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第十四話
しおりを挟むスープを飲み干すと、マリナは私たちを連れて教会の外に出た。
城から着の身着のまま追い出されたので、私は舞踏会で来ていたきらびやかで上質の布地を使ったスーツ姿に剣を腰につけた恰好、アームは兵士の服装だ。
マリナは舞踏会の白のドレスで、ルシアはピンクのメイド服だ。
マリナが先頭で倒れた大木に向って足早に歩いていく。
アームがその横で魚油を布に浸した松明を両手に持っている。
教会の外は暗く雨が降っているので、ルシアは日傘を差してアームの松明を雨から守っている。
私は3人の後から付いて行った。
煙の立ち込めた大木の倒れたほうをマリナが入念にしゃがんで調べている。
「二つの倒木のうち、煙がまだ立ち込めているほうに彗星の欠片が当たったのよ。そしてもう一つの倒木が教会を追い出されたときの落雷の木ね」
「マリナ、暗くて見えないだろう」
(明日朝の方がよさそうだ)
マリナの横にきて同じように倒木を見てみたが暗くてよくわからない。
「リチャード様、木の先端付近で何かガサゴソという音が聞こえます。
アームが見てきます。灯りを倒木に近づけてみます」
アームが倒木の先端に近づいていく。
倒木の先端辺りに霧が立ち込めている。
マリナがアームから左手の松明をもぎ取ってアームより前に立った。
「何か音がするわ、リチャード。神器かも」
ルシアが慌てて、マリナが持つ松明に日傘を差しだしている。
後ろに居た私が倒木の暗闇の先に丸い形をした何かが見えてきた。
松明の灯りで丸い円周は白紫のような円に見える。
マリナがさらに白紫の円周に松明を近づけると、
「うわっ、大ミミズよ」
灯りの中から現れたのは目が無く、体毛が無くブヨブヨとした体の大ミミズが大きな口を開けている姿だった。人間の足くらいの大きさだ。
「危ない。マリナ、ルシア下がれ」
大ミミズのような大ミミズの魔物が倒木の下から這い出してきた。
白紫の円に見えたのは大ミミズの口だった。
口を思いっきり開けている。
口から何か紫色の液体をマリナ目掛けて吐いた。
物凄い異臭がした。
「わっ。ドレスに気持ちの悪い液体が掛かったわ。」
マリナが後退りする。
大ミミズは、更にマリナに液体を吐きかける。
今度は後ろを向いて逃げるルシアにも液を吐いた。
叫び声を上げたルシアは後ろ向きに逃げて何とか液をかわしたようだ。
私は二人を後ろに追いやって大ミミズの魔物と対峙した。
すぐ横でアームが松明を持っている。
大ミミズが大口を開けてこちらと距離を縮めてきている。
眼はあるのかどうかわからない。手足は無いがヌメヌメとした皮膚の下に剛毛らしいものが見える。
胴体を伸縮させたかと思うと、饐えた臭いがしたかと思ったら、私に向って大きな口を開けて襲ってきた。
怖くて足が震えたが、手が勝手に動いて剣を抜き大ミミズの胴体を切り裂いた。
アームを見るとその足元にもう一匹の大ミミズが居た。
私は持っている剣をもう一匹の大ミミズに向けた。
そうすると剣がひとりでにもう一匹の大ミミズも切り裂いた。
切り裂かれた大ミミズはその場で蒸発して見えなくなってしまった。
倒木を包んでいた霧も無くなった。
「リチャード様、ご無事ですか」
アームが心配そうに私を見ている。
「何とか大丈夫だ。まだ、魔物は居るのか」
「松明を倒木に向けてみましたが、もういないようです」
マリナがその声を聞いて、倒木の先端に舞い戻り何かを探している。
「あぶないぞ。マリナ」
私が慌てて後を追いかけた。
マリナは、しゃがみ込んだかと思うと大声で叫んだ。
「光っているわ。見つけた。木の先端に何かあるわ」
ただ私の視線はマリナの手ではなく思わずドレスの下に向いていた。
「見てないよ」
マリナの白いドレスの上半身の布が溶けかかっていた。
「何言っているの、見なさいよ、これ」
マリナは手にしたものを私の前に突き出した。
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