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生死の間の町
013
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由一の家を出て、文弘は駅に向かっていた。
――なぜ記録があるのに、記憶がないのだろう。
そこが文弘の引っかかっているポイントだった。
優とのつながりも謎のまま。
「というか信じられないな……。俺とあの人が一緒にいたなんて」
近しいというのも気になる。
もしも俺のままで、近しい存在となっていたなら。
それは恋仲ということになる。
「確かに見た目は良いし、Sっ気強くてタイプだけど」
出会う形が違っていたら付き合っていた可能性は高い。
文弘がそう考えながら歩いていると「失礼」と誰かに少し強く腕を引かれた。
文弘は驚いて振り向くと、そこには駅員がいた。
駅員は「お客さん」と少し強く言う。
「自殺はお断りしています」
「え?」
「考えながら歩くというのも良いですが、電車に轢かれたらどうします?」
「あ……」
そう言われ、文弘は自分がホームから落ちそうになっているのに気づいた。
――俺らしくないな。
文弘は心の中で呟き、駅員に言う。
「すみません。全く気づいてませんでした」
「そのようですね。私がいなかったら落ちて死んでましたよ」
「ええ」
「まあ、ここの電車は本数が少ないですからね」
はあ、と駅員はため息を吐く。
「しばらく電車は来ません。電車が来るまで話でもしますか」
「そうですね」
文弘は頷き、近くのベンチに座る。
「駅員さん、名前は?」
「名前ですか?」
駅員は駅員室からお茶を二つ持って来て、文弘の隣に座る。
「遠い昔の話で忘れてしまいました」
「は?」
「私は死んでから三百年か四百年ほどここにいますからね。名前はあったかもしれませんが忘れましたよ」
「え、やはりここはこの世とあの世の間?」
「というには少し複雑な感じがします。ここは死んでることに気づいてない人やこの世に未練があるけど未練が何かわからない人。死者を想い過ぎてる人などが生活する場ですから」
駅員は街の景色を見ながら、呟くように話した。
――なぜ記録があるのに、記憶がないのだろう。
そこが文弘の引っかかっているポイントだった。
優とのつながりも謎のまま。
「というか信じられないな……。俺とあの人が一緒にいたなんて」
近しいというのも気になる。
もしも俺のままで、近しい存在となっていたなら。
それは恋仲ということになる。
「確かに見た目は良いし、Sっ気強くてタイプだけど」
出会う形が違っていたら付き合っていた可能性は高い。
文弘がそう考えながら歩いていると「失礼」と誰かに少し強く腕を引かれた。
文弘は驚いて振り向くと、そこには駅員がいた。
駅員は「お客さん」と少し強く言う。
「自殺はお断りしています」
「え?」
「考えながら歩くというのも良いですが、電車に轢かれたらどうします?」
「あ……」
そう言われ、文弘は自分がホームから落ちそうになっているのに気づいた。
――俺らしくないな。
文弘は心の中で呟き、駅員に言う。
「すみません。全く気づいてませんでした」
「そのようですね。私がいなかったら落ちて死んでましたよ」
「ええ」
「まあ、ここの電車は本数が少ないですからね」
はあ、と駅員はため息を吐く。
「しばらく電車は来ません。電車が来るまで話でもしますか」
「そうですね」
文弘は頷き、近くのベンチに座る。
「駅員さん、名前は?」
「名前ですか?」
駅員は駅員室からお茶を二つ持って来て、文弘の隣に座る。
「遠い昔の話で忘れてしまいました」
「は?」
「私は死んでから三百年か四百年ほどここにいますからね。名前はあったかもしれませんが忘れましたよ」
「え、やはりここはこの世とあの世の間?」
「というには少し複雑な感じがします。ここは死んでることに気づいてない人やこの世に未練があるけど未練が何かわからない人。死者を想い過ぎてる人などが生活する場ですから」
駅員は街の景色を見ながら、呟くように話した。
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