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生死の間の町
004
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藁谷町の駅はとても小さな木造の駅。
理緒は駅員室に顔を出し「駅員さーん」と声をかける。
「来ましたよー」
「理緒くん。久しぶりだね」
駅員は帽子を深く被っていて顔は見えない。
ただ優しい声で理緒と文弘に小さな白紙の切れ端を渡す。
「帰りにまた声をかけてね」
「はいよ」
「ん」
駅員は頷いた後、文弘を見て少し驚いた顔をする。
「川中さんじゃないか……! そうか、君はこっちではなく違う町で生きていたのか……!!」
「え、何?」
「ああ、そうかこっちでは初めましてだね。申し訳ない」
「……あの何か? 俺は昔こっちに来たことがあるのか?」
「うん。この町で高校の国語教師をしていたよ」
「高校の国語教師? 何の話」
「…………もしかして全部なかったことになっているのかい?」
駅員は寂しそうに言い、そうか、と頷く。
「変なことを言ってすまない。どうぞゆっくり町を歩いていってくれ」
「? はあ」
「駅員さん、あの……」
理緒が声をかけると、駅員は「帽子は便利さ」と呟く。
「泣き顔を晒さずに済んだ」
「え……?」
「理緒くん。由一くんに伝えといてくれ」
「え、うん。何を?」
「また繰り返してしまっている、と」
「繰り返してる? 誰が? 何を?」
「それは話せない。とりあえず、それを彼に伝えてくれ」
頼むよ、と駅員は笑った。
理緒は頷き、先を歩く文弘の元へ行った。
理緒は駅員室に顔を出し「駅員さーん」と声をかける。
「来ましたよー」
「理緒くん。久しぶりだね」
駅員は帽子を深く被っていて顔は見えない。
ただ優しい声で理緒と文弘に小さな白紙の切れ端を渡す。
「帰りにまた声をかけてね」
「はいよ」
「ん」
駅員は頷いた後、文弘を見て少し驚いた顔をする。
「川中さんじゃないか……! そうか、君はこっちではなく違う町で生きていたのか……!!」
「え、何?」
「ああ、そうかこっちでは初めましてだね。申し訳ない」
「……あの何か? 俺は昔こっちに来たことがあるのか?」
「うん。この町で高校の国語教師をしていたよ」
「高校の国語教師? 何の話」
「…………もしかして全部なかったことになっているのかい?」
駅員は寂しそうに言い、そうか、と頷く。
「変なことを言ってすまない。どうぞゆっくり町を歩いていってくれ」
「? はあ」
「駅員さん、あの……」
理緒が声をかけると、駅員は「帽子は便利さ」と呟く。
「泣き顔を晒さずに済んだ」
「え……?」
「理緒くん。由一くんに伝えといてくれ」
「え、うん。何を?」
「また繰り返してしまっている、と」
「繰り返してる? 誰が? 何を?」
「それは話せない。とりあえず、それを彼に伝えてくれ」
頼むよ、と駅員は笑った。
理緒は頷き、先を歩く文弘の元へ行った。
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