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第二話
しおりを挟む鎧をきた武装兵が走ってきてローレンツ王の前に跪いた。
「陛下、大変です。ベクターの船団がアーカート城の砂浜の先に海から近づいてきております」
老体のローレンツ王は顔をしかめた。
丸まっていた背筋を無理に伸ばすとしゃがれた声を武装兵に返した。
「アーム。至急、我軍も応戦準備をせよ」
「承知しました。城内の兵を集め、ベストを尽くします」
「今日は天候が悪いのか?」
「はい、雨と霧で見通しが悪いため、砂浜の砲台から発射する大砲の精度は落ちてしまいます」
「アーム、兵力はどうだ」
アームと呼ばれた精悍そうで腕周りの太い男が王に答えた。
「ベクター船団に乗船していると思われる敵兵の数で劣勢の我軍勢は苦戦が予想されます。海にベクターの軍勢がいる間に大砲でどこまで敵兵を挫けることができるかにかかっております」
ローレンツ王は、リチャードの顔を見て、命令を下した。
「邪悪な悪魔の前に、まずベクター軍勢を蹴散らせ。
リチャードが指揮を取れ。この従卒長のアームを従えて、兵を指揮してこの城内から直ちに砂浜に向え」
私は血の気が顔からなくなっていくのを感じた。
緊張で足が動かない。
(戦なんて経験無いぞ。どうすればいい)
ルシアが人を呼んだ。
「侍従のトマス、リチャード様をお守りしなさい。私も同行します」
童顔だがキリっとした顔つきの男がやってきた。ルシアはトマスの耳に口を当て何か話している。
ルシアは私の前に近づいて来て小声で囁いた。
「リチャード様、このトマスは私の従弟です。ルシアと顔立ちはそっくりだ。
リチャード様は記憶を少し失っておられるようですので、わからないことをこのトマスに聞いてくださいませ」
トマスがにっこりとリチャードに微笑んだ。
「戦のことでも他の事でも何なりと聞いてくださいませ。
侍従ではありますが陛下のご指示で従騎士としての見習いも続けております」
ローレンツ王に城の外に出るように指示された。
(とりあえず、トマスに何をすればいいか聞いてみるしかないな)
鎧を装着されて馬に乗せられると、トマスに連れられ従卒や兵を携えて砂浜に戻ってきた。
「トマス。私は少し記憶が飛んでいるのだが、ベクターというのは誰だ」
「リチャード様、ベクター様はこの海を隔てた先の大きな島を領土としている貴族でございます。領土を広げようと度々このアーカート城の領土を攻め込もうとしているのでございます。
ベクター様の島の領地では金鉱があり、多くの船団を建造する資金もあると聞きます。
これまではお兄様のメイ・ローレンツ王子様がその類まれな才能を生かされて飛距離の優れた大砲を編み出され、その長距離大砲の威力でベクター様の船団を追い払ってきたのでございます」
「兄は、そんなに頭がいいのか」
「はい。この地では見たことも無い凄い物やこの地に到底なさそうな凄いお考えを持たれております。またこの地には無いような東方の島の知識も豊富でございます。まるで時空や場所を自在に行き来されているようでございます」
「私は何のとりえもなく知識もなければ頭もよくない」
「いえ、リチャード王子はこの世に二人と居りませんくらいの剣術士かと。
剣術の腕は、城内の騎士でも、リチャード様にかなう相手は居りません」
(そうか、ここでは生まれ変わって剣のスキルを手に入れたようだ)
砂浜の砲台には海を目掛けて大砲が準備されつつある。
砂浜の奥の高台から海を見渡すが、雨の雲と霧で海の先がはっきり見えない。
トマスからオペラグラスのようなものを渡されて海の水平線を見ると、ぼんやりと船団の影が見える。
かなりの数の帆船だ。
(これ全部がこの砂浜に押し寄せてきたら、私の兵力では押しとどめることができないだろう)
(これは大ピンチではないのか)
(万理奈が居たら、このピンチで次の一手をどうするだろうか)
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