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第三十二話
しおりを挟む「アリシア、早く私を助けよ。ムラマサの剣を奪い返せ」
ベクターがアリシアに声をかける。
アリシアの様子が変だ。
無表情のアリシアの顔が黒色に変わって、口が裂けている。
「うわっ。どうしたアリシア」
「ベクター。もうお前にも用は無い。
お前といればいずれ神器が手に入ると利用させてもらっただけだ。
アーカート城のメイも同じ。ローレンツ女王と占い師のイザベラも操った。
4人とも神器を手に入れるため私の口から吐く茶色の体液で心を操り、利用させてもらったが、もう全員の役割は終わった。
彗星が落ちたアーカートの森で来るべき封印を解き、私の崇める存在の復活に必要な神器は今ここに揃った。
これでこの世を人間から私たちの世界に変えてしまうことができる」
アリシアの衣装が破けて全身が大きくなって露わになった。
顔が人間から蛇のように変わっていく。
皮膚が黒色で鱗がある。
黒蛇のようだが、手足も、しっぽもある。
(まるで、黒龍のようだ)
ベクターがふらふらと黒龍に近づいたが、あっという間に地面に叩きつけられ、足から血が流れている。
ベクターが驚きすぎて瞳孔が空き口も開いて放心状態だ。
私はムラマサの剣を構え、アリシアに向き合った。
「リチャード、お前にも用はない。
その剣を貰うぞ」
アリシアの衣装が完全に敗れ去り、ダンジョンの天井まで黒い蛇のような悪魔の龍の頭が持ち上がった。
黒龍の右手が大きく伸び、私の剣を掴んだ。
(恐ろしい力だ。剣が動かない)
あっという間に、私のムラマサの剣は、黒龍の右手に持っていかれた。
さらに黒龍の左手が伸び、マリナの身体を抱きかかえた。
「マリナ!」
私は必死で黒龍の左手に飛びついたが凄い力で振り解かれて私の身体は地面に投げ出された。
黒龍は右手のムラマサの剣、左手にティアラを頭上につけたマリナを抱えて、咆哮を上げた。
皮膚の鱗の一つに赤いペンダントが引っ掛かっている。
そのまま、黒龍はダンジョンの岩の天井を突き破った。
岩の天井から砂利が頭上から降り注いだ。
大きな穴から満月が顔を覗かせている。
「マリナ!」
私はすぐに立ち上がり黒龍の尾に追いすがったが、龍の尾を振り払われて再度地面にたたきつけられた。
黒龍は天井の開いたダンジョンの穴から上部に飛び跳ねて消え去って行った。
「リチャード様、大丈夫ですか」
リシアとアームが駆け寄ってくる。
「ルシア、アーム。
急いでアーカートの森に行こう。あの邪悪な黒龍は森に行くと言っていたはず。そこにマリナもいるはずだ。それに早くしないと悪魔が封印から蘇ってしまう」
ベクターが足から血を流しながら倒れている。
ルシアが、ベクターの足に白い布を押し当てた。十分押し当ててから布を離した。
ベクターの足も茶色の液体がなくなり足の血も止まっている。
「待ってくれ」
ベクター情けない声を出している。
表情がやつれているが温和な顔つきになっている。
「申し訳なかった。私はただの釣り好きの豪族だ。
アーカートには興味がなかった。
あの日、あの妖艶なアリシアに会うまでは。
信じられない。あのアリシアが。今でも」
ベクターの顔が正気に戻っているような気がした。ベクターが私を見ている。
「リチャード、私もアーカートに連れて行ってくれ。
いや、もうアーカートの地を取ろうという気は無い。
アリシアを説得、いや無理か。
とにかく連れて行ってくれ、お願いだ。
とにかく謝る」
私はどうしていいかわからなかったが、アームが
「今は一人でも多いほうがいいです。
さあ、リチャード様、アーカートの森に行きましょう、いえ、私たちの地であるアーカートに戻りましょう」
ベクターが私に話しかける。
「そうだ。ブラックアイランド島のこのダンジョンの奥の入口に木の実がなっているはずだ。ラピスラズリの実だ。
タキ司祭が東方の国ジパンの旅人から種を貰い植えたという伝説の実だ。
ひょっとしたら役に立つかもしれない。私を連れて行ってくれたらその実を渡そう」
ルシアが顔色を変えた。
「ラピスラズリの実は実在するのですか。あの伝説の」
「そうだ。誰にも試したことは無いが」
「ルシア、ラピスラズリの実というのは何だ。
教会でタキ司祭も言っていたような気がしたが」
「はい、リチャード様。東方の国ジパンで、すべての悪行を退治してすべての善に置き換えるといわれる伝説の薬草でございます。
メイ様が、聞いたことがあるが実在しないだろうとおっしゃっていました」
ベクターが話を続けた。
「セイント カノンという旅人が持っていたとタキ司祭は言っていたぞ」
私はみんなを見渡した。マリナを救わなくてはいけない。今はリーダのマリナも居ない。
「とにかくその実も手に入れて、アーカートの森へ行くぞ。マリナを必ず救うぞ」
私が号令を出した。
ラピスラズリの実を手に入れ、帆船に乗り込み私たちは全速前進で進めた。
かなり前に長い蛇のような黒い魔物が海上をゆっくりと進んでいる。
風が向かい風だ。それもかなり強い向かい風だ。
(黒龍か。マリナを手にしているから海に潜らず海上を進んでいるのか。あの黒龍は海上を進むのは苦手なのか)
「アーム、全速力で進め」
「はい、リチャード様。向かい風が強くこの帆船の独自の動力をフル活用しておりますがなかなかスピードが出ません」
夜が更けて帆船はかなりの時間を海上で費やした。しかし前尾を行く黒龍の動きもかなり遅い。
これは夜が明けるかもしれない。
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