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第五十八話 狂気の光
しおりを挟む金海は吉川の方を向くと急に雄弁に話し始めた。
「高校生になったばかりのときアイドルに会いたくて川田に騙され脅されて性暴力を受けたのです。
大内は昔、桂摩姫と私が名乗っていた子供の時、4歳か5歳のときに体を触ってきたり局部の写真を撮られたりしました。
林田も好奇な目をして、大内がしたことを知っていると言ってきました。
塚本も大内の昔のことを知っていると母さんに言っていました。
昔の私の性被害を受けた写真だと思った。
心が傷つき、夜に何度も魘されて何度も死のうと思った。
でも、桂美京さん、いや母さんと過ごした日々、夫と過ごした日々、夏山のおじさんに将棋を教えてもらった日々だけが私の幸せだった。
夫はもういない。
夏山のおじさんは何も言わず頼みを聞いてくれた。
母さんに罪を着せるわけにはいかない。
すっきりしたし、もうこの世に未練は無い。
私の心を粉々にした奴らを抹殺したら、気持ちよかった」
ここまで言うと金海はその場に崩れた。
金海摩姫はすべて自供した。
穏やかな顔だったが目に少し狂気の光が宿っているように見えた。
「15歳で川田に性暴力で蹂躙されてから、私は繰り返しその場面が浮かび上がって頻繁に過呼吸状態になりました。
その後、認知行動療法や様々な心理療法により少しずつ改善してきて夏山の叔父にも将棋を教えてもらってそれで心が紛れて、女流棋士になる頃には元気を取り戻すことができたのです。
私は本当の両親とも早くに亡くしています。母が先で次に父でした。
父は悲嘆にくれていたときに小さな時に桂美京さんと出会いました。父もその後死んで、桂美京さんと一時暮らしていました。
桂美京さんは私にはよくしてくれましたが、桂美京さんに付いている大内が私を嫌らしい眼で見て、母さんがいない時には恥ずかしいことをされて心がズタズタにされましたが母さんには言えませんでした。
そのあと私は父のいとこの夏山さんに預けられました。
夏山さんは将棋を教えてもらいたい大変感謝しています。
知り合いのアパートのオーナが夏山さんに桂美京さんが心臓麻痺で死んだらしいということを伝えたので、私も桂美京さんが死んだという事を知りました。
そう聞いていたのですが、久しぶりに私に近づいてきた大内から、桂美京という母さんが実は戸籍を変えて南場景子として生きているというのを聞いたのです。
女流棋士になってくれて本当に良かった、新しい将棋棋戦を応援したい、と母さんは言っていると。
そういう喜びがあったにもかかわらず今度は、昨年の師走のイベントで川田を見かけたときに心臓が飛び上がるほど驚きフラッシュバック症状が再発しました。
南場景子さん、いえ、母さんにもすべてを話し相談しました。
母は色々考えているようでした。
私はフラッシュバックが度々起きるようになり、心療関係の病院にも通院しました。治療の主体はストレスに慣れるという療法でしたが、私は川田がこの世から居なくなることを夢想したとたん心が急に晴れやかになったのです。
それも自分の手で川田をこの世から消すと想像したら凄まじい快感が湧き上がってきたのです。
母は自分が川田を殺すと言って計画を私に話してくれました。
私は心の中で、それでは心の傷が治らないと思っていました」
吉川は少し怖くなってきたが金海が話すのを聞いた。
「母はもともと赤龍戦が終わってからゆっくりとホテルに川田をおびき出し殺そうとしていました。
しかし私は川田を対局前にホテルの34階におびき出しました。昔の行為が忘れられないという私の誘いに喜んで川田はホテルにやってきました。川田は頭を打ったと顔をしかめていましたがポケットから桂馬を取り出しケイマヒだったよなと薄笑いしていました。
川田は私が入れた睡眠薬入りのお酒のグラスを空けるたびに私が1枚ずつ脱いて川田を油断させました。
川田はそういう形で睡眠薬入りのお酒を大量に勧め喜んで飲み干し、しばらくして意識を失いました。
それからは、母が立てた計画通り、川田をボンテージテープで体をぐるぐる巻きにしてマスクに睡眠作用のある液体を浸せて引火性のあるものを川田の体に振りかけてバスタブに横たわらせました。
対局終了後に預けていたスマホを手にしてすぐに遠隔操作をしてバスタブのIoTコンセントで着火させて、浴槽で川田を燃やし殺しました。
翌日朝、新聞で川田が死んだことを確認して、また前に感じた以上の凄まじい快感を得ることができたのです。心も大変軽やかで久しぶりに気持ちの良い朝を迎えることができました。
母はびっくりして何かあれば私がやったことにするからと連絡がありましたが、私は気にはしていませんでした。
それよりも自分がPTSDから解放されたことがうれしくてたまりませんでした」
「大内と林田はどうして殺したのだ」
吉川は金海の目を見て言った。
「大内は私が幼い頃から嫌らしい目つきで私を見ていました。実際裸にされたり触られたり、局部の写真を撮られたりしました。
今回赤龍戦が始まる前に、大内に母さんが生きていると呼び出さました。
母さんと感動の再開をした後、今度は大内にホテルに呼び出されました。ホテルの部屋で昔の写真を見せられて、赤龍戦をワザと負けるように脅かされました。AI同士の棋譜を見せられてこのとおり指して将棋を負けるように脅迫されました。
言う事を聞かないと昔の写真を露見させるし、君が好きな母さんの秘密もぶちまけると言われました。
母さんが生きていて南場さんになった桂美京さんと対面して抱き合った後に脅されたのです。
その上、ホテルの部屋で私の体まで要求されました。
どうしても嫌だと私が言ったので、大内はこれならいいだろうと、無理やり私をひざまずかせて、私の口に対して性暴力を振って写真まで撮られました。
幼い頃の写真だけでは私が八百長をするか心配だったようです。
林田も対局後、動画が回っていない所で好奇で軽蔑するような眼で私を見たのです。私の心の中が、こいつも大内と同類だと言ってきたのです」
ここまで一気に金海が話すと、口が乾いたのか水をごくごくと飲み干した。吉川は続きを促した。
「すべて写真を返すこと、二度と脅さないこと、母さんのことも口をつぐむことを条件に私は、大内に言う事を聞くと言いました。
大内は写真を返すので赤龍戦が終わったら、淡路島の別荘に来るように言われました。しばらく海外に行くと言っていました。
大内と林田については母の遠隔での中毒させる計画では殺せないと思っていたので、私も丁度良いと思い、大内の誘いに乗ることにしました。
大内の別荘に行き、大内がどうしても将棋をしたいというので、タブレットで対局をしました。一応幼い頃の写真とネガを返してもらいました。
それで私は予定通り計画を実行することにして、食事のときにペッパーミルや箸で夾竹桃の毒を直接大内と林田に食べさせることに成功しました。
私の分は毒がかからないように注意をしていましたし、あまり食べませんでした。
大内と林田が、毒で体が動かなくなるのを横目で見ながら、タブレットの棋譜に偽の遺書を書き込みました。
ドローンを使って自殺に見せかけられるかなと思いましたがそう甘くはなかったようです。ドローンで密室を作ることは楽しかったです」
「賞金はどうしたんのだ」
「賞金は大内のスーツケースに入っていたのでそっくりそのままスーツケースごと私の車で持ち去りました。
現金は夏山のおじさんに渡し、理由を聞かないように言って、江戸時代の美術骨董的に高額の囲碁将棋盤を買ってくれと頼みました。
一見、江戸時代の将棋盤は価値が無く古そうに見えるので、現金の分の価値保管に打ってつけだと思いましたが、三島さんに見抜かれてしまったようです。
夏山のおじさんに、江戸時代の将棋盤を奥にしまう様に言った方がよかったかもしれません。
あとはあの三島さんの考えたとおりです。
大内と林田が死んだことをニュースで知り、これまでにない絶頂感を味わいました」
「塚本はどうして殺したのだ」
「欲深い塚本については大内が塚本に何かを話したという母の不安を取り除きたいという気持ちと私の性暴力の過去を知ってまた私を脅すのではないかと思い、塚本を駆除して殺すことにむしろ喜びを感じていました。
私が塚本をドローンで殺した方法があの三島さんの推察どおりです。
ホテルのダブルスイートのバルコニーから長距離用ドローンを操縦できました。ドローンの画面で逐一塚本の行動をPC画面で確認しつつ、塚本の頭部に石が落ちるようにセットして、タイミングを見て石を落としました。ゲームのように塚本を殺せたので、スカッとしましたし、翌日の新聞を見てまた絶頂感を味わいました」
金海は吉川を見つめていた。
「今回の方法で殺せなくても私が犯人だとは思わないでしょうから、また別の方法で殺せばいいと思っていました。
4人を殺したことは後悔していません。私の心は今平穏です。
後悔することと言ったらあの女流棋士を山水園亭で殺せなかったことです。私の事を見破るなら、あの頭の良いツインテールの生意気な女だけだと思っていたので」
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