綺麗な薔薇には棘がある。

春血暫

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 俺は小さなバーを経営する、ただの四十近いおじさんだ。

 夕方から開店する自分の店の前に、隣の小さなカフェでそこの店主である石野くんと話をしながら、コーヒーを飲むのが習慣で。
 そのカフェが休みの日は、隣町まで散歩するのが趣味。
 至って普通のおじさんである。
 今は、だけど。

 少し前まで、俺は会社員だったけど、色々と思うことがあり、会社を辞めた。

――あの頃、こんな平和に暮らせる、て思えへんかったな。

 ぼんやり考えながら、開店準備をしていると。
 扉が開き、一人の男性が入ってきた。

 二十歳近くで、とても若々しく、何より男前の彼は、石野くんのカフェを通じて知り合ったこの町の刑事である。

「まだ開店前やで、仁田さん」

 俺が言うと、仁田さんは驚いた顔をしてから笑う。

「またやらかしてもうた」
「ほんま、いつも間違えるね」
「すんません」
「ええよ。はい、この辺座って」

 俺は目の前のカウンターを指す。
 仁田さんは頷き、そこに座る。

「とりあえず、なんやろ。お冷や、ええ?」
「お冷や? ええけど」

 俺は冷蔵庫から冷水の入ったボトルを出し、それをグラスに注ぐ。

「何かあったん?」
「うーん。なーんか、今捜査中の事件、変なとこ多くて、頭おかしくなりそうなんよ」
「変なとこ?」

 はい、とお冷やを出すと。
 ありがと、と仁田さんは受け取り、それを飲む。

「そうなん」
「例えば?」
「捜査中やから、あんま言えへんけど。なんつーか、どっかで見たことあるようなもんばっかやねん。特定の何かを狙っとる、とか」
「? ただの模倣犯、てのとなんかちゃうの?」
「そうやとしたら、キショイわ」
「?」
「特定の誰かの真似をする、てキショイやろ。フツーに考えて」

 ぷはー、と仁田さんは水を飲み終えると、いつもと同じハイボールを頼んだ。
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