13 / 39
第十二話
しおりを挟むベッドに寝かされ生気のない顔のローレンツ女王に医師、ルシア、イザベラが付き添っている。
蛇に巻き付けられた女王の脚に茶色の液がこびりついて、医師が消毒液をつけて必死で取り除こうとしているが取れないようだ。
私もその後ろで女王の様子を伺っていた。
女王がうめき声を上げたかと思うと突然ベッドで飛び上がるように上半身を起こした。
頭を振り始め鋭い視線で眼を見開いた。
饐えた匂いと共に老女の顔から皺が無くなり老いの染みも消え気の強そうな女の顔立ちが浮かび上がってきた。
心なしが急に目が鋭く瞳の奥に狂気を漂わせてきたように感じる。
ローレンツ女王は不機嫌そうに唇を尖らせたかと思うとイザベラに問いかけた。
「イザベラ、このローレンツ家に相応しい王妃の条件は何か」
「はい、女王様。3つの神器のひとつである赤のペンダントを所持していることが必要です。
教会からやってきたアリシアと名乗る女性にはペンダントがかけてありました。
あの女性のほうが王妃に相応しいかと。
それ以外の女は王妃失格と考えます」
「待ってください」
私は慌てて女王に向き合って、反論した。
「赤く光り輝くペンダントは邪悪な存在に立ち向かうため、私が責任を持って見つけ出します。
見つけたら私が王妃を選びます」
イザベラはローレンツ女王の耳元で何か囁いている。
女王がベッドから降りて立ち上がってヒステリックな声で言った。
「城の皆を広間に集めよ」
声もしわがれた声では無くなっている。
(どこかおかしい。急に女王が別人になったようだ。
イザベラも変だ。
まるで私とマリナに敵意があるように、敵のような眼差しで私を睨みつけている)
ルシアは心配そうに私を見ている。
イザベラが構わずルシアに向いて叫んだ。
「ルシア、女王の命である。至急、城の皆を広間に集めよ」
女王と話をしたかったが、しかたなく私は広間に移動してマリナと佇んでいた。
マリナが声をかけてきた。
「まだ、記憶が戻らないわ。
でも少しずつ何か風景が目に浮かんでくるのだけれど。
あなたは運命の人だと頭の中の変なマントの人も言っているし、私も直観で何故か昔からあなたを知っているような気がしてきたの」
「王妃になるには赤いペンダントが必要だと言われたよ。
赤いペンダントを探しに行くよ。
そして、この城でもうしばらく静養すればきっと記憶が戻るよ」
ローレンツ女王がやってきた。
風貌が変わった女王を見て城の人々がざわついている。
鋭い目つきでキンキンと声を張り上げた。
「皆の者、舞踏会をした結果、この城の王妃に相応しいのは3つの神器のひとつである赤いペンダントを所持しているものだ。
それ以外は失格とする」
「それから、前言を撤回する」
何故か意地悪そうな目で女王が私を見ている。
「私の後継は、リチャードではない」
城の人々のざわつきが広がった。
ルシアの顔が青ざめている。
「私の後継者は3つの神器のひとつであるムラマサの剣を所持しているものだ。
たとえ、海の向こうの豪族であってもそれを持っていれば私はこの領土も城も明け渡しであろう」
ざわつきは更に大きくなった。
イザベラが叫ぶ。
「皆の者、静粛に!」
アームやトマスも心配そうに女王を見ている。
ローレンツ女王の声のトーンが上がる。
「そこのリチャード、お前はムラマサの剣を持っていない。
知性も欠片も無く兄のメイにも遠く及ばない。
ベクター家が海からやってきたときも相手と話もせずいきなり大砲を打ち無益な戦いを実行した。
お前は王族として失格だ。
この城を今すぐ出て行け。
この城から追放する」
(何が何だかわからない)
アームが女王の前に跪きはっきりと話をした。
「女王様、僭越ながら先日のベクター家の攻撃を命じましたのは女王様でございます」
ルシアも女王の前に跪く。
「女王様、リチャード様も、メイ様も女王様の大事な跡取りでございます。
今一度、お考え直していただけないでしょうか」
イザベラが二人を追い払う。
「ローレンツ王の命は、絶対である。逆らうお前たちも女王の敵である」
別の兵士がローレンツ女王の前にひざまずいた。
「陛下、ご報告申し上げます。
豪族のベクターが城の前まで迫ってきております。
軍船団ではなく、小型のボートでわずかの配下兵だけで教会付近の砂浜から上陸したようでございます。
至急追い払います」
「不要だ。ここに通せ」
豪族のベクターがアーカート城に姿を現した。
大きな剣を腰につけているが、兵はベクターと合わせて数人だ。
ローレンツ女王が宣言した。
「私の後継者はローレンツ家の先祖であるアーカート王が持っていた神器であるムラマサの剣を持つものとする。
そしてその王妃は神器の赤いペンダントを持つ女とする」
「これは、これは。ローレンツ王。今の言葉に間違いはないか」
短く刈り込んだ銀髪に仏頂面で狐のような目つきのベクターが、ローレンツ王の前まで近づいている。
アーカート兵がローレンツ王の前に立ちはだかり守りを固める。
ローレンツ王は静かにベクターに言葉を返した。
「間違いはない。
条件があえばこの城を私は譲る」
ベクターが更にローレンツ王に詰め寄る。
「それは条件をクリアすれば誰でもいいのか?」
「そうだ」
ベクターが高笑いをしながら腰の大きな剣を宙に向けて掲げながら言った。
「戦も軍船も必要が無いな。
この領土は私が引き受ける。
剣とペンダントを手に入れれば良いだけだ」
ローレンツ王が私を向いて叫んだ。
「リチャード、お前は何も持っていない。腰にある剣は普通のロングソードだ。
今すぐこの城を出ていけ。
そして、アーム、ルシア、それにそこのマリナという女、リチャードと共にこの城から追放する」
ベクターの高笑いは更に大きくなった。
「赤いペンダントは当てがある。
私の兵よ、一旦、ブラックアイランドに戻るぞ」
そういうとベクターと数人の兵はアーカート城から去って行った。
私も当方にくれながら、アーカート城を去ることにした。
(しかし、3つの神器さえ見つかれば、逆転のチャンスはあるのかも)
7
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる