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第二十五話
しおりを挟む「また、オオコウモリの魔物が潜んでいるかもしれないから、リチャード、松明と剣を両手で持って、一番先頭に立って上にあげて進んで」
怯えを全く見せないマリナに指示されて、私は松明のうち一つをアームから受け取り暗がりのダンジョンを進んだ。
先頭は私だ。暗がりのダンジョンを進む先頭は先が見えない怖さが倍増する。
私、ルシア、マリナ、アームの順だ。
マリナは短剣を持って、『アームの松明に魔物が来たらこれでやっつける』と息巻いていた。
シャーという音は小さくなるが無くなることは無かった。
前に進んでいくうちに何度かオオコウモリが私の松明目掛けて飛んできたが、剣が勝手にオオコウモリの羽を突き刺して、そのたびにオオコウモリの魔物は宙で蒸発して消えていった。
「前が少し明るくなってきたようだ」
平坦な岩の道の先に眼前に一条の光が上から差し込んでいるのが見えた。
確かめようと少し走ろうとして、岩に足を取られ私はバランスを失った。
片足の靴が脱げて前から岩肌の地面に転んだ。
「リチャード様、大丈夫ですが?」
しんがりのアームから声が聞こえた。
「ああ、何とか」
「リチャード様、大変、額から血が出ています」
ルシアが駆け寄って、胸元から白い布を出してきて私の額に手際よく巻いて行った。
「ありがとう。大丈夫だ」
脱げた片方の靴を探して履き直したが、靴底の一部が破れているようだ。
「リチャード様、大丈夫ですか」
ルシアが心配そうに声をかけてくれる。
「大丈夫だ。大したことは無い」
少し上りの道が続き、細い通路のような所を登っていくと急にダンジョンの空間が広がった。
シャーという音が大きくなってきた。
アームが松明の灯りを空間の広がりに照らした。
そこは前面の岩の前から大量の水が上部の穴から滝のように流れ出てきていた。
(シャーという音はこの音だったのか)
穴に行く手前には川が道を遮っていて、穴のある岩場には行けない。
穴の高さはさほど高くはなくわたしの身長の倍くらいの高さの上に穴が開いて太陽の光がこの岩場まで射し込んでいる。
マリナは私を追い抜いて穴の手前で上を見て、前を見た。
「この光はこの上の穴から射し込んでいるのね。
そして穴に通じる岩場の前には、滝のような水流と川が遮っているわ。
川の幅もジャンプしても届かないし、滝のような強い水が絶えず落ちてきているからそれに逆らって上に登ることもできそうにないわ」
(確かに川幅は私の身長の4倍くらいありそうだ)
マリナは、赤髪を触りながらダンジョンの光が差し込む岩の広間の隅々や眼前の滝や川を見て言った。
「この前の滝と川を越える以外に上の穴に行けそうな方法はなさそうね。
アームがもう一つの松明でこのダンジョンの広間全体を照らした。
ルシアも上に空いている穴と目の前の滝や川を見ている。
アームが松明を地面に置いて、すぐ横の岩に足をかけたが、すぐにずり落ちてきた。
「リチャード様、この岩は湿度が高く水にぬれているのかもしれませんが、ぬるぬるしています。目の前を避けて岩場を登って穴に行くことは難しそうですね」
今度はアームが川の手前にしゃがみ込み川に手や足を入れたり川面の顔を近づけたりしている。
「リチャード様、川の水が濁っていて深さは分かりませんが、浅瀬ではなさそうです」
川は左から右にゆっくりと流れている。滝から落ちてきた水と合流して右に流れている。
この川も私たちが登ってきた河口に通じているのだろうか。
「リチャード、貴方のお兄さんのメイはここにも来ていたはずよね。
でも、トマスもアームもダンジョンには呼んでいない。
そうしなくても昇り降りできたからこそ、二人ともダンジョンに呼ばなかったと思うの」
「そうだな」
「だから方法はあるはずよ。それともお兄さんのメイは魔法使いだったの」
ルシアが答える。
「いえ、魔法使いはメイ様ではありません。メイ様は魔法をお使いになれません。」
マリナは頭上のティアラを見たあとに滝を見て考えている。
私は、一応ここに入るときと同じ出雲大社の拝礼のやり方をもう一回やってみた。
何回か4回拍手をしてみた。
私はじっくりとダンジョンの岩や滝や川を見つめた。
しかし、岩も滝も川も変化は無かった。
ただ、川の表面が少し変わってきたように感じた。
(気のせいなのか)
ルシアが川面に近づいて何か見ている。
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