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「うちにようこそ、ルベル」
 父の声が聞こえる。ルベルは、初めての日を思い出していた。

「え、はい……」
 蚊の鳴くような小さな声で、幼いルベルは答える。

「遠慮しないで。私達の家は、本当に弱くて、下級貴族だけど、貴方一人を養うなんて余裕よ」
 母が笑う。

「ほらほら、こちらへおいで、ルベル」
 父が手招きをする。確かに、ルベルの目の前に広がる家は、小さかった。他の大貴族のお屋敷とは比べ物にならないほど小さく。古臭い。使用人も一人しかおらず、馬もいない。それでも、暖かく、優しい家だ。

「……うん! 父さん! 母さん!」
 幼きルベルは笑い、新しい両親のもとへ駆け出す――




「…………んん……」
 ルベルは、軽い頭痛を覚えつつ、目を覚ました。

「お、やっと目を覚ましたかこのねぼすけめ」

「う、あ……そうか、俺はスカーレットにふっとばされたんだった」
 徐々にクリアになっていく思考。そして、先程のシーンを思い出す。

「流石だ、クリムゾン・プリンセス。完敗だ」
 ふぅ、とため息を付き、自分の完敗を告げる。

「ありがとう。だが、お前も強かったぞ。四割ほどの力を出してしまった」

「はは、化け物だな……ところで……」

「ん? どうしたルベル」
 
「…………どうして俺は今、スカーレットの膝の上に頭を乗せて寝ているんだ?」
 そう、ルベルは今、俗に言う『膝枕』の状態で寝ているのだ。

(あれ? これ色々とマズいんじゃね?)
 慌てて頭を起こそうとするが、柔らかい手のひらで押し戻される。

「こーら、まだ起き上がるな。私がもう少し楽しんでからだ」

「お、おいおい、こんなところ誰かに見られたらやばいんじゃないのか?」
 王女と近衛! 夜中の逢瀬! とかいう噂がたったら本当に致命的だぞ⁉

「ん? 見られたらやばいも何も……ほれ」
 クイッとアゴで何かを指し示す。その方向にとてつもなく嫌な予感を感じながら、ギギギ……と錆びたようにゆっくり、ぎこちなくその方向へ向く。

「……あら? 目覚めたみたいよマリベル」

「そうみたいねラミベル」
 
 髪の色以外が全て一緒の、瓜二つの女中二人が、ルベルとスカーレットを窓から見ていた。

「…………ははっ」




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