森の奥に囚われております。
マリナと兄上のメイを救い出し、このアーカートを守って参ります」
「リチャード、残されたお前だけが頼りだ。
無礼を謝罪する。前言は撤回だ。
メイを救ってくれ」
ローレンツ王は辺りの兵士に宣言した。
「リチャードは城に戻る。
アーカート城の兵士は全軍リチャードが指揮官だ。城にもすぐ伝令を飛ばせ。
それからアームもルシアも追放を解き、元の職位役割に戻す」
兵の一人は跪き、すぐに城に向って走って行った。
ローレンツ王はここに残った兵士にも命令した。
「今からお前たちアーカートの兵士はリチャードの配下とする」
兵がすぐリチャードに寄ってきた。
「リチャード様、武器と防具があります。我らの物をお使いください。
森の中へは我々も付いて参ります」
「ありがとう」
従卒長に戻ったアームが兵に頼みごとをしていた。
「砂浜の砲台を城の近くに引き寄せて城を守る準備をしたほうが良い。
砲台で持てる者は森にも運んでくれ。それから、森は危ないから陛下を城へ」
私たちは武装の準備を整えてアーム、ルシア、それに元気のない無言のベクターを連れて、何人かのアーカートの兵士を連れ森の中に入って行った。
(急がなくては、マリナが心配だ)
森の奥から、紫色の光が輝いているのが見える。
森の奥に彗星が落ちたせいなのか、四角の地肌がむき出しになっている所がある。
私は森の木の間からその四角の部分の様子を伺った。
「あれは?」
四角の地肌に、縦と横に黒の線がいくつか走っている。
その四角の一番奥の真ん中に女が立っている。女の顔と首の周りには紫色の覆いで隠されており女の人相や髪形がわからない。
首から下の衣装は何も身に着けていないようだが、遠目から見る限り上体のポロポーションは美しく思える。
覆いから透けて見えるが頭にはティアラを付けている。
(マリナなのか?)
その女の横にはアリシアが黒龍の姿から女の姿に戻って一糸纏わぬ姿で立っている。
地肌から外れた草むらの男の姿が見えた。
男は後ろ向きになって両手両足を縛られて地面に転がされている。
森は暗いが遠くの空が明るさを増している。
もうすぐ夜明けか。
私の後ろでルシアが男を凝視している。
「リチャード様、あの服は、あの靴は」
ルシアが泣きそうになっている。
「どうした。ルシア」
「リチャード様、あのマント、あの先が尖った靴、メイ様でございます」
「わかった。絶対に助ける」
武装して精悍さが戻ったアームが、森を見渡した後に私に報告した。
「リチャード様、この森を右の方から周回するとあのアリシアとその横のメイ様にもっと近づけることができます。反対側から接近しましょう」
私たちはアームの指示に従い、森の反対側に回り、草むらに身を隠し身体を伏せながら、アリシアに近づいて行った。
地面に転がっている男の顔が見える。猿轡をかまされている。
ただ私はメイの顔を知らない。
小さな声で囁くようにルシアの耳元で聞いた。
「あれは、メイなのか。私の記憶がまだ戻っていないようだ。」
ルシアが泣いている。
「はい。間違いないです」
ルシアが私の前に行き、メイの近くまで石を投げた。
メイがこちらを見た。
ルシアの顔を見て目をぱちくりさせている。
私もメイの顔を確認すると、さらにメイの目が大きく開いて縛られた身体を揺すった。
こちらを認識したようだ。
さらに草むらに隠れて近づくと、後ろ向きになっているアリシアの声が聞こえてきた。
「アポフィス様、このブームスランが3つの神器を集めました。
もうすぐ夜が明けます。
そうしましたら、紫の霧と雲を呼び寄せます。
この四方形からアポフィス様が蘇る手立ては揃えました。
生贄もございます。
アーカートの祖先には以前、ひどい目にあわされましたが、今年は彗星のめぐりあわせが良く今度こそ、この地を人間から魔界の世界にぬりかえる機会がやって参りました。
このブームスラン、この日をどれだけ待ちのぞんだことか。
もうすぐアポフィス様とお会いできるとは喜びの極致でございます」
(あの女、アリシアではないのか。
ブームスランとか言っているぞ)
後ろのベクターを見たが、ベクターもその名前に心当たりはなさそうだった。
ルシアが囁いた。
「リチャード様、ブームスランは、邪悪な魔物アポフィスの一番の部下の名前のはずです。正体は蛇のような黒龍の魔物です」
「そうなのか。ルシアは何でも知っているな」
ベクターが息を飲んでいるのがわかる。ぶつぶつ呟いている。
「蛇のような黒龍と俺は契りを結んだのか」
草むらから私は様子を見ていた。
隙があればメイを助ける予定だ。
あの顔が覆いで隠された女がマリナであって、生贄にされそうならすぐにこの身を犠牲にしても助けるつもりだ。
私の横にルシアも来ている。
アームは草むらの後ろから、反対側の大砲を用意している兵士とアイコンタクトをしている。
ベクターは茫然としているだけで役に立ちそうにない。
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