狂気繚乱

春血暫

文字の大きさ
上 下
6 / 19
狂気繚乱

¶006

しおりを挟む
 職員室での仕事を終え、気晴らしに教室の点検をしようと優は思った。
 きっと、時間的に高嶺がまだ教室で勉強をしているだろう。
 高嶺がいつも、下校時間ギリギリまで、教室で勉強をしているのを、優は知っていた。
 今日の出来事を、直接本人に聞こう。
 優は、そう思って教室に向かった。

 教室の前で、ふと、違和感を感じた。
 この暑い中、前も後ろも締め切り、カーテンも閉めているなんておかしい。
 ここは、田舎でエアコンなんて教室にはついていないのに。
――永逕がいるはずなのに、誰か、締め切ったのか?
 優は、とても不安になり、教室に入ると。
 そこには、信じられない光景があった。
 高嶺が、優の名前を言いながら自慰をしていた。
「永逕?」
「っ!!」
「何をしているんだ、暑いのに。それに、俺の名前――」
「く、来るな!!」
「は?」
「わ、悪い? 締め切って、くそ暑い中、あんたとのセックス妄想しながらオナニーしているのが、そんなに悪いことか!?」
 高嶺は、怒鳴るように優に言う。
「好きだよ! 大好きだよ! 私を信じて、あのくそ教師どもを説得してくれたあんたのことが!! もう、愛してるの!! あんたに触られたい、挿入いれられたい!!」
「……お前、自分の台詞わかってんの?」
 突然のことで、戸惑いながら。
 それでも、優は高嶺のことを気にして、気づかう。
「お前、俺とセックスをしたいって言っているんだぞ?」
「わかってる!!」
「……身分とかも?」
「わかってるから、言えなかったんじゃん!! 私、そのくらいわかるよ!?」
 感情がごちゃごちゃになってきた高嶺は、涙を流しながら叫ぶ。
「それでも、したいって思っちゃうの!!」
「な、永逕……」
 優は、高嶺の思いを知り、困惑する。
 ここは、文弘の言うように、きっぱりと言うべきだと思う。
 しかし、応えたいと思う自分がいることに優は困惑していた。
「永逕、お前は一つ誤解をしているが、俺はそんな善人じゃないぞ。お前の思うような人間じゃあない」
「良い。悪人でも、何でも良い。ただ、佐々塚先生じゃないと、もう嫌だ」
「……馬鹿じゃねえの? お前は、さ。誰だって良いんだよ? 優しくされたから、好きになった。それだけだろ?」
 優は、俯きながら言う。
 やはり、応えてはいけない。
 高嶺のために、である。
 自分が、警察に捕まるのはこの際どうでも良いが。
 高嶺が、これで淫乱娘と言われ、毛嫌いされたらたまったもんじゃない。
 優は、そう思い、高嶺に嫌われようと言葉を選ぶ。
「どんな、くそきたねえじじいにだって、お前は尻尾を振るんだよ」
「んなわけないよ、あんただから……!!」
「だから、迷惑だって!! 俺を、犯罪者にさせてえのか!?」
 気持ちが、伝わらないのがイライラし、優は教卓を蹴飛ばす。
 その勢いで、近くにあった机も倒れ、ものすごい音が鳴る。
 その音に、高嶺はビクリとし、ガタガタと震えながら優を見る。
 優は、まだ俯いたままで、高嶺からは表情はわからなかった。
「なあ、俺とお前はただの教師と生徒だろ? それで良いじゃねえかよ」
「や……だ……」
「は?」
「やだよ。愛しているんだもん」
 震えながら、高嶺は言う。
「先生と、一緒になりたい」
「……俺を殺してでもか?」
「…………」
「俺とセックスすれば、お前は被害者。俺は加害者だよ。わかる? それが、この国なんだ」
「でも、一回だけで良いから。ヤらせてよ」
「ダメだ。俺は、お前では勃起しねえよ」
「…………」
「ほんと、このこと黙っとくから。お前、家に帰れよ。後片付けとか、俺がしておくから」
 優は、頭を掻きながら言う。
「わかったら、返事」
「……はい」
「ん、良い子だな」
 優は、そう言って高嶺のところに行き、頭を優しく撫でる。
「じゃ、気をつけて帰れよ」
「うん。ごめんね。でも、好きだよ」
「好意はありがたい。しかし、俺は今の立場だと応えられない。俺の立場とかではなく、お前にとって、将来がなくなるからな」
「……先生?」
「気にするな。ただの一般論だ」
 優は、ニコッと笑い高嶺を見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熾ーおこりー

ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】  幕末一の剣客集団、新撰組。  疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。  組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。  志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー ※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です 【登場人物】(ネタバレを含みます) 原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派) 芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。 沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派) 山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派) 土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派) 近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。 井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。 新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある 平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派) 平間(水戸派) 野口(水戸派) (画像・速水御舟「炎舞」部分)

視える棺―この世とあの世の狭間で起こる12の奇譚

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、「気づいてしまった者たち」 である。 誰もいないはずの部屋に届く手紙。 鏡の中で先に笑う「もうひとりの自分」。 数え間違えたはずの足音。 夜のバスで揺れる「灰色の手」。 撮ったはずのない「3枚目の写真」。 どの話にも共通するのは、「この世に残るべきでない存在」 の気配。 それは時に、死者の残した痕跡であり、時に、境界を越えてしまった者の行き場のない魂でもある。 だが、"それ"に気づいた者は、もう後戻りができない。 見てはいけないものを見た者は、見られる側に回るのだから。 そして、最終話「最期のページ」。 読み進めることで、読者は気づくことになる。 なぜ、この短編集のタイトルが『視える棺』なのか。 なぜ、彼らは"見えてしまった"のか。 そして、最後のページに書かれていたのは—— 「そして、彼が振り返った瞬間——」 その瞬間、あなたは気づくだろう。 この物語の本当の意味に。

足が落ちてた。

菅原龍馬
ホラー
これは実際に私が体験した話です。 皆さん、夜に運転する時は気を付けて下さい。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

視える棺2 ── もう一つの扉

中岡 始
ホラー
この短編集に登場するのは、"視えてしまった"者たちの記録である。 影がずれる。 自分ではない"もう一人"が存在する。 そして、見つけたはずのない"棺"が、自分の名前を刻んで待っている——。 前作 『視える棺』 では、「この世に留まるべきではない存在」を視てしまった者たちの恐怖が描かれた。 だが、"視える者"は、それだけでは終わらない。 "棺"に閉じ込められるべきだった者たちは、まだ完全に封じられてはいなかった。 彼らは、"もう一つの扉"を探している。 影を踏んだ者、"13階"に足を踏み入れた者、消えた友人の遺書を見つけた者—— すべての怪異は、"どこかへ繋がる"ために存在していた。 そして、最後の話 『視える棺──最後の欠片』 では、ついに"棺"の正体が明かされる。 "視える棺"とは何だったのか? 視えてしまった者の運命とは? この物語を読んだあなたも、すでに"視えている"のかもしれない——。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

春の夜話

のーまじん
ホラー
東京の下町に住む池上の家には子供たちが集まる。 ある日、子ども達が怪談を聞きたがり、池上の友人で声優の秋吉が話を始めようとします。

ルッキズムデスゲーム

はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』 とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。 知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。

処理中です...