綺麗な薔薇には棘がある。

春血暫

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「――せんせ?」

 如月せ~んせっ! と皐月に頬をつねられ、俺はハッとした。

 そういえば、風邪が治り、今日は数日ぶりに皐月の元に来ていたのである。

 また皐月が俺にしか話したくない、事件にとって重要なことが判ったから、と呼び出された形ではあるが。
 それなのに、俺は先日石野さんに言われたことを考え、皐月の話をほぼほぼ聞いていなかった。

 皐月はそれに気づいていたのか、俺を見て、わざとらしく頬を膨らませてみせていた。

――めちゃくちゃ可愛ないなぁ。

 という感想は飲み込み、俺は皐月に謝罪する。

「ああ、すまん」
「久しぶりに来てくれた、と思たらボーとして」
「悪い」
「まあ、せんせが元気になってくれたみたいやから、僕的にはええけどね」

 んー、と皐月は笑った後、背筋を伸ばす。

「ほんで、先生がおらん間、僕も今回の事件について考えてみたんよ」
「へえ、珍し。なんで?」
「先生の役には立ちたいからね」
「そ」

 で? と俺が訊くと、皐月は楽しそうに話す。

「今回の被害者は全員男前やねん」
「男前?」
「そう。それも高収入」
「なら、金目当て?」
「それはちゃう。高収入の男前てのがポイントや」

 あとは~、と皐月は一枚の写真を伏せて渡す。

「この人と関わりがあった」
「?」

 伏せられた写真を表にし、見てみると、そこには一人の女がいた。
 色白で弱々しい印象を与える、そんな女。

「なら、こいつが犯人……?」
「多分?」
「犯人やなくても重要参考人として事情を聴かせてもらう必要はあるな」

 女の写った写真を胸ポケットに仕舞い、俺は皐月に礼を言う。

「ありがとな。後は刑事の仕事や」
「ん」

 皐月は頷き、ニコニコ笑って俺を見る。
 無言で。
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