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第二十話

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マリナが倒れたのは、あの教会の時と同じだ。
あの時もマリナの髪や指先に青白い光が包まれていた。
あの時は雷に直撃されたのではなく、近くにあった大木に落ちた雷の巻き添えになってマリナは気絶したのだった。
今回もマリナの髪や指先に青白い光が包まれていたということは雷の直撃は免れたかも知れない。
「ルシア、マリナの容態はどうだ?」
「教会で倒れられた時と同じでございます。呼吸も身体も大丈夫のようです。
火傷の痕も見当たりません。
しばらく様子を見てみましょう」
「ルシア、前も感じたのだが、あなたは医術の心得があるのか?」
「はい。王室の医師の手伝いをしているうちに医師からも色々と教えてもらったりしておりました。
本物の医師には及びませんが、王室の医師の知り合いで東方の医術の心得の有る者がいて様々な医術の心得を伝授していただきました」
「そうなのか。私が額に傷を負ったときも、短期間で見違えるように回復したし、改めて感謝する」
「いえ、当然のことをしただけでございます」

マリナが呻いた。
ベッドに近づくとマリナの瞳がゆっくりと開いた。
「大丈夫か」
「ハヤト?
私は大丈夫。
ちょっと気を失っていたみたい。
帆船が大きく揺れたから。
それにしても滝宗因先生は強かったわ。
もう少しで負けるところだったもの」
私は再び衝撃を受けた。
「ハヤトって言った?」
「そうよ、ハヤトでしょう」
「君は、つまり、王飛マリナ?」
「そうよ、何言っているの」
「記憶が戻ったのか」
「何が?
少しだけ気を失っていただけよ。寝ていただけよ」
「今ここで起きていることも覚えているか?」
「それより寝ていた時、また変な夢を見たわ。
海でオオダコの魔物に襲われて、ティアラの光線でやっつけた夢よ。
その前は教会で婚約破棄されたり、リチャードとか言うちょっと私のタイプの王子に求愛されたり、ボートに乗って船団を追い払ったり。
変なマントの男の夢を見て以来、変な夢ばかりだわ。
将棋のタイトルを奪取して気持ちが舞い上がっていたせいかしら」
「いや、夢じゃないと思う」
「えっ、どういうこと?」

私はマリナに、赤月龍王戦という将棋のタイトル戦が最先端技術の帆船で行われたことや
その後に大波に襲われてこの異世界にやってきたことを説明した。
教会を追い出され、舞踏会での出来事やその後にローレンツ女王に城を追放されたことも説明した。
古文書に書いてあったことや邪悪な存在を封印するためにこれからしないといけないことも力説した。
この教会も明日には出て行かないといけないことも話をした。
私の説明を聞いている間、マリナはベッドから上半身を起こした。
その後、ぽかんと口を開けてじっとしたり、腕を組んでじっとしたりしていた。
「わかったわ。明日行くところを決めないと。
それと舞踏会での出来事はすべて本当でしょうね?」
「私が話したことはすべて事実だ」

マリナは急に顔を赤くしてベッドに突っ伏したりして、髪の毛を触って整えたりと忙しそうにしていた。
そして小声で、「やばい。さっき、リチャードとか言うちょっと私のタイプの王子って口走ったかも」とマリナが言ったような気がした。
更にマリナはベッドの毛布に向ってさらに小さな声で独り言をつぶやいていた。
マリナの唇と小さな声を推察すると彼女はこういったような気がした。
「そうよ、ここでは女流将棋棋士の王飛マリナではなくアーカートの地に来たただのマリナ。そしてハヤトはリチャード。
ミッションをクリアすれば結婚できるとしたら、異世界の来る前に私が欲しいと願っていたことが実現するかも」
私は鼓動が高まり、顔が火照るのを感じた。

マリナは考えるしぐさをした後にベッドに再び突っ伏した。心なしかマリナの顔も赤くなっている気がした。

「明日行くところは決まったわ」
急にマリナはベッドから跳び起きた。
「何処に行く?」
マリナは背筋を伸ばし、私を見下ろすように大きな瞳を輝かせて宣言した。
「アーカート山よ。帆船があるからまずそこに行くわ」
マリナの勢いに押され私は頷いた。アームとルシアの顔を見ると特に反対ではなさそうだった。
アームが折れた私の剣を持っている。
「リチャード様、剣が折れております。
アーカート山にも魔物がいるかもしれません」
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