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001 ゾンビに捧げるレクイエム

君を信じてる

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 ただ、半月滞在しただけの俺でもこれなのだ。
 村の人たちも限界が近い。

「遠慮しておくわ。ねえ、仮にあなたの言う通りだとして、どうして私の魔法が効かないの?」
「……さあ?」

 俺は軽く肩をすくめた。
 理由なんて知らないから、早く解放してほしい。

「貴様っ、お嬢様に何を! ふざけているのかっ」

 温厚な俺でも、とうとう我慢の限界だ。

「ふざけているのはどっちだ? 名も名乗らず、助けた相手を当然のように脅す。それが貴族と言えるのかっ」
「ぐっ……」

 俺が本当に神ならば、このおっさん、ミミズかカエルに変えるのに。
 
「ごめんなさい。確かにあなたが正しいわ。さっきは、助けてくれてありがとう」

 お? お嬢は案外素直だ。
 ツンケンしているだけかと思ったら、可愛いところもある。

「どういたしまして」
「それから私は、ウィチリカ。ウィチリカ・ダリヤよ」
「ふうん。俺は打佐田ださだ 太一。タイチって呼んでくれればいいよ」
「ふうんってなんだ? 貴様、馴れ馴れしいぞ!」

 やれやれ、またか。
 美少女は泊めてあげてもいいけれど、怒りっぽいオジサンにはぜひ、野宿をお勧めしたい。



 というのは冗談で、お嬢にベッドを占拠され、あとは仲良く
 怒りっぽいおっさんのいびきがうるさくて、ゾンビの方がまだましだ。二人の若い騎士は、おっさんに遠慮したのか部屋の隅で縮こまっている。

「あ~あ、調査隊がこの調子じゃあな。これっていつまで続くんだ?」

 ここで半月暮らすうち、村への思い入れが強くなった。
 飛ばされて、最初に訪ねたこの空き家。
 村人たちは優しくて、行く当てのない俺にここを無償で提供してくれた。
 だからこそ、少しくらいは役に立ちたい。

「骨になると悪さをしないから、火葬すれば一発で収まるのに」

 白み始めた空を見て、ため息をつく。
 ゾンビたちは今頃、墓に帰り着いたことだろう。

「火葬? それって遺体を燃やすの?」

 振り向くと、銀髪の美少女が立っていた。
 貴族にしては、早起きだ。

「おはよう。よく眠れた?」
「ねっ……眠れないわ。あなたこそ、全然寝てないじゃない」

 美少女のそむけた顔が、赤い。
 粗末な寝具で、もしや風邪でも引いたのか?

「熱は……大丈夫そうだな」
「ふえっ? なっ、なななな……」

 自分のおでこと彼女のおでこに手を置いて、熱を測った。それだけで、このうろたえっぷりはなんだろう?

「き、気やすく触らないで! 嫁入り前なんですからねっ」

 たかがおでこで、大げさな。
 まあ、急に触った俺もどうかと思うけど。

 あまりに綺麗な顔なので、現実味を感じない。
 小さな鼻と可愛い唇、目尻の上がった赤い瞳はなんかのアニメのフィギュアのようだ。

「あっれ~? 君、ボクがいないのをいいことに、恋人作っちゃった?」

 じっと見つめたその瞬間、待ちに待った声がした。

「リモ!」

 宙にパタパタ浮かぶのは、神の使いだという羽付きリスのリモ。
 突然の出現に、美少女――ウィチリカがうろたえる。

「リス……よね? どうして羽が付いているの?」
「えっへん。それはボクが、神の御使いだからさ」

 リモは得意げに胸を反らすが、ちっとも偉く見えない。
 戻って来たということは、最高神との交渉が上手くいったのか?

「君って隅に置けないね。帰りたいと言いながら、こんなに可愛い彼女を……」
「まさか」
「違うわ!」

 二人そろって即否定。
 向こうの方が力強く、俺のガラスのメンタル傷ついた。

「ええ~、違うのかぁ」

 だからリモ、なんでお前ががっかりするんだよ。
 俺はウィチリカに向き直る。

「すまない。こいつと大事な話があるから、外してくれないか?」
「べっ、別にいいけど。終わったら、いろいろ聞かせてもらうわよ」
「わかった」

 俺がここに残っていればな、と意地悪く考える。
 ウィチリカは軽く頷くと、部屋を出て行った。
 
「それで? 偉大な神とやらは、間違いを認めてくれたのか?」
「……うう、ごめんなさい。君が神だというのは、ボクの勘違いでした」
「やっぱり」

 リモが空中で縮こまる。
 これでようやく元の世界に戻れるはずだ。
 村のことは気になるけれど、後は本物の神が頑張ってくれればいい。

「じゃあ早速、家に帰してくれ」

 帰ったらまず、面接をすっぽかした企業に謝罪しよう。
 農作業に慣れつつあるので、新たに農業関連の就職先がないか探してみてもいい。
 
 ところがリモは答えない。
 なんだろう?
 とてつもなく、嫌な予感がする。

「リモ、おい、リモってば!」
「……ごめんなさい」
「そんなに謝らなくていいぞ。就職活動中の、息抜きだと思えばいい……」
「違うの! ボクのせいで、君は元の世界に帰れなくなったんだ」
「……は?」

 いきなり頭が真っ白に。
 意味がわからない。
 間違いを認めておきながら、帰れない、とは?

「ボクは神の使いだよ。でも、力を自由に使えるわけじゃない」
「それ、前にも聞いた」
「怒られても仕方がないけど、本当は一度しか使えないんだ。その力を、君をここに呼ぶため使ってしまった」
「だから、偉大な神とやらが俺を元に戻してくれるんだろう?」

 リモはそのために、自分の主に会いに行ったんじゃなかったのか?

「最高神がかかわるのは、神と呼ばれた者にだけ。あの方は、人の世界に直接干渉しないと決めている」
「は? 勝手に決めるな! だったら誰が責任取るんだ?」
「ボクの命と引き換えに、君を戻せないか聞いてみた。けど、やっぱりダメだって」
「ダメってなんだ? それからお前、簡単に自分の命を差し出すな!!」
「だって全部、ボクのせいだから……」

 リモがぽろぽろ涙をこぼす。
 小動物を虐める趣味はないんだけど。

「あーもうっ。最高神とやらはクソだな」
「ボクの主を悪く言わないで!」
「あのなあ。間違いを放置して、命けの願いを聞かないやつがクソじゃないって?」
「違う! リデウス様は解決策をくれたんだ。それには、君の協力が必要なの」
「協力?」
「そう。君はまだ神じゃない。だけど、神になれる素質はあるって」
「はっ。リモはそれを信じたのか?」
「信じるも何も、ボクは君を信じてる。勘違いでもいい。たくさんお祈りされたのは、君が頑張った証拠だ」

 うっかりジンときた。

 二百社以上断られたのは、断られただけチャレンジしたから。
 生きるのさえつらい世の中、自分の価値を認められずに諦めてもおかしくない状況で、俺はなお、前を向こうと努力したのだ。
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