綺麗な薔薇には棘がある。

春血暫

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 それから、石野さんはポツポツと話をしてくれた。
 だが、それよりも月明かりに照らされた石野さんの首元に意識が行き、話が入ってこなかった。

――石野さんの血はどんな匂いするんやろ。

 皐月にしたように、そこに傷をつければ判るだろうか。
 それより、もっと――

「梟帥?」

 石野さんに呼ばれ、ハッとする。

「あ、え? な、何?」
「またボーッとしてたけど」
「ごめんなさい」
「謝らんくてええよ」

 石野さんはニコッと笑い、俺の頭を優しく撫でる。

「事件、解決したんやろ? なら、しばらく休みなさい」
「でも、また――」
「父親代わりとして、お前のこと心配しとる」
「……うん」
「悩みがあるなら、またうちに来なさい。お前のためなら、いつでも店、開けるから」

 ね? と石野さんは笑い、そっと俺の頭から手を離す。
 ありがと、と俺は礼を言い、続けて「ねえ」と石野さんに言う。

「もしボクが……、人をまた殺した、て言うたら、石野さんはどう思う?」
「え?」
「……オトンの時みたいやなくて、もっと、こう……。自分の欲求を満たすために、人を殺したら……」
「……そうか、て思うかな。そこで変に怒ったりはせんよ」

 石野さんは言う。

「目的があって、それのための手段が殺人しかなかったら、仕方ないことやと思うからね」
「……」
「梟帥は、たくさん考えてから行動する子やから。そんな子が、自分の欲求を満たす、てことで、殺人をしたんなら、他に手段がなかった、てことになるやろ」
「石野さん、変わっとる」
「よぅ言われるわ」

 ふわりと笑い、石野さんは手を振る。

「気ぃつけて帰れよ」
「石野さんこそ」
「ん、ありがと」
「こちらこそ」

 と言って、俺たちは別れた。
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