狂気繚乱

春血暫

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狂気繚乱

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 私は、小さな町の唯一の病院で精神科医として働いています。
 この病院は、従兄弟がやっている病院で、私は勤務医。
 従兄弟は、私と同い年。
 見た目も同じ感じですが、双子ではないです。
 私たちの見分けと言えば、私はオッドアイでそれを隠すためにサングラスをかけています。
 がたいは良い方なので、怖がられますが。
 あまり気にしません。
 自分で言うのも、あれですが、少しモデルをしていたから、そこまでブスではないと思います。
 もちろん、従兄弟だってそうです。
「さて」
 私は、呟き精神病コーナーに向かう。

 初診の患者は、久しぶりではないが。
 子ども以外なのは、久しぶりだった。
 このコーナーの病室、二〇五号室にその患者はいた。
 私は、病室をノックして入る。
「初めまして、私は引馬ひくまと言います」
「…………僕は、佐々塚優」
「良い名前ですね。漢字は?」
「佐々は人偏に左を繰り返して、塚は土偏のやつ。で、優しいで優」
「うん。良い名前。ますます、気に入った」
「……引馬先生も良いですね。僕はね、公立高校で国語教師をしているんです」
「へえ、なんていう高校なんですか?」
「県立あだゆめ高等学校です」
「ここより、少し離れたところにありますよね。あの高校ですか」
「ええ、先生もご存知なんですね」
「もちろん、有名ですから」
 その高校は、存在なんてしないんです。
 探しても、どこにも。
 あり得ないんですよ。
 なんで、有名なのか、というと。
 そこは、死者の学校ですから。
 都市伝説として、有名なのです。
「さて、佐々塚先生」
「医者にそう言われるのは、不思議ですね」
「ええ、でも、あなたは教師ですし。間違いないでしょう?」
「ええ」
 佐々塚先生は、やはり、狂っていた。
 こんなところに、いるってだけであなたはダメなのだ。
「佐々塚先生。入院しなくてすみますよ、あなたは」
「本当ですか?」
「ええ、大丈夫。私に話したいことがあるときに、話してくれれば」
 それに、もう、あなたは。
 あなたは。
「では、また明日。寝床がなければ、使ってください」
「ありがとうございます」
「あ、佐々塚先生。一つだけ、あなたに伝えないといけない」
「? なんでしょうか」
「佐々塚先生」
 私は、佐々塚先生を見て、ゆっくり言います。
「あなたの行為は、世間一般的には間違っていた。でも、気持ちは本物だから、私は正しいと思いますよ」
「…………っ」
「あなたの愛は、きちんと相手に伝わっていますし。初対面の私にも、よくわかります。あなたは、名前の通り、優しくて、素晴らしい人です。だから、自分を責めるのはやめてください。まずは、そこから始めませんか?」
「はいっ」
 ニコッと、佐々塚先生は笑いました。
 私もつられて、笑いました。
 では、と扉を開き外に出て閉めます。
 パタンっという音と一緒に、佐々塚先生の気配も消えました。

「お疲れ、佑司ゆうじ
「ありがとう、悠生ゆうき
 従兄弟の悠生は、私が出てきた病室を見ます。
「今回は、スムーズにできたな」
「いつもは、無理だよ。まあ、たまになら良いけど」
「ってか、目ぇ悪いのに、よくわかるよな」
「まあね、色はわからないけど」
 けど、と私は言います。
「いると思えばいるんだよ」
「ふーん」
「さて、昼でも食べますか?」
「そうだな。よし、由都ゆいとのとこ行こうぜ」
「いいよ、行こう」
 悠生の高校時代の友人であり。
 悠生の母方の従兄弟(?)の奥さんでもある由都さんは、この近くで喫茶店をしています。
「では、また」
――会いましょうね、天国で。
 私は、佐々塚先生のことを思いながら呟きます。
「さようなら、七年も彷徨い続けた霊魂たましい
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