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第五十話
しおりを挟む吉川は美都留をレクサスNXに乗せて、山口県警の鈴木刑事と落ち合い、夏山明が入院している病院の個室に居る。
「夏山さん、入院中で申し訳ありません。先日大内さんが将棋の奨励会に入会されるあたりのお話を伺いました兵庫県警の吉川です。
夏山さんは、川田直久さんと不動産関係で知り合いとお聞きしましたので、今度は川田さんについて知っておられることを教えていただきたいのです」
ベッドで息苦しそうな老人は口を開いた。
「川田か。あいつには裏切られました。私は2014年ごろに山口と下関だけではなく、神戸にも将棋道場を展開しようとしていたのです。
幼い時に優秀だと思っても人が集まる関西の近くに将棋の道場で切磋琢磨して揉まれないと大成しないと思ったのです」
老人の視線は枕元にある小さな写真衝立のほうに向けられている。
「どこで川田さんと知り合ったのですか」
「彼も将棋は好きみたいで強くは無かったが不動産会社に勤めてからはこの道場にも顔を出していましたよ。
世間話で私が神戸に物件展開を考えていると言ったら、川田は探すと言うので2014年くらいに神戸で物件を探してもらったのですよ。
川田から聞いた話では、知り合いのお客の保証人に大内がいたそうなのですよ。ほら先日話をしたあの大内ですよ。
川田も将棋が趣味だったので大内から私の道場の事とか聞いていたみたいです。それでここにも売り込みに来たのです」
「そうなのですね」
「大内とは将棋の奨励会を退会してから道場で会っていないのですが、川田から大内の近況を聞いたこともありました。
大内が下関に行ってまた戻ってきたということを聞いたのも川田からですよ」
「夏山さん、川田さんの事でそれ以外に何かご存じですか」
「彼も殺されてやっぱりと思いましたよ。私がもう少し元気なら私が殺したかもしれません。
仕事をしているときは口がうまいのですが、女性には高圧的で辱めて喜ぶという性癖を自分で自慢していましたから」
美都留が夏山に問いかけた。
「あの可愛い写真立ての女の子は誰ですか」
「ああ、あれですか。いとこの宇佐川の子ですよ。いとこが死んでしまってから私が面倒を見ていたのですよ。
彼の奥さんも早くに亡くなって、かわいそうな子ですが健気に頑張っていますよ。
いとこはその後に別の女の人と住むようになったのですがその人とは籍を入れなかったみたいです。でもまあ夫婦みたいでしたから。
宇佐川が死んでからも子供は、その女性と一緒に暮らしていたみたいでした。
ただやはり生活をし続けるのは難しいということで、2007年くらいでしたか、その女性が私のところにやってきて、宇佐川の娘を引き取ってほしいといわれたのですよ。
綺麗な女性でした。美京さんは本当に綺麗でしたよ」
美都留が夏山に聞き返した。
「美京さんとおっしゃいましたか。苗字は何て言うのですか」
「確か、桂だったと思います。将棋の桂馬と同じ桂ですよ」
「桂美京さんを知っているのですか」
「いや、一度会っただけですから。
ただ子供は懐いていたみたいで、宇佐川姓何ですがしばらくは子供は苗字といったら桂だと言っていましたよ」
美都留が老人の顔を見つめている。
「何故川田を殺したかったと思ったのですか」
ベッドの上で老人は息苦しそうに咳き込んでいた。夏山はそれには答えず、枕元にある小さな写真衝立を見つめていた。
吉川が尋ねた。
「従弟の宇佐川さんの遺品や桂美京さんに関連する品物がありましたら見せていただいてもかまいませんか」
「宇佐川の子が神戸に行くというときに全部渡したので残ってないと思います。山口では辛い思いでしか残っていなかったから、神戸で心機一転したかったのでしょう。神戸の大学に入ってすぐ結婚しましたから良かったと思います」
看護師が部屋に入ってきた。
「刑事さん、そろそろお時間ですよ」
美都留がスマホにある三島景子の写真を老人に見せた。
「最後に、ひとつお伺いします。
この写真に見覚えは有りますか」
「ああ、前夜祭で会いましたよ」
「これはどうですか」
美都留はスマホで若い人物の写真を見せた。
老人は食い入るように美都留のスマホを見ている。
「若い時に一度しか見ていないのですが、桂美京さんに雰囲気が似ていますよ。
華やかさというか確かにそういう顔をしていましたから」
「これは前夜祭での三島景子さんをスマホのアプリで20代に加工した写真です」
鈴木刑事が叫んだ。
「三島景子が桂美京なのか。
桂美京は心筋梗塞で死んでいるはずだが。
それとも死んでいなかったということなのか。
そうすると死んだのは誰?
死んだのは三島景子?」
刑事たちと美都留は看護師に病室を強制退去させられた。
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