綺麗な薔薇には棘がある。

春血暫

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 一人になり、先生のことを考えてみた。

 先生は、本当にどんなつもりでもなく父親を殺したのだろうか。
 殺した……という感覚はあるのだろうか。そもそも。

「気になるわ、ほんまに」

 知れば知るほど、より知りたくなる。

 今まで出逢った中で、一番面白い人で、好きだ。
 初めて、他人に対し、好きという感想を抱いた。

 もしかすると、僕の初恋は先生なのかもしれない。

「ははは……っ」

 先生は、僕のことをどう思っているだろう。
 気になる。

 今すぐここから出て、会いに行きたい。
 会って、話をして、そのまま――

「楽しそうですね」
「……何? 僕は今、先生のこと考えてたんやけど」

 声のした方を見ると、そこには女の刑務官がいた。
 初めて見る顔だから、新入りだろうか。

「邪魔するんやったら、帰ってくれへん?」
「そんなつもりはありません。ただ、あなたに会いたかったんです」
「会いたかった?」
「はい。あなたの殺し方は本当に素敵です。尊敬しています」
「……はぁ」
「十年以上も捕まらずにいた、て話は本当に凄いです」

 なぜか彼女は僕をキラキラした目で見て話す。

「ここで捜査の協力をしている、と噂で聞き、来てみたら本当にあなたがいたから、驚きました」
「……用件はそれだけ?」
「今日のところは」
「……なら帰って」
「はい」

 それではまた、と彼女は帰った。
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