上 下
11 / 31

第十一話

しおりを挟む
異議を唱えた若そうな青年が立ち上がって叫んだ。
「私は大内輝弘、大内家の分家で大友氏のところに身を寄せているものである。
大内家の本家とはあまり交流が無い。
もともと特大三島神社の宮司を通じて、私はそこの巫女である鶴と婚約をしていたはず。
大内の本家の船が鶴の横に居る市川の船と漁場の権利を争って海で小競り合いをしていた時に、
私の婚約者である鶴は、二人の船の中を割って駆け付けた。
そこで巫女の力で何やら祈祷をすると、海も空もまるで赤龍が海からでて大暴れをしたかのように急に荒れて、大内本家の船も沈没しそうになり逃げ帰ったと聞く。
特大三島神社の宮司は大内本家に気遣い、私と鶴の婚約を破棄使用したが私は認めていない。
私は鶴と婚約していたはず。婚約破棄ではなく婚約継続だ。
もし赤龍の三種の神器を私が先に手に入れたなら、私と結婚するのだ。」

占い師の諏訪が立ち上がって経好を見ると叫んだ。
「赤龍の証を持った女は、赤龍の三種神器の宝を先に集めた者が結婚するのが習わし。
これを破ると海は大荒れこの世の終わりがやってくる。
まさにこの若者が話したことは正しい。」

経好の父が更に大きな声で叫んだ。
「何故宿敵の大内の若者がここにいる。」
好青年に見える若者が返した。
「先ほど言ったはず。鶴を探して特大三島神社に行ったら、宮司から婚約破棄を宣言した巫女は、市川の息子が連れ帰ったと聞いたからここに来たまで。
命に代えても鶴が大事。」

鶴姫は、命に代えても鶴という言葉に思わず一瞬キュンとした。
しかし、この若い男は好青年に見えるが、令和では若い女を連れていたにも関わらず私をホテルに誘い込もうとした口にうまい取引先の男と似ていると思い出した。
やっぱり経好様と結婚したい。
それより若い男の横の異議ありといった女はどうなの。

異議ありと言った女が続けて叫んだ。
「私は、経好様の父上の友人の紹介で、経好様と婚約直前まで行って、そこの占い師が変なことを言って私の婚約を台無しにしたのよ。赤龍の証が無いとか訳の分からないことを言って。」
諏訪が返した。
「市川家の繁栄のためには市川家の赤龍の三つのお宝を捧げることが必要。
お前はもう資格が無い。
去れ。」
「私の愛しい経好様が、そんな若くも無い女と結婚するなんて許せないわ。
私の方がお肌もみずみずしいし、胸だって大きいし、あんな貧乳で年取った女のどこがいいのよ。
経好様と結婚するのにお宝が必要なら、私こそ経好様と結婚できるわ。」

占い師の諏訪が返した。
「大内様はともかく、この女は何の資格も無い、赤龍の証も持っていない。
さっさと外に連れ出すがよい。お宝を持っているなら話は別だが。
持っていれば確かに殿と結婚できるがどうなのだ。
それにどうやってここに入った?」
経好の家来たちが、若い女を外に連れ出そうとした。
若い女は広間から連れ出される前に金切り声を上げた。
「丁度、特大三島神社にお参りしていたら、そこの大内様と宮司の話を聞いたのよ。
だから大内様の後を付けたらここに来たのよ。
離せ、離せよ。
経好様、愛している。そんな年のいった貧乳女より、若い私を選んでよ。
それに、赤龍のお宝なら、ほらこれを。」
若い女は胸元から何かを取り出そうとしたが、家来が羽交い絞めにして広間から連れ出そうとした。
諏訪は茫然と立ち尽くして女を見ていた。
女は暴れて家来や占い師の諏訪など周りの人を平手打ちして暴れた。
諏訪は広間に後ろから倒れ気絶した。
若い女は再び胸元に手をやり「マガタマ」と喚いていたが、家来たちに取り囲まれ手足をひもで縛られて広間から連れ出された。
諏訪も女中たちが広間から連れて行った。

失礼な女。貧乳女なんかじゃないし、お肌は女中の皆さんのおかげでみずみずしいわ。貧乳というより私はスリムなのよ、体も鍛えているし無駄なぜい肉が無いだけよ。
占い師を平手打ちしたことだけは非難しないけれど。

経好が口を開いた。
「何があっても私は鶴姫と結婚する。赤龍の宝も渡さぬ。私が三種の神器を集めて文句も言わせず私は鶴姫を正室にする。ここにそれを宣言する。婚約の儀は終わりだ。宴はお開きだ。」
経好が若者の眼を見て続けた。
「大内の分家なら、命だけは助けてやるからさっさとこの場を去れ。
赤龍の宝は渡さぬ。」
家来が大内輝弘という若者を広間から連れ出した。

経好が父上の眼を見て言った。
「父上、私は鶴姫と明日から赤龍の三種の神器を集めて参ります。
鶴姫は不思議な力を持っております。
私が赤龍のお宝を集めるために私に力を貸してくれる気がします。
そして最愛の鶴姫と結婚します。」

鶴姫も経好の言葉にキュンとして、立ち上がり頷いた。
「わかった。邪魔が入ったが、婚約の儀は宣言通りで終わる。
経好、誰からもつまらぬことを言わせず結婚のために赤龍の宝を持ちかえってこい。」

鶴姫は、女中たちにケアしてもらったあと今日も経好の閨に入った。
女中頭が言った。
「経好様、諏訪様は本日、具合が悪いためお見えになりません。
何かございましたらこのさよに申し付けください。
ただくれぐれも契りまではせず鶴姫様を穢さなきよう我慢していただきたくお願い申し上げます。
どうしても我慢できない場合は、私が処理させていただきますし、別の女中がよろしければ差配させていただきます。
私は閨ではなく部屋の外で控えております。」

それから女中頭は鶴姫に向って言った。
「くれぐれも契りはせぬよう我慢してくださいませ。
それから何か困ったことがあればすぐ私を呼んでくださいませ。
和紙と筆はここにご用意しておきます。」

婚約の儀の三日目の閨の中は、経好様と二人きりになったことに気づいた。
邪魔者はいなくなった。
急に体が火照るのを鶴姫は自覚した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...