上 下
6 / 39

第五話

しおりを挟む

女王であるローレンツ王と城の外に出てみると、そこは紫色の霧で覆われていた。
振り返って城を見ると、城もすっかり紫色の霧に包まれていた。ただ何故か上を見ると霧が薄くなり空を見上げることができた。肉眼でもわかるくらいに彗星が光を増して紫色の長い尾をたなびかせながら、天空からこちらに向って来ようとしている。
城の外に出てみると、城の奥にある森のほうを目指して走っている女の後ろ姿が見えた。
アラビアンスタイルの青と白の衣装を着た女性だ。

ローレンツ女王の足元には草むらが生い茂っている。
「陛下、危ない!」
草むらから蛇が鎌首をもたげていた。
従卒長のアームがローレンツ王の足元を剣で掃った。
私も自分の周りの蛇に剣を向けた。
蛇の胴体は二つにちぎれ、地面に横たえた。
「蛇も最近城の周りで多くなってきております。
陛下、ご無事でございますか」
「私は心配ない。地面が震えているな」
地面はかすかな振動を伴って揺れているのがわかる。
(彗星が地震を引き起こしているのか)

「アーカートの森から何か光るものが空に向っていくぞ」
「彗星にその光が当たったぞ」
「彗星が割れた」
近くの兵士たちが空を見上げて叫んでいる。

彗星から更に四つの欠片が分かれいった。彗星の本体は急速に方向を変えてアーカートの空から遠ざかっていく。
一方彗星から分かれた4つの欠片がアーカートの地に近づいている。
一つ目の欠片は、紫色の光が白一色で輝くようになり長い尾が空を彩っている。やがてスピードを上げたかと思うと地表近くで一段と大きく輝き、この城の海の先のベクターが支配する島を目掛けて飛んで行った。
二つ目の欠片は、このアーカート城の森の先にあるアーカート山の山頂付近を目掛けて落ちて行った。
三つ目の欠片は近くの砂浜の岩場の先で、一瞬輝きを増したかと思うと燃え尽きたのか星も長い尾も消えてなくなった。

最後の四つ目の欠片は、紫色の光と長い尾を維持したまま城の近くの森に目掛けて落ちようとしていた。
紫色の光は蛇の頭の様で、彗星の長い尾は蛇の胴体から尻尾のように見える。4つ目の彗星が空をかける大蛇のように見えるのは気のせいか。
四つ目の彗星の欠片は燃え尽きることは無く光も一定の明るさを維持しながら森へ進んでいる。
「森に星が落ちるぞ」
従卒長のアームが怒鳴っている。
森の奥から眩しい紫色の大きな閃光が見えたかと思うと、立っていられないほどの衝撃で地面が大揺れし、大きな地鳴りが響いた。
私は、身を伏せて衝撃を躱そうとした。横にいるローレンツ女王にも身を伏せるように叫んだ。
地鳴りはかなりな時間続いた。
身を伏せたまま、森を見ると、紫色の閃光が途切れることなく宙を照らしている。
木々から煙が立っているのが見えた。
地面の揺れが落ち着くと、私はローレンツ女王を抱きかかえ、城の奥に逃げ込んだ。

青ざめた顔のローレンツ女王を部屋のベッドにゆっくりと降ろし、羊皮紙を持ってベッドも横の椅子に私は座り込んだ。
「陛下、いえ、女王陛下。
この羊皮紙に書いているのと同じことが起きたのですね。その後も同じことが続くのでしょうか」
女王はベッドに伏せたまましわがれた小さな声を発した。
「恐ろしい。忌まわしい。悪魔の封印が解かれる。
森は危険だ。兵に森の周りを囲み、森から何者も脱出しないよう見張ることが必要だ」
女王の下にアームがやってきて女王から指示を受けている。

「リチャード、古文書に続きがある。早くそれを実行せよ」
そう言われた私は古文書の羊皮紙の続きを読み始めた。

“私は一目ぼれをした知的で愛らしく大きな二重の目を見開いて、太陽のような赤い唇の女性に問いかけた。
女性の名前?
3つの神器の在り処?”

『太陽の子。私の名はアマ...』

“小声で聞き取りづらかったが私はアマデアに聞こえた。アマデアは私に告げた“

『3つの神器は紫色の彗星が4つに分かれたうちの3つに落ちています。
悪魔を封印した3つの神器が、紫色の光の彗星の邪悪なエネルギーで力が衰えるのです。
そして昼間の太陽が暗闇に覆いつくされた時、封印が完全に解けてしまいます。
今封印が解かれようとしています。
だからすぐにあなたは私と契りを』

“私はすぐにアマデアに結婚してくださいとプロポーズをした。
そしてアマデアとともに彗星が落ちた場所を探し3つの神器を手に入れることができた。
3つの神器はその後悪魔に奪われることもあったが、太陽の子のパワーとチャトランガの魔術で、途方もない灼熱と極低温の龍神を召喚し、アーカートの地に平和を取り戻すことができた。
私はアマデアにこれで永遠にこの地は平穏かと“

『王様、いえ私の最愛の夫。
今回は悪魔の封印に成功しました。
しかし悪魔アポフィスは必ず封印を解いてきます。また彗星がやってくるはずです。
悪魔アポフィスを完全に消し去るには封印後、悪魔を斬首することで完全に消し去ることができます。
それ以外には東方の幻の薬術を使うことで完全に悪魔を消し去ることができるという噂で伝わっておりますが確実ではありませんし、このアーカートの地にその薬術の技術はありません』

“アマデアは目を潤ませて一糸纏わぬ姿となってわたしに向き合って言った”

『王様、次の彗星がやってきて悪魔アポフィスの封印が解かれる時期は今よりだいぶ先になりましょう。彗星はしばらくアーカートに近づきません。
あなたの子孫が次の封印をすることになりましょう。
王様と私は子孫を作ることが使命です。さあ、私を抱きしめて私の中にあなたの分身を解き放ってください』

“アマデアは妊娠した。私の長い話はそろそろ終わる。
私の子孫よ。
数百年の先、再び紫色の光の彗星がこの地に近づいてきた時に悪魔アポフィスは蘇る。
そのとき、ここに書いた通りのことをして再び封印を実行せよ。
封印したら悪魔アポフィスの首を取れ“

“ここまで書いてみて、※※はおぞましい物だ。記すだけで邪悪な眼と牙を思い出し封印が解かれてしまいそうだ。
私の子孫よ、※※の文字は消すが、封印が解かれれば自ずと判るはず“
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

女子高生天才女流棋士が転生したら戦国時代だった

lavie800
ファンタジー
令和に京都の能楽堂で能面をつけた殺人事件が発生して、性に興味津々の女子高生棋士と初心なイケメン刑事が一夜明けたら二人は戦国時代の初代将棋名人候補の子供とその許嫁に転生。その戦国時代は正しい歴史からずれた異世界戦国時代だった。家康が天下を取れず初代の将棋名人も別の人になりそうな歴史を正しい状態に戻すため、天才女子高生棋士とバディの刑事が、希望を言えば望みが叶うといわれる月の小面を探す。月の小面は戦国時代に秀吉と家康が所有していたものだったが浜松城で忽然と小面が消失した。戦国時代の思惑で家康の敵も月の小面を追っている中で、天才女子高生棋士とバディの刑事はチート魔法が発動できるスマホを手にして、魔犬を操る敵と戦い、果たして月の小面を手に入れられるのか?! 少し歴史と違った戦国時代を舞台に繰り広げる和風ファンタジーです。 そして最後に、二人は結ばれる⁉

処理中です...