49 / 114
写鏡の師
006
しおりを挟む
文弘が目を覚ますと、そこは大学内の廊下で。
――またやっちまったか。
と、文弘は呟き、頭を軽く掻く。
手元には荷物があり、そのまま帰ろうと思ったが。
荷物を確認し、とあるものがないことに気づいた。
それは文弘の祖母――福世の形見である本だった。
文弘は少し慌てて、自分がいた自分の研究室に戻った。
誰もいないということは何となくわかっていたが。
それでも、心配で少し乱暴に扉を開いて中に入ると。
そこには、一が自分の席に座り、福世の写真を見ていた。
「っ!」
文弘は驚きよりも怒りの感情が込み上げ「おい」と一に言う。
「人のものを勝手に触るな」
「あ……、えっと、すみません」
「良いから、さっさとそれから離れてくれる?」
「えっと……」
「離れろっつってんのが、わかんねえのか!!」
文弘が怒鳴るように言うと、一はビクッとし、写真をそっと机の上に置く。
「ごめんなさい……」
「何が」
文弘はイライラしながら、写真を本に挟み、鞄に仕舞う。
「謝れば良いって話ではないから」
「…………」
「俺が少し離れたのも悪いけどさ。普通、人のものを勝手に触らないでしょ」
「……あの」
一は震えそうな体を押さえながら、文弘に言う。
「さっき、鏡……さん? に、先生のことをよろしくって言われて……」
「あ?」
文弘は一の言葉に驚き、一を見る。
「何、言ってるの……?」
「えっと、だから、先生のことをよろしくって言われて。何をよろしくされたのかがわからなくて。何かヒントがあるかな、て思って。そしたら、その本を見つけて……」
「だから、お前、何を言ってるの?」
文弘は鞄を置き、一の肩を強く掴む。
「なあ、何を言ってるんだよ」
「え、いや、だから、その」
「誰が俺のことをよろしくって?」
「その、鏡? さん……」
「冗談は止めてくれ、瀧代」
嘘だ、と文弘は思った。
鏡の存在は誰にも話していない。
それなのに、どうして、一が知っているのか。
自分が眠っていた数分の間に、一体何があったのか。
それがわからなくて、怖いと感じた。
しかし、それを誰かに言うということは、文弘にはできなかった。
「お前、何? あいつに会ったの? は?」
「え、先生、その、落ち着いて。てか、痛い……」
「何で普通にいられんの? あいつに会っといて! 離れないのは何で?」
「えっと、落ち着いてください。先生」
「落ち着いていられっかよ!! てめえ!!」
「っ!!」
「何勝手なことしてんだよ……。本当に……」
文弘はそう呟き、一から離れる。
「もうしばらく来ないでくれ。そっちの方が良いに決まってるから」
「? 先生?」
「単位なら気にすんな。お前は十分だから」
じゃ、と鞄を持って文弘は帰っていった。
――またやっちまったか。
と、文弘は呟き、頭を軽く掻く。
手元には荷物があり、そのまま帰ろうと思ったが。
荷物を確認し、とあるものがないことに気づいた。
それは文弘の祖母――福世の形見である本だった。
文弘は少し慌てて、自分がいた自分の研究室に戻った。
誰もいないということは何となくわかっていたが。
それでも、心配で少し乱暴に扉を開いて中に入ると。
そこには、一が自分の席に座り、福世の写真を見ていた。
「っ!」
文弘は驚きよりも怒りの感情が込み上げ「おい」と一に言う。
「人のものを勝手に触るな」
「あ……、えっと、すみません」
「良いから、さっさとそれから離れてくれる?」
「えっと……」
「離れろっつってんのが、わかんねえのか!!」
文弘が怒鳴るように言うと、一はビクッとし、写真をそっと机の上に置く。
「ごめんなさい……」
「何が」
文弘はイライラしながら、写真を本に挟み、鞄に仕舞う。
「謝れば良いって話ではないから」
「…………」
「俺が少し離れたのも悪いけどさ。普通、人のものを勝手に触らないでしょ」
「……あの」
一は震えそうな体を押さえながら、文弘に言う。
「さっき、鏡……さん? に、先生のことをよろしくって言われて……」
「あ?」
文弘は一の言葉に驚き、一を見る。
「何、言ってるの……?」
「えっと、だから、先生のことをよろしくって言われて。何をよろしくされたのかがわからなくて。何かヒントがあるかな、て思って。そしたら、その本を見つけて……」
「だから、お前、何を言ってるの?」
文弘は鞄を置き、一の肩を強く掴む。
「なあ、何を言ってるんだよ」
「え、いや、だから、その」
「誰が俺のことをよろしくって?」
「その、鏡? さん……」
「冗談は止めてくれ、瀧代」
嘘だ、と文弘は思った。
鏡の存在は誰にも話していない。
それなのに、どうして、一が知っているのか。
自分が眠っていた数分の間に、一体何があったのか。
それがわからなくて、怖いと感じた。
しかし、それを誰かに言うということは、文弘にはできなかった。
「お前、何? あいつに会ったの? は?」
「え、先生、その、落ち着いて。てか、痛い……」
「何で普通にいられんの? あいつに会っといて! 離れないのは何で?」
「えっと、落ち着いてください。先生」
「落ち着いていられっかよ!! てめえ!!」
「っ!!」
「何勝手なことしてんだよ……。本当に……」
文弘はそう呟き、一から離れる。
「もうしばらく来ないでくれ。そっちの方が良いに決まってるから」
「? 先生?」
「単位なら気にすんな。お前は十分だから」
じゃ、と鞄を持って文弘は帰っていった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
月原さんの憑き物祓い いつ鬼
珈琲妖怪
ホラー
死ななくてはならない。島岡めぐみは苛烈とまで言える自殺への思いを抱えていたが、ミステリアス美人な月原芹に自殺を止められ自殺衝動が『憑き物』からくるのだと教えられる。
憑き物とそれに関わる人々の思いを解き明かすため二人は調査に乗り出す。
さらば真友よ
板倉恭司
ミステリー
ある日、警察は野口明彦という男を逮捕する。彼の容疑は、正当な理由なくスタンガンと手錠を持ち歩いていた軽犯罪法違反だ。しかし、警察の真の狙いは別にあった。二十日間の拘留中に証拠固めと自供を狙う警察と、別件逮捕を盾に逃げ切りを狙う野口の攻防……その合間に、ひとりの少年が怪物と化すまでの半生を描いた推理作品。
※物語の半ばから、グロいシーンが出る予定です。苦手な方は注意してください。
オンボロアパート時計荘の住人
水田 みる
ミステリー
鍋島(なべしま) あかねはDV彼氏から逃げる為に、あるアパートに避難する。
そのアパートー時計荘(とけいそう)の住人たちは、少し個性的な人ばかり。
時計荘の住人たちの日常を覗いてみませんか?
※ジャンルは日常ですが、一応ミステリーにしています。
ピジョンブラッド
楠乃小玉
ミステリー
有る宝石商の殺人事件。それを切っ掛けに、
主人公は世界をまたにかけた戦前の日本の諜報機関の残滓に遭遇することになる。
この作品はまだ若い頃、遊びで書いたものです。
ですからお話は完結しているので、
途中で終わることはありませんので安心してご覧ください。
35歳刑事、乙女と天才の目覚め
dep basic
ミステリー
35歳の刑事、尚樹は長年、犯罪と戦い続けてきたベテラン刑事だ。彼の推理力と洞察力は優れていたが、ある日突然、尚樹の知能が異常に向上し始める。頭脳は明晰を極め、IQ200に達した彼は、犯罪解決において類まれな成功を収めるが、その一方で心の奥底に抑えていた「女性らしさ」にも徐々に目覚め始める。
尚樹は自分が刑事として生きる一方、女性としての感情が徐々に表に出てくることに戸惑う。身体的な変化はないものの、仕草や感情、自己認識が次第に変わっていき、男性としてのアイデンティティに疑問を抱くようになる。そして、自分の新しい側面を受け入れるべきか、それともこれまでの「自分」でい続けるべきかという葛藤に苦しむ。
この物語は、性別のアイデンティティと知能の進化をテーマに描かれた心理サスペンスである。尚樹は、天才的な知能を使って次々と難解な事件を解決していくが、そのたびに彼の心は「男性」と「女性」の間で揺れ動く。刑事としての鋭い観察眼と推理力を持ちながらも、内面では自身の性別に関するアイデンティティと向き合い、やがて「乙女」としての自分を発見していく。
一方で、周囲の同僚たちや上司は、尚樹の変化に気づき始めるが、彼の驚異的な頭脳に焦点が当たるあまり、内面の変化には気づかない。仕事での成功が続く中、尚樹は自分自身とどう向き合うべきか、事件解決だけでなく、自分自身との戦いに苦しむ。そして、彼はある日、重大な決断を迫られる――天才刑事として生き続けるか、それとも新たな「乙女」としての自分を受け入れ、全く違う人生を歩むか。
連続殺人事件の謎解きと、内面の自己発見が絡み合う本作は、知能とアイデンティティの両方が物語の中心となって展開される。尚樹は、自分の変化を受け入れることで、刑事としても、人間としてもどのように成長していくのか。その決断が彼の未来と、そして関わる人々の運命を大きく左右する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる