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第三十一話 高嶺城で見つかったもの

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美都留をレクサスNXに乗せてホテルから高嶺城に向かった。
助手席の車内の紫のワンピースが眩しい。
「ハイヒールを履いているが。山道だぞ」
「デートだもん。山道はエスコートしなさい」

木戸神社から木戸公園を抜けると道が狭くなってきた。辺りが暗いので吉川は慎重に運転をして上って行った。
高嶺城跡の主郭跡までは車で行けなかった。途中の電波塔がある駐車場が見えたのでそこに車を停車させた。
「さあ。どうしよう。ここから頂上までは徒歩で10分から15分くらいかかるようだね」
美都留がレクサスのドアを開いた。
「行きましょう。歩いて山頂へ。
何か虫が飛んでいるような羽音が聞こえない?」
「いや。思ったより暗いな。
さっさと山頂を確認したら早く戻ったほうがいいかもしれない」
車から出てスマホでライトを前に照らしながら吉川と美都留が急な山道を上っていく。
「うら若き女性が登山道を歩くのだから手を繋いでよ」
吉川がハイヒールの美都留の手を握ってゆっくりと山道を上っていく。

「あっ」
ハイヒールを山道の砂利で滑らせて美都留がこけそうになる。
吉川の手にすごい力が伝わり姿勢が傾く。
吉川は後ろを振り向いて咄嗟に美都留の身体を引き寄せて抱きしめた。
間一髪で美都留は倒れずに済んだ。
「ほら、もうすぐ山頂よ。
ハイヒールだからもう歩けない。このまま山頂に連れて行ってよ。
また羽音が聞こえるわ」
吉川は何も聞こえなかったが、紫のワンピース越しに暖かい美都留の身体の温度を感じながら、ギフテッドの美少女を両手で抱っこしながら山頂までのあと10歩くらいを上り切った。

山頂に到着すると誰も居なかった。
山頂の奥に下の景色を見下ろせるようなところがあり、端の方でフェンスが無くなっているところがあった。
美都留はそこに向ってハイヒールで走りだした。
歩けないどころか走れるではないか。
「無くなっているフェンスの部分の下の崖の斜面に何か物が見えるわ。
ちょっと取ってみる」
美都留はタイトな紫のワンピースにハイヒールのまましゃがみ込み、崖の斜面に顔を覗かせた。
「危ないぞ」
フェンスのない崖の前にうつ伏せになると美都留は手を斜面に伸ばし始めた。
「足首を押さえていて。
だめだ。もう少しなのに届かない」
吉川は美都留の白く眩しい肢の足首を両手で支えたが、紫のワンピースの丈が短く捲れあがっていて太腿の根元まで露わになりそうだ。
赤い布が見えたのは気のせいだろう。
足首に全力集中しよう。
美都留は、崖下を覗き込む。

「スマホのライトを照らしてみるわ。あれ、斜面の物より、崖の下に何か見える」
「あぶないぞ」
「大変。崖下に人が落ちているみたい」
吉川は、すぐに山口県警と救急車に連絡を取った。

やがて県警の捜査員が到着した。
山口県警は、高嶺城の城郭に至る山道からかなり下で、頭が血だらけになった遺体を発見した。

聞き込みで協力してくれた鈴木刑事が吉川に崖下の写真を見せて尋ねた。
「一連の将棋の関係者ですかね。
知っている顔かどうかわかりますか」

美都留がその写真を横から見て叫んだ。
「塚本社長よ。塚本桂子さん、眼鏡メーカの社長で明日から山水園亭で始まる日本女流名人戦のスポンサーよ」

吉川は鈴木刑事に遺書発見の経緯について、塚本桂子から将棋のイベントで真夜中に高嶺城の山頂に行って戦国時代の埋蔵品を探すと聞いていたので、知り合いとドライブがてらに塚本に会いに行こうとしたら、現場に遭遇したと説明した。
美都留についても簡単に紹介した。
鈴木刑事の後ろから兵庫県警にいた本部長の顔が見えた。
「よっ。明日朝から山口県警本部長として勤務なのだが、電話で吉川が死体を発見したと聞いてやってきたよ。
これは吉川君の許嫁さんも一緒なのか」

吉川は、兵庫県警の本部長だった明日から山口県警の本部長に状況を報告した。
「本部長、兵庫県警の課長にも電話をしておきますがよろしいですか」
「午前零時を回ったから、私は山口県警の本部長ということになる。
わかった。こちらからも朝に兵庫県警に連絡するよ」
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