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生死の間の町
003
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「――ということで、あそこに行くには事前の連絡が必要なんですよ」
理緒は文弘に藁谷町への行き方を話した。
文弘は「なるほどな」と頷き、メモを取る。
「地元なんだろ? お前は。それでも連絡は必要なのか?」
「地元民だけなら連絡なしでも良いんですけど。先生は地元民ではないでしょ? 行ったこともない。そういう人がいる場合は連絡しないと途中ではぐれるんです」
「そうか」
なるほど、と文弘はメモを取り、小さく息を吐く。
「悪いな、色々と」
「? 何ですか、急に。先生らしくない」
「俺だって謝るときはあるよ」
「いや、僕に謝ることってないじゃないですか。え、本当に先生? 先生の双子の弟?」
「俺に双子の兄弟はいないし、お前に謝ることはまあまああるよ」
文弘は笑って理緒に話す。
「あんまり教えられなくて悪かったな」
「いや、良いですって。え、そういうの気持ち悪いからやめた方が良いですよ」
「お前はたまに酷いことを言うなあ」
「先生ほどではありませんよ」
理緒は笑ってペットボトルのお茶を飲む。
「そういえば、今朝の死体の詳細って話しましたっけ?」
「聞いてない」
「被害者は天宮城愛理。杜和泉市耻町五丁目に住むフリーのイラストレーターです」
「うぶしろ? 変わった名前だな」
「川中先生も変わった名前ですからね。先生以外で見たことありませんよ」
「俺も俺の身内しか知らん」
で、と文弘は理緒に言う。
「耻町五丁目? 現場から少し離れた所じゃねえか」
「ええ、そうなんです。気になって周辺に聞き込みをしたら、昨夜十二時頃。被害者の妹の愛弥が泣きながら走っていて、助けを求めていたみたいで……」
「その妹も狙われていた、ということか? いや、それは少し違うか……」
「ええ、愛弥も狙われていたみたいです。が、愛弥を狙っていたのは愛理でした。姉妹喧嘩だったみたいです」
「姉妹喧嘩で外を飛び出すか? 妹泣きながら走って助けを求めるって、異常だろ」
「異常です。僕と雪城もそう思い、耻町の方に行き聞き込みをしました。すると、愛理が愛弥に虐待をしていることがわかりました」
「…………」
「愛理は愛弥が自分以外と関わることを嫌がり、学校に行かせなかったのです。二人の両親は愛理が昔殺害しました」
「親を殺して妹を自分のものに、てか……」
「そんなところです。先生、数年前にあった耻町の夫婦惨殺事件を覚えていますか?」
「ああ、あれは俺がこっちに来て最初の方の事件だったから、よく覚えているよ。あれだろ? 娘が二人いる夫婦がある日惨殺されていた、ていう。あれは俺がまだ未熟だったから、未解決事件として処理されたよな」
「ええ、あの事件の犯人が愛理だったんです」
「そうか……。それを知った妹が姉を? いや、それはないか。あの殺し方はあいつなんだ」
片手で首の骨を折り、四肢切断。
それを少女ができるわけがない。
それができるのは、優だけである。
文弘はそう思い、開いていたメモ帳を閉じる。
「妹は姉から解放され、自由に生きることを願った」
「多分そうだと思います。姉妹の隣に住む男から聞いた話だと、愛弥は『私はお姉ちゃんの所有物じゃない!』と叫んでいたみたいですから」
「その後、それを許さない姉が妹を殺そうとした。姉が持っていたナイフが折れていたのは、妹の近くにいた犯人を殺そうとしたから」
「それで返り討ちにあった、という話ですかね……」
「あんまり良い気分のしない話だな」
文弘はぼんやりと外を見ながら話す。
「自分の所有物にしたいって思うくらい人を思ったことないからな」
「先生、あまり他人に興味ないですもんね」
「まあ」
「僕はこの話、愛弥の方の気持ちはわかりますよ。母が愛理のような人でしたからね」
「そうなんだ」
「ええ。極度の男性恐怖症で、自分の身体から男が産まれたことが気持ち悪い、ということで女扱いされ続けました。門限とかも厳しかったなぁ。洋服も全部決められていて、とても窮屈で苦しくて解放されたかった」
「今はもう解放されているんじゃないのか? 一人暮らしをしているし」
「まあ。でも、母は僕が男として普通に生きることが嫌で、それが原因で自殺をしましたから。解放されませんね……」
「…………」
「愛弥はきっと『助けて』と言っただけで、愛理を殺してほしいと思っていなかったと思います。僕だって、母から助けてもらいたかっただけで、死んでほしくなんかなかったから」
なんてね、と理緒はペットボトルを仕舞う。
「そろそろ着きます」
「……北ヶ峰って苦労人だな」
「先生ほどではありません」
理緒はニコッと笑った。
理緒は文弘に藁谷町への行き方を話した。
文弘は「なるほどな」と頷き、メモを取る。
「地元なんだろ? お前は。それでも連絡は必要なのか?」
「地元民だけなら連絡なしでも良いんですけど。先生は地元民ではないでしょ? 行ったこともない。そういう人がいる場合は連絡しないと途中ではぐれるんです」
「そうか」
なるほど、と文弘はメモを取り、小さく息を吐く。
「悪いな、色々と」
「? 何ですか、急に。先生らしくない」
「俺だって謝るときはあるよ」
「いや、僕に謝ることってないじゃないですか。え、本当に先生? 先生の双子の弟?」
「俺に双子の兄弟はいないし、お前に謝ることはまあまああるよ」
文弘は笑って理緒に話す。
「あんまり教えられなくて悪かったな」
「いや、良いですって。え、そういうの気持ち悪いからやめた方が良いですよ」
「お前はたまに酷いことを言うなあ」
「先生ほどではありませんよ」
理緒は笑ってペットボトルのお茶を飲む。
「そういえば、今朝の死体の詳細って話しましたっけ?」
「聞いてない」
「被害者は天宮城愛理。杜和泉市耻町五丁目に住むフリーのイラストレーターです」
「うぶしろ? 変わった名前だな」
「川中先生も変わった名前ですからね。先生以外で見たことありませんよ」
「俺も俺の身内しか知らん」
で、と文弘は理緒に言う。
「耻町五丁目? 現場から少し離れた所じゃねえか」
「ええ、そうなんです。気になって周辺に聞き込みをしたら、昨夜十二時頃。被害者の妹の愛弥が泣きながら走っていて、助けを求めていたみたいで……」
「その妹も狙われていた、ということか? いや、それは少し違うか……」
「ええ、愛弥も狙われていたみたいです。が、愛弥を狙っていたのは愛理でした。姉妹喧嘩だったみたいです」
「姉妹喧嘩で外を飛び出すか? 妹泣きながら走って助けを求めるって、異常だろ」
「異常です。僕と雪城もそう思い、耻町の方に行き聞き込みをしました。すると、愛理が愛弥に虐待をしていることがわかりました」
「…………」
「愛理は愛弥が自分以外と関わることを嫌がり、学校に行かせなかったのです。二人の両親は愛理が昔殺害しました」
「親を殺して妹を自分のものに、てか……」
「そんなところです。先生、数年前にあった耻町の夫婦惨殺事件を覚えていますか?」
「ああ、あれは俺がこっちに来て最初の方の事件だったから、よく覚えているよ。あれだろ? 娘が二人いる夫婦がある日惨殺されていた、ていう。あれは俺がまだ未熟だったから、未解決事件として処理されたよな」
「ええ、あの事件の犯人が愛理だったんです」
「そうか……。それを知った妹が姉を? いや、それはないか。あの殺し方はあいつなんだ」
片手で首の骨を折り、四肢切断。
それを少女ができるわけがない。
それができるのは、優だけである。
文弘はそう思い、開いていたメモ帳を閉じる。
「妹は姉から解放され、自由に生きることを願った」
「多分そうだと思います。姉妹の隣に住む男から聞いた話だと、愛弥は『私はお姉ちゃんの所有物じゃない!』と叫んでいたみたいですから」
「その後、それを許さない姉が妹を殺そうとした。姉が持っていたナイフが折れていたのは、妹の近くにいた犯人を殺そうとしたから」
「それで返り討ちにあった、という話ですかね……」
「あんまり良い気分のしない話だな」
文弘はぼんやりと外を見ながら話す。
「自分の所有物にしたいって思うくらい人を思ったことないからな」
「先生、あまり他人に興味ないですもんね」
「まあ」
「僕はこの話、愛弥の方の気持ちはわかりますよ。母が愛理のような人でしたからね」
「そうなんだ」
「ええ。極度の男性恐怖症で、自分の身体から男が産まれたことが気持ち悪い、ということで女扱いされ続けました。門限とかも厳しかったなぁ。洋服も全部決められていて、とても窮屈で苦しくて解放されたかった」
「今はもう解放されているんじゃないのか? 一人暮らしをしているし」
「まあ。でも、母は僕が男として普通に生きることが嫌で、それが原因で自殺をしましたから。解放されませんね……」
「…………」
「愛弥はきっと『助けて』と言っただけで、愛理を殺してほしいと思っていなかったと思います。僕だって、母から助けてもらいたかっただけで、死んでほしくなんかなかったから」
なんてね、と理緒はペットボトルを仕舞う。
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