綺麗な薔薇には棘がある。

春血暫

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「……なるほど」

 それは、旦那には話せないし、知られたくないことだろう。
 だから言えずにいた。

「けど、どうして今……」
「言うたみたいです。旦那に」
「?」
「『自分の過去と向き合わんとアカン。そうやないと、いつまでも姉の言いなりや。それは自分の人生やない』て思て、勇気出して旦那に言うた。で、旦那は『知ってたわ、そんなん。それでも、お前の過去はお前の過去やろ? 気にすんな』て言うてくれたみたいでな。んで、俺ら警察に安藤のことを話してくれたんです」
「……自分の過去と向き合わんとアカン、か」

 俺もオトンとのことを向き合わないといけない。
 いい加減向き合って、前に進まないといけない。

 けど、それは怖いことで。
 なるべくなら、なかったことにしたい。

――俺にはできるんかな。

 はぁ、とため息を吐くと、石野さんが俺の前にカップを置く。

「俺のオリジナルブレンド。味の保証はあまりせん」
「せんのかい」

 俺は笑ってそのコーヒーを飲む。

「んで、旨いんかい」
「プロやからなぁ、一応は」
「そういえばそうでしたね」
「……ん。やっと笑った」

 石野さんの言葉に、俺は「え?」とカップを置く。

「……?」
「梟帥はあんま笑わへんからな。楽しくないんかな、て」
「……」
「最近はよう笑うから、個人的には嬉しいんよ」

 それだけ、と石野さんは言い、エプロンを脱ぐ。

「仕事の話はあまり聞かん方がええやろ? 俺は奥の方行っとるから、なんかあったら言うて」
「え、あ……」
「ごゆっくり」

 ニコッと石野さんは笑い、店の奥に行った。
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