綺麗な薔薇には棘がある。

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「そう……」

　保川さんに言われた話は、とても興味がなかった。

　それでも、保川さんは話を続ける。

「家にある刃物を人に突き刺してみたかった。その反応を知りたかった、とか言うてな」
「好奇心あるのはええことやと思いますけど」
「でも、人にそんなんしたら、相手が死ぬの判るやろ？　人殺したらアカンのも……」
「……はぁ。まあ、法律で決められてますしね、人殺したらアカンて」
「法律で決められてなくてもアカンやろ」
「はぁ」
「……如月さん、あんたほんまに言うてるんか？　今の」
「なんでここで嘘や冗談言うんですか。言ったとて、おもんないでしょ」

　どうして冗談と思うのだろう。
　俺は真剣に言っているのに。

――なんでやろ。

　保川さんの目を見て話していると、初めて石野さんと話したことを思い出す。

――君は普通やと思う？　自分を――
――もしそう思うなら、それでええよ――

　なんでそんなこと言ったのか。
　石野さんの気持ちは、解らないまま。

「保川さん、話終わりなら、俺は行くとこあるんで」
「……待って。まだ終わりやない」
「なんですか」
「如月さんは、確か……お父さん亡くなっとる……よね」
「ええ、そうですけど」
「亡くなった日、何感じた？」
「特に。それより母が精神的に参ってもうて、そっちで大変やったから」
「落ち着いてからは？」
「特に何も」
「……そっか。解った」
　保川さんは「すまんかった」と俺に謝る。
「話は終わりや。ありがと」
「いえ」

　それでは、と俺は一応保川さんに会釈をし、別れた。