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第二十八話
しおりを挟むダンジョンを抜けて帆船に戻り、川を下ってブラックアイランド島を目指すことにした。
「リチャード様、アーカート城の砂浜に立ち寄って武器をこの帆船に積みたいと思います」
「アーム、どんな武器がある?」
「はい、リチャード様。超距離砲の大砲を借りようと思います。
もともと、お兄様のメイ様が開発した大砲でございます。
今回の目的のため、メイ様も賛成してくださるはずです」
帆船はアーカート城手前の砂浜に着岸すると、アームが手際よく砂浜の砲台から1基の大砲と砲弾をいくつか船に乗せて、甲板に設置した。
夕方が近づきつつある。陽の光も弱まってきている。
「マリナ様、ブラックアイランド島に舵を切ります。
敵はブラックアイランドの城に居るはずです」
「わかったわ。ワクワクする」
「マリナ様、アーカート城に比べてば、安普請の城でございます。
城は防御するためだけの平屋の構築物であり、城の主が住むのは城の奥にある別の建物だとの噂です。
大将のベクターは城の奥の林の中の建物に愛人と住んでいるらしいです」
「先制攻撃で一気に迫れそうね。
舞踏会であのアリシアがペンダントを身に着けていたよね」
マリナは高笑いをして満足そうに頷いた。
帆船がブラックアイランド島に向け順調に進んでいる。
夕方になり太陽が水平線近くまで来ている。
日暮れに近づき波も最後の太陽光を浴び、赤い黄金色に染まっている。
帆船の最新式の船室から太陽光で貯めた電気で発電していると思われるライトが灯った。
「魔物が来ないわね」
そう言うとマリナが退屈そうに甲板に設置した大砲を眺めている。
ルシアは甲板の一番端の帆先に行ってブラックアイランド島が浮かんでいる水平線を眺めている。
アームも自動走行モードを習得したようで、ルシアの横で同じように水平線を眺めている。
私は甲板の真ん中あたりに移動した。そしてアーカート山頂で手に入れた剣を眺めていた。
急に帆先で波柱が立った。
「まさか」
私は剣を構えた。
帆先の海から、急に吸盤のついた2本の足が波間から飛び出して、その吸盤の足が帆先にいる二人に襲い掛かった。
吸盤に吸い寄せられたルシアが宙に浮いた。
アームも魔物の足で身体を払われ甲板を転がっている。
オオダコの魔物の足だ。
私の頭上にもアームの身体を振り払った魔物の足が襲い掛かってきた。
オオダコの魔物の足を目掛けて剣を突き刺した。
先日のソードはオオダコにやられて折れてしまったが、今度のアーカート山で入手したムラマサという神器の剣は折れずに魔物に突き刺ささりそうだ。
剣を持つと私の身体にも力がみなぎってくる。
私は、上から襲ってくる吸盤のついた魔物の足を突き刺した。
断末魔のような声がしてオオダコの魔物の足が蒸発した。
「ルシア。今助けるぞ」
私はルシアを吸盤で吸い寄せている魔物の足の根元を狙った。
しかし魔物の足は私の剣を避けて後退していき、剣と魔物の足の距離が開いて攻撃できない。
アームが魔物の足の根元を目掛けて後ろから大砲を打とうと準備をしている。
その横で、マリナがティアラを触っているが氷雪ビームはティアラから発射されない。
(ルシアを早く助けなければ。
やられるかもしれないが魔物に突っ込み距離を縮めようか)
突然、更に大きな波柱が立ち、魔物の胴体が帆船の甲板に向ってニュルっと顔を出した。
クラーケンの魔物だ。
そして胴体から墨のような黒紫色の液体が、アーム目掛けて飛んで行った。
アームはが墨のような液体まみれとなり、墨の勢いに負けて甲板を転がっている。
(大砲もダメか。マリナのティアラからの魔物を一瞬で凍らせるビームも不発か。
急がないとルシアが海に飲み込まれてしまう)
ルシアを吸い寄せている魔物の足が、ルシアを掴んだまま甲板の帆先に逃げようとしている。外に魔物の足で攫われようとしている。
魔物の胴体の間から大きな口が開いた。胴体も帆先から離れようとしている。
(まさか、ルシアを食べる気か)
私は甲板を走り勢いをつけて帆先から船の外にジャンプして、海上に浮かんでいる魔物の胴体を目掛けて剣を持って飛び込んだ。
ルシアを吸いつけている魔物の足が、魔物の胴体の口の中に入れようとしている。
「ムラマサの剣を受けてみろ」
私は魔物の胴体に剣を突き刺した。
剣が光り輝いている。
クラーケンは断末魔のような声を出した。
衝撃を感じた。手ごたえはあったはずだ。
オオダコの魔物の胴体とルシアを吸い取っていた足が蒸発した。
魔物が蒸発して、ルシアと私は海に投げ出された。
「ルシア!」
「リチャード様」
ルシアも波間に浮かんでいる。
どうやら助かったようだ。
右手には剣があることも確認した。
今度は折れなかったみたいだ。
墨にまみれたアームに浮き輪を投げてもらい、ルシアと私は甲板に救助された。
「みんな無事でよかったわ。それにしてもティアラの氷雪光線が不発だったわ」
マリナは不服そうにルシアに問いかけている。
「マリナ様、ダンジョンの妖精が教えてくれたのですが、ティアラは右の駒を押して私が後ろで支えてからリチャード様が近くにいるときだけ発射されるようです。
あのダンジョンの妖精は宝の在り処や宝の扱いを良く知っている妖精でございます」
「そうか、そうだったわね。
ルシアが居ないと、このティアラは武器にならないのか。
あとリチャードも近くに居ないとだめなのね」
マリナはルシアを見て、物知り顔を見せた。
すっかり日が暮れた。
墨だらけのアームが言った。
「これからブラックアイランド島に近づきます」
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