赤い龍の神器で、アポフィスの悪魔を封印せよ

lavie800

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第三話

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雨に加えて、上空のかなり上のところに珍しい青い稲光が走っている。稲光は下ではなく更に上空を目掛けて光が走る。
何かの前兆だろうか。
眼前には、あまりのベクターの船団の多さにどうしていいのか私は悩んでいた。
後ろで茶髪のルシアが一心不乱で両手をこすり祈り始めた。トマスが心配そうに水平線を見ている。
ふと、砂浜の左を見ると、そこに岩場が見える。
その左の岩場を見ると、一艘の小さなボートのような船がゆっくりと漂流しているように正面の波のほうに移動してきた。
突然、ボートの船腹の真ん中から、人影が見えた。まるで人が起き上がったように見えた。
オペラグラスでベクターの船団ではなく、私はそのボートを凝視した。
華奢に見えるその人影はこちらからは背中しか見えない。
人影はすっとボートの中で立ち上がり、右手を空に向けて伸ばしている。

「トマス。あの左の岩場の先には何がある?」
「はい。クレリゴス教会がございます。
タキ司祭と若い修道女がおります。
タキ司祭は以前、陛下と関係が深かったのですが、最近どうやらベクター様の黄金に眼がくらみ、ベクター様に近づこうとされているという良からぬ噂を聞きます」

オペラグラスでその人影の指先を凝視すると、指の先端に何か持っているのが見える。
急に波打ち際が赤く輝きを見せてきた。
更にその赤い輝きが上空の雨雲までレーザー光線のように垂直に伸びていく。
人影の後ろ姿からは長いツインテールの黒髪が風になびいている。
突然、上空で大きな音と二回目の青い稲光が輝いたかと思ったら、天上の雨雲に亀裂が入り、空が真二つに割れてきた。
割れた空の両側の二つの雨雲に、人影の指先から発せられた赤く輝いた光が反射し、まるでプロジェクトマッピングのように雲に赤い輝きの像が映し出されてきた。
やがて、その像は二つの赤い龍のような形に広がっていった。赤い龍の像の口から雨雲が吸い込まれ、亀裂がどんどん大きくなり、雲の隙間から太陽の日差しが差し込んできた。
やがて、太陽の日差しはどんどん大きくなり、空一面が雨雲から雲一つない晴天に変わって行った。

従卒長のアームがリチャードの前に駆け寄る。
「リチャード様、これでベクター様の船団の姿とすべての軍船がくっきりと肉眼でも見えてきました。長距離大砲発射のご指示を!」
「まず、あのボートを砂浜に手繰り寄せろ」
何人かの兵が波打ち際から泳いて、ボートを安全な砂浜の左のほうに引き寄せた。大勢の兵が担架を運びボートから人影を救出したのが見えた。
「よし、アーム。全軍、ベクターの船団に大砲を打ちこめ」
アームは兵士に次々と指示を飛ばす。
ドカンドカンと発射音を響かせて、長距離大砲の砲弾がいくつも、海の向こうの船団目掛けて放物線上に飛んでいく。
ベクターの船団からも石が飛んでくる。火のついた矢も数多くこちらに向けて放たれている。
しかし石も矢もこちらの砂浜まで届かず、海の中に沈んでいく。
一方、こちらの砲弾は、ベクターの船団に次々と命中しているようだ。
転覆した船から乗員が後ろに船に救助されているのが見える。
「リチャード様、ベクター様の船団が後退しています」
こちらは、長距離砲弾で更に攻撃して追い打ちをかけている。
しばらくたつと、沈没を免れた数少ないベクターの船団の姿は見えなくなった。

砂浜では晴天だったが、城に着くころにはすっかり周りは紫色の霧で覆われていた。
アーカート城に私たちは戻り、戦果を父上であるローレンツ王に報告した。
「よくやった。リチャード」
(いや、私は何もしていない。あのボートの人影が雨雲を追い払ってくれて、兄が開発した長距離大砲で応戦した結果、ベクター船団が逃げ去ったのだ)
長い白髪のローレンツ王は、背中を丸めて元気のない声ではあるが私を褒めたたえた。
「リチャード。疲れている所で申し訳ないが例の古文書について話すと気が来たようだ」
落ち着きがないローレンツ王の後をついて王の部屋に、私は入って行った。
ローレンツ王が手にしたものを私に差し出した。
「リチャード。これが古文書だ。私と兄のメイしか今まで読んでいない。
この古文書は、私がこの城の奥の書庫から偶然最近見つけたものだ」
羊皮紙に何か文字が書かれている。相当古そうな羊皮紙だ。
「陛下。兄を探さなくていいのですか?」
「また、いつものことだ。
そのうち、戻ってくる。
いつもどこかに行ったかと思うと戻ってきては素晴らしい兵器を開発していた。また東方の島々の話をどこから聞いてきたのかわからないがよく話をしていた」
私はふと思いつき聞いてみた。
「兄であるローレンツ二世はどのような服装でしたか」
「いつも紫のマントを羽織って、先のとがった紫の靴を履いていた。
王族らしくもっと上質の毛皮を着ればいいと思ったが本人はそれが気に入っていたようだ」
(あのとき、マリナとあの大波でさらわれた時、邪悪な眼と牙の下で横たわっていたのはローレンツ二世ではなかったのか?

東京のときを思い出していると、ローレンツ王が再び声を発した。
「リチャード、今こそお前がこの古文書を読んで、それを実行してほしい。
私にはできない。
私の子でお前の兄である第一王子のメイもこの古文書を見て、邪悪な存続の手がかりを調べてみるとは言っていた。
ただメイは浮かぬ顔をして、『この古文書を全部私が実行するのは難しい』と言っていたのだ。
メイは調べて判った結果を紙に記録しておくといっていた。私にもそのうち見せると言っていた」
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