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第十九話
しおりを挟む私の背丈の倍を超える魔物の足は黒紫色の体色でいくつもの吸盤が付いており、魔物の足の真ん中あたりに剣を振りかざした。
剣は魔物に命中せず皮膚を横滑っただけだった。
今度は自分の手で剣を持ち、吸盤目掛けて剣を突き出した。
剣先が少し吸盤に刺さったが、魔物の皮膚は固く私の剣は跳ね返された。
再び体勢を整えて、剣を両手で持ち上段に構えた。
怖い気持ちを押さえてアドレナリンを出し切って、魔物の足の吸盤目掛けて飛び込んだ。
何かが裂ける音がして魔物の紫色の体液が吸盤からあふれ出てきた。
再び剣を持とうとしたが、剣先が吸盤に刺さって抜けなかった。
大タコの魔物のもう一つ、別の足が私の右上の頭上から迫ってきた。
私は真ん中の魔物の足の吸盤に剣が刺さったまま抜けずに焦っていた。
「このままではやられる」
私は剣から手を離し、右側の吸盤のある魔物の足の攻撃をギリギリで躱して後ろに転がった。
後ろを見ると、マリナは船室に飛び込んだようだ。
私も船室に逃げようとしたその瞬間、足元に気持ちの悪い吸盤の感触を感じた。
そのままフワッとする感覚で私の身体が甲板から持ち上げられてしまった。
「まずい。オオダコの魔物の右足につかまったのか」
「リチャード様!」
私の真下で船室から出てきたアームがボートのオールを振りかざしている。
その後ろにティアラをかざしたマリナが見えた。
「あぶないぞ。船室に戻れ」
甲板に浸食してきた魔物の2つの足のうち、私は右の足に捕まったまま宙に浮いている。
鈍く折れる音がした。
もう一つの魔物の足の吸盤に刺さっていた私の剣が折れた。
魔物の吸盤から、折れた私の剣先が吐き出され甲板に落ちた。
私の剣が二つに折れて甲板に捨てられた。
海の中から、魔物の胴体の残る6本の足が海上に浮かび上がってきた。
まるでクラーケンのような怪物だ。
魔物の胴体にある薄気味悪い紫色の瞳が私を睨んでいる。
残る6本の足も甲板に足を乗せようと近づいてきた。
私が捕まっている魔物の足を、アームがオールで叩き攻撃するが、効果はあまりなかった。
もう一つの魔物の足がアームの足をなぎ倒した。
アームが甲板に転ぶ。
さらに魔物は、マリナの頭上に向って吸盤のある足を振り降ろそうとしていた。
「船室に逃げろ。マリナ」
マリナが右手を上にあげ始めた。
赤いワンピースにティアラを頭上に載せたマリナの後ろからしっかりと両手で支えているルシアの姿がある。
突然、雷鳴が響き始めた。
先程迄晴れていた上空は再び黒い雲に覆われ始めたが、雲間の天空から一条の太陽の眩い光が甲板に降りそそいでいた。
マリナの頭上が赤く輝く光に包まれる。
赤い光がマリナとその後ろのルシアを包んだ。
突然、今までの衝撃をはるかに超えた鼓膜が破れるくらいの大きな音がした。
身体が急激に寒くなってきた。いや凍えるほどの寒さだ。
マリナの頭上のティアラから、赤く眩い光と凍えるような氷雪のような白いものが飛び出て、マリナの頭上にある魔物の足の吸盤を直撃した。
更に紫色の体液が零れているもう一つの魔物の足にも、赤く眩い光と白い氷雪が覆いつくした。
魔物の断末魔のような声が聞こえる。
二つの魔物の足が、魔物の胴体から切り離されて帆船の甲板に転がった。
私も甲板に投げ出された。
雷鳴が轟いている。
空から一条の稲光がマリナの頭上で光った。
とてつもない音がすぐ近くで鳴った。雷が落ちたのか。
二本の足を甲板に残して、クラーケンのような魔物の胴体と6本の足は海中に沈みこんで潜っていく。
残された二本の魔物のオオダコの足を見ると白く凍っていた。
私は折れた剣先と折れた剣を取り戻し、甲板に残された二本の魔物の凍った足の吸盤に突き刺した。二本の凍った魔物の足は蒸発して消えて無くなった。
「みんな無事か?」
振り返ってマリナを見たら、その場にマリナは崩れ落ちようとしている。
マリナの髪や指先が青白い光で包まれている。
教会でマリナが倒れたときと同じだ。
「マリナ!」
私が駆け寄って抱きしめた。
マリナは意識を失ったままだ。
「アーム、手当てが必要だ。教会に戻ろう」
「承知しました。教会の砂浜に横付けいたします」
アームはそう言うと全速力で帆船を走らせ、あっという間に教会の砂浜に帆船を横付けした。
教会について修道女のエミリが心配そうに赤いワンピース姿のマリナをベッドに寝かせたる。
ルシアがマリナの呼吸や脈や身体の皮膚を確認している。
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